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かくかくしかじか。

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エッセイ的なお話たちです。
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#短編小説

急行が止まらない街

急行が止まらない街

僕が住む街に、急行は止まらない。

各駅停車を待つ僕の目の前を、
急行が空気を引き裂くように走り抜けていく。
空気の裂け目から生み出された風という風が、プラットホームにたたずむ老若男女すべてに、ビンタをくらわし駈けていく。
その荒々しい風の肌触りが、僕の焦燥感を煽っていく。

「僕も急行に乗せてって!」

心の叫びは、過ぎ去った急行の余韻と共に消えて無くなっていく。



僕が住む街に、急行は止

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どっち?

どっち?

人が生きていくにおいて、いつもはひっそりとしているけど、時に露わになる普遍的な問題がある。

それは死だ。

長い人類歴史の中で、権力という権力を極めたツワモノたちがそのすべての力を動員して不老不死を求めたが、その望みが叶えられることはなかった。とりあえず、今のところは数十世紀を生き、権力を維持し続けた者はいない。彼(彼女)らは紆余曲折を繰り返しながら、最終的に死の門をくぐり、決して戻ってくること

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あんこ

あんこ

あんこが好きだ。
だから、和菓子が好きだ。

あんこが好きだ。
だから、あんまんが好きだ。

あんこが好きだ。
だから、お汁粉が出る季節が好きだ。

あんこが好きだ。
その甘い匂いがお婆ちゃんを思い出させるから、僕はあんこが好きだ。

優しい話

優しい話

寒さに震え、痩せ細った体に染みこむ温かなスープみたいな親切心に救われた、あの日。

干からびて、こり固まってしまった笑顔を潤すコップ一杯の水のようなユーモアに救われた、あの日。

そんな日々が、ひだまりのような優しい話となって心を照らす。

僕のあの日、その日、この日から生み出された優しい話が、また誰かのあの日、その日、この日となる、そんな可能性が物語にはあるのだと思う。

無意味に続けられる行列。

無意味に続けられる行列。

なぜか、そこに横たわる、

特に意味ない、しがない、そんな行列。

毎日、毎日、続けられては、なんでか反応に困ってしまう。

それは自然が生み出したものではなく、人によって作り出されたもの。

積み重なり、増えるごとに、いつしかその全体像を失ってしまったような、

特に意味ない、しがない、そんな行列。

固いニンジン【短編】

固いニンジン【短編】

【あらすじ】
 僕が中学1年生の時、4つ離れた兄がカレーを作ってくれた。だけど、そのカレーに入っていたニンジンは固かった。その時の体験から、僕はニンジンはしっかりと柔らかくなるまで煮込むべきだという「信念」を持つようになったという日常的なお話。あと、ちょっとした愛のお話でもある。

カレーを「おいしく」作るために、大事なことはなんだろう。
隠し味に、こっそりハチミツやヨーグルトを入れること?
また

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あたまボックス

あたまボックス

僕は、「あたまボックス」の中で生きている。
そこで映し出される世界が、僕の世界。

「猫はかわいい」
「キノコは不味い」
「僕は『あの子』が苦手」

様々な認識と実感が、僕の「あたまボックス」の中で繰り広げられている。

もちろん、
「あの子」は、本当はもっといい子かもしれないし、
おいしい「キノコ」もあるかもしれないし、
嫌悪すべき「猫」もいるかもしれない。

それでも、あたまの外にいる彼らとの

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素振りみたいな文章

素振りみたいな文章

僕は文章を書くのが苦手だ。
なぜか書けば書くほどに、言葉は思っていたものとは違った方向に進んでいってしまうからだ。

だけど、文章を書くのは面白い。
書いて直してを繰り返している内に、思っていたのとは違った発見が文章の中にあったりするからだ。

「あるようでなくて、ないようである」
そんなイメージなり思いなりに言葉を着せて、繋ぎ合わせる作業。
読み返す度に、崩壊した日本語の文法や誤字脱字に唖然とす

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歯車2.0

歯車2.0

ぐるぐる、ぐるぐる。
回って、回って、回っている。
様々な意図や衝動をごちゃまぜにして、今日も明日も回り続ける。
そのうち誰かの意図や衝動と別のところで、その歯車は回り続ける。

ぐるぐる、ぐるぐる。
もっと早く、もっと大きく。

ぐるぐる、ぐるぐる。
この回転が、多くの価値を生み出したんだってさ。
その価値によって、狂って押しつぶされる人も生まれたんだけど、
それよりも多くの人が豊かになった。

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