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【LGBTQ+】 映画 『トムボーイ』で溢れた涙


「トムボーイ」とは:
 ボーイッシュで、男の子のように振る舞う女の子、男の子のような女の子のこと

Google「トムボーイ とは」で検索


 私は小学校を卒業するころまで、知らない人から街中で呼びかけられるとき、必ず「ボク?」と言われていました。そんなとき、どっちに呼んでくれてもいいや、と感じていた私はいつも「はい」と、そのまま返事をしていました。


立ち止まって向き合って話していると、ある人は疑うことなく、そのまま私のことを男の子だと思っている人もいたし、またある人は途中で気がついて「あら、ワタシだったの、ごめんなさいね」なんて謝ってくれる人もいました。


べつに謝らなくていいのに、といつも思いながら。だって私は男の子に見られたいわけでも、女の子に見られたいわけでもなかったから。「どっちに見てくれてもいい」正直に表現するとそんな感じでした。



ただ、歳を重ねるにつれてどんどんと男女という性別を意識せざるを得なくなっていきました。それは好きな遊びやモノ、着る服や好きな色まで。とっても窮屈で、どうして自分が好きだと感じるものを曲げてまで、周りに合わせなければならないのか、そうしなければどうして「変な子」として見られてしまうのか。

それがいつまでも分からなかった。分かりたくなかった。


私は、自分が好きだと感じるものを好きでいるだけなのに。



どうして、男の子っぽい女の子じゃダメなの?

どうして、女の子はピンクが好きじゃないといけないの?

じゃあどうして、私は女の子なのに、みんなと違うの?


当時、答えは見つかりませんでした。大人になったいまでも答えなんてものは見つかりません。でも、答えは見つからなくとも、自分のなかにさえ答えがあればそれでいいのだと、そう思い始められたときから心が軽くなりました。


今回は、そんな私の複雑な幼少期の気持ちに寄り添ってくれたような、誰かが共感してくれた安心感のような感覚を抱いた、素敵な映画を紹介します。



幼少期に感じていた自由

あらすじ:
 夏休み。家族で引越してきた10歳のロールは、引越し先で「ミカエル」と名乗り、新しく知り合った子たちに自分を男の子だと思い込ませることに成功する。やがてリザとは二人きりで遊ぶようになり、ミカエルとしての自分に好意を寄せられていることに葛藤しつつも、お互いの距離を縮めていく。しかし、新学期のクラス名簿が掲示されるころ「ミカエル」の名前はなく、「ロール」だと気がつくリザ。夏休みの終わりが近づき、新学期が始まろうとしていた。

公式サイトから一部引用

邦題『トムボーイ』監督:セリーヌ・シアマ



Amazon Primeなどでは有料レンタルになってしまいますが、セクシャルにまつわる幼少期の複雑な胸の内をここまで細かく表現している映画には、あまり出会えたことがないので気になる方はぜひ。



 映画の冒頭に表示される "Tom boy" のタイトル文字は、まさに私のプロフィールにあるマーブル模様のように、青と赤の割合が変化するところから始まります。


さらに、ミカエル(ロール)が車を運転するシーンから始まる映像一つをとっても、ピンク色の靴紐が嫌で取ってしまう描写など細部に至るまで、見事なまでにその複雑な心境が表現されていて、分かる人には痛いほど気持ちがわかる映画だと思いました。


シアマ監督がインタビューで語っていたように、予備知識なしで初めてこの映画を見た人は、おそらく序盤では主人公の性別がどちらか分からない(あまり意識しない)のではないでしょうか。

男の子かな、あっ、女の子だったの? といったように、性別を描いた作品であるにも関わらず、途中までは性別を無意識に判断する構図になっているというか、その理由は「まだ子どもだから」なのかもしれませんが、とにかく繊細で複雑な気持ちを描いた作品でした。


ただ、最後の辺りにはとても辛い描写もあるので、どうか自分の気持ちを最優先に鑑賞してください。

ここからは、どのように私がこの作品に共感して、涙を流したのかを書いてみます。


幼少期の自由さ

 幼少期のころ、私は自由を感じていました。身体的にも男女の違いがまだそこまで顕著じゃなく、性別から少し距離がある感覚があったからです。女の子も男の子も混じって、外でワーワーキャーキャーと一緒にグラウンドで遊べる年齢のころ。



私自身も幼少期から外遊びが大好きで、公園やグラウンドで近所の子たちといつも野球やサッカーをしていました。同じ時間帯に、公園になんとなく集まってきた子たちと遊ぶ。みんな学年が違ったりして、お互いのことをあまり詳しく知らない。



そんなとき、私はいつも「男の子」だと思われていました。身長などの身体的な特徴を取っても男女の差がまだあまりなく、さらには私が着ている服も、髪型も、男の子のそれだったからです。だから逆に「女の子だよ」と一言でも発しようものなら「どうして女の子なのに、そんな格好をしているの?」と不思議そうな目と質問攻めにあってしまっていました。

私はそれが鬱陶しくて「男の子に見られていること」を肯定することもなく否定することもなく、そのまま周りから男の子として見られたまま、過ごしていた時期があったのです。


ただ、もちろんそれと同時に、私のことを「女の子」だと知る人からの不思議そうに様子を伺う視線にも気がついていました。それは親御さんからの目だったり、友人だったり、街の人だったり。


私は現時点で男性になりたいと思っているわけではないので、本作『トムボーイ』で描かれているミカエル(ロール)とは異なるかもしれません。けれど、映画館で一人この映画を見たとき、思わず泣いてしまったのです。厳密に言うなら、泣いてしまった、というよりは密かに涙が流れてきたという感じでした。


そのとき、泣くようなシーンでは全くなかったのですが、ミカエル(ロール)が好きな女の子であるリザと心のままに一緒に踊るシーンがあり、そこで「あぁ、良かったね」と思ってしまって。

この映画を見ながら、忘れかけていた(もしくは、忘れようとしていた)自分が幼い頃に抱いていた、よく分からなかった感情とかを思い出して「そうだった、痛いほど分かる」と密かに涙を流して。でも、見終わったあとにはそれらの涙が蒸発して、心が浄化されていくようなスッキリとした感覚がありました。


もしかしたら、私だけじゃなかったんだ、あのころの私の気持ちをちゃんと分かってくれる人がいた、と細かな描写から伝わってくるその数々のメッセージが私の心に寄り添ってくれたからなのかも知れません。


思い出していたこと。たとえば、大きなお花のブローチが付いたパステルカラーのサンダルがどうしても嫌で、わざとボロボロに履き潰して、ずっと兄のお下がりの真っ黒のサンダルを履いていこと。


イチゴ柄のパジャマが嫌で、ウルトラマンのパジャマしか着なかったこと。

ディズニーランドにあったゴーカートや、車のおもちゃがずっと大好きだったこと。


幼稚園でのなわとびの色だって、本当は青色が良かったのに、女の子の私はピンク色しか選べなかったこと。


野球やサッカーをしていたら不思議がられて、中学校からは好きなスポーツを続けられなかったこと。


同性の子への恋愛感情に気がついたとき、自分で自分のことを気持ち悪いと嫌悪感を抱いてしまったこと。


好きな服装をして、好きな髪型にしているだけなのに、周りから「男みたいで変だ」と言われ続けてきたこと。


そんな自分を自分自身で否定してしまったこと。


どれもこれも、もういっそのこと忘れてしまいたかったのか、大人になったいまは思い出すことなんてありませんでした。でも、やっぱり心のどこかに残っていたのか、映画を見ながら涙を流して「あぁ、自分だけじゃなかったんだ」ってそう思えたとき、ふと心が軽くなったのです。

色んなことを思い出しながら、思いを巡らせながら、いま本当に自分が好きな服を着ていることや、幼少期から好きだった車を運転していること、自分がしたい髪型で過ごしていること。

もう他人の目を気にしなくていい、もしくは、自分は自分だと割り切れていること。それら全てに満足しながら、自分を自分で大切にできていることを実感しながら、過ぎ去った幼少期の葛藤をこの映画を観ながら浄化しました。




スッキリと晴れ渡った心に現れた2つのレインボー

 そんなふうに、この映画を見終わって一人で映画館から車を飛ばして家に帰ったら、大雨が降ってきて、そう思ったら急に晴れだして、雨上がりの空には綺麗なダブルレインボーがかかっていました。

まるで私が、涙の大雨を降らして、それが蒸発して、スッキリと心が晴れ渡ったことを表すかのように。

さらに、晴れ渡った空には虹がかかっていた。それも二つ。


なんて、私らしいんだろうと、虹を見ながら思わず笑ってしまいました。

できすぎた話だと思われてしまうかも知れませんが、本当にあった話です。

🌈ダブルレインボー🌈


性別って一体なんだろう、そんなふうに物心ついた時からずっと考えていて、今もずっと考えている。けれど、自分の道を歩もうと覚悟を決めたら歩める可能性があるこの時代にせっかく生まれてきたのだから、自分が自分に生まれてきた意味を存分に楽しんで、生きていこうと思います。


この記事を読んで映画『トムボーイ』が気になった方は、ぜひ観てみてください。

ただ、既記のようにミカエル(ロール)にとって非常に辛い描写も含まれているので、観ていて心がしんどいと感じたときは観るのを止めて、自分の気持ちを最優先にしてください。


物語だと分かっていても、ミカエル(ロール)の幸せをずっと願ってしまう、そんな素敵な映画です。



いつも「スキ」や「フォロー」、「コメント」も本当にありがとうございます。
いつも様々な形で励まして下さるそんな貴方に、私の文章がなにかをお届けできていたら嬉しいです。

それでは、みなさま素敵なGWをお過ごしください!!

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