見出し画像

(45)ソフィアとのダンスーーchinko to america by mano

 ホセたちのアパートには、すでにたくさんの人たちが集まっていた。
 アパートの中に入り切れない参加者たちは、外の芝生のところにたむろしている。この辺りの住人は学生ばかりで、そのうちの多くがパーティー参加者している。そのため、週末はどれだけ騒いでも文句を言う者はいない。
 
 友人たちと挨拶を交わすと、オレはすぐにソフィアの姿を目で追った。今夜はニックがソフィアのエスコート役のようになっていて、彼女がパーティーの参加者たちから取り残されないようにその場にいた人たちに紹介して回っている。ニックには、こうした優しいところがある。
 ソフィアはニックと連れ立って、色々な人と挨拶を交わしている。元々、明るい性格だし、とてもチャーミングなので、すぐに打ち解けているようだった。
 ソフィアのことばかり考えていると心臓がパンクしてしまいそうなので、オレは少し力を抜き、持参したビールを飲み始めた。アパートの大きなリビングルームでは、DJ役のフェルナンドが音楽を流している。

 毎度のことだが、ラテンの人たちは音楽を聞くと反射神経的に体が動いてしまうようで、早くもペアができあがり、数人が踊り始めている。
 こうした行動はオレからはまったく出てこない。それだけに、音楽と彼らの親密度にはいつも感心させられ、「自分も彼らのようになりたい」と憧れを抱き続けていた。
 彼らのように振舞えないオレは、ビールを2、3本飲むと、男友だちとのバカ話にいつも夢中になり、女の子に声を掛けて踊るのを忘れてしまう。
 そして、この日もそうだった……。
 
 ホセのアパートに来てから1時間以上も経っているのに、オレは相変わらずニックたちとビールを飲んでいた。
 ソフィアのほうをちらちらと見ると、コロンビア人の女の子たちと楽しそうに話をしている。その様子を見て、オレは再びニックたちの会話の輪に戻っていった。
 引き続きリビングルームのフロアに背を向けながら話していると、ニックの視線が急にオレの背後に移動して、少し驚いたような気配を帯びるのがわかった。それを見て、「ん? どうした?」と思った瞬間、誰かがオレのシャツの袖を引っ張った。すぐに振り返ると、そこにはソフィアが微笑みながら立っている。
「ソフィア! どうしたの? 楽しんでる?」
 いきなりの登場にかなり面食らったが、気を取り直してすぐに声を掛けた。だが、シャツの袖を引っ張られた瞬間に、オレは自分の過ちに気づく。彼女はオレと踊りたいと思い、わざわざ来てくれたのだ。

             **********  

電子書籍化してみました。続きをお読みになりたい方は、ぜひぜひ下記URLへ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?