マガジンのカバー画像

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」曾祖父母編

12
小西大樹の母方の曾祖父母達の物語です。大樹の性格のルーツはこの辺からかもしれません。
運営しているクリエイター

記事一覧

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#12  柴田成保④

母は、しゃくり上げながら泣いてしまった佐喜代を見ては、空(くう)を見つめて、また彼女を見てを繰り返しておりました。
私はとうとう我慢が出来ずに彼女を抱きしめて、背中を優しく……の積もりが、少し強かったでしょうか、佐喜代がふうっ、と息を吐きました。

「佐喜代……こんな事は有り得ないから。大丈夫だから。私の本意では無いから。安心しなさい。」

「…………。」

佐喜代は声も出せません。はらはらと涙が

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#11 柴田成保③

事実を代田家に告げて貰ってからしばらくして、あちらの御当主の従兄弟にあたる方が回答を持って来られました。

私は生憎と留守にしておりました。

「成保、成保は何処です。おミツ、成保をあたくしの部屋へ呼びなさい。直ぐにね。」

母は、普段よりも忙しなく女中に私を連れて来る様に言い付けた様子でした。

「坊ちゃま、お願い致します。お早く奥様のお部屋へおいで下さいまし。どうかお早く!」

おミツは息せき

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#10 柴田成保②

私は賭にでました。両親に頼み込み、佐喜代を妾として囲いたい、と。言葉が悪いのは百も承知です。佐喜代を囲い者と呼ぶなどと……本来ならばしたくは有りません。

しかし、彼女の一生を責任を持って預かりたい。叶うなら、共白髪になるまで寄り添いたい。

正妻となるお嬢さんには申し訳無いと思います。そちらのかたにも責任を持たなくてはならない。出来る事ならば愛情もそれなりに与えなくてはならない。

それには、事

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#9 柴田成保①

私は柴田成保(しばた しげやす)といいます。柴田家長男で、一人息子です。斎藤家に嫁いだ4歳上の姉がおります。

この度、幾重もの試練を乗り越えまして、ようやく身を固める事が出来ました。

試練とは大袈裟な、と言ったご意見が有るでしょうが、私にはれっきとした試練で有りました。

まず、身分違いの相手に惹かれてしまったこと。その人を諦められなかったこと。家を、両親を捨てようとまで思い詰めてしまったこと

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#8 中谷佐喜代④

一晩我が家に泊まって、お義姉さんは翌日の早朝、朝もやがたちこめる中を出発されたのでした。

「ああ、佐喜ちゃんとゆっくり話せて良かったよ。本当はさ、こんな広いお家の掃除でも手伝ってやりたいんだけどねえ。実家に帰る、って嘘ついて出て来たからさあ、一応本当に寄ってって来るわ。佐喜ちゃん。色んな人に可愛がって貰うんだよ。それがあんたの取り柄なんだからね?後は無理すんじゃないよ。あんたの兄さんもああは言っ

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#7 中谷佐喜代③

「……何だって?佐喜ちゃん、あんたまだちゃんとした妾になってないのかい。」
「はい……だって、成保様の御結婚が本決まりになって、来月にはお式が執り行われますから、先ずはそちらを優先致しませんと。」
「それは、柴田家のお言いつけかい。」
「いえ……それは、私のお願いを成保様が聞いて下さって。」

「だろうね。あんたが考えそうな事だよ。全く似たもの兄妹だよ。変なとこでお堅いんだから。旦那様も大変だね。

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#6 中谷佐喜代②

「お…お義姉さん……い、いらっしゃい。あの、良く此処をご存知で。」

兄嫁のみ祢(みね)さんでした。私は兄夫婦に育てられた様な者です。お義姉さんが母代わりでした。

「お久しぶり、佐喜ちゃん。ちゃんと食べてる?少し痩せたんじゃないの。」
久しぶりに会うお義姉さんは、何でもお見通しだったのかも知れません。私がこの所、成保坊ちゃま……いえ、旦那様の妾としてこの住まいをご用意頂くと決まるまで、様々な方に

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#5 中谷佐喜代①

私は尋常高等小学校を卒業したのちに、お嫁入り前の行儀見習いの名目で、女中として柴田家のお屋敷に奉公に上がりました。

私は中谷佐喜代(なかたに さきよ)と申します。実家は小さな問屋を営んでおります。柴田家に出入りをしている行商人さんの口利きで、お勤めに上がれました。

最初は下働きから始まりましたが、ある日、ひょんな事がきっかけで、旦那様や奥様に私が少しだけ字が読めたり、文が書けたり、算盤や帳簿付

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#4 柴田芙美香④

その女中頭は、柴田家で10年以上も昔から行儀見習い奉公として世話になっていたこと。

女中頭が坊ちゃまである成保様をたぶらかしたのではなくて、成保様が見初めたこと。

あたくしとの縁談が持ち上がる前から、成保様は女中頭に惹かれていたこと。

成保様のお母様が彼女を重宝されて、気に入られていること。また、お父様も可愛がっておられるとか。

当初、彼女は成保様をお断りし続けていたが、縁談話の浮上から態

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#3 柴田芙美香③

お母様がとつとつと理由を語り始めました。
あたくしは途中から、怒りと情けなさが湧き上がって来てしまい、ついお母様に口を挟んでしまいましたの。お行儀なんて弁えてはおられません。

「な……んですって!あたくしが嫁ぐ前から、成保(しげやす)様には妾がいらした、ですって!!婚約式は先々月でしたのよ!馬鹿に為さるのも程が有るでしょう!」

お父様がやっと重い口を開かれましたわ。

「芙美香。先様は、その婚

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#2 柴田芙美香②

お父様が険しい表情をなさっている。お母様は今にも泣きそうなお顔だわ。

先程、あたくしの嫁ぎ先予定である柴田家からお客様がいらしていたけれど、あたくしは応接間には呼ばれませんでしたの。……まさか、来月か再来月かと云われているお式が……まさか?破談?

女学校時代のお友達からも、そんな惨い事がいきなり青天の霹靂の如く起こるとは聞いておりましたけれど。まさか?

「そこへ座りなさい。」
お父様、あたく

もっとみる

小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#1 柴田芙美香①

小西大樹(こにし ひろき)の母、清子(きよこ)は、生家は本橋家であるが、15歳の時に母親の本橋美代子(もとはし みよこ)の元婚約者であった川崎善次郎(かわさき ぜんじろう)氏の養女となり、そこから小西家へ嫁いだ。

小西清子(こにし きよこ)の母、本橋美代子……もまた、幼い頃、生家を離れて養女となり、柴田家へ引き取られた。

これは、小西大樹の曾祖父母世代の物語である。

____________

もっとみる