小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#3 柴田芙美香③

お母様がとつとつと理由を語り始めました。
あたくしは途中から、怒りと情けなさが湧き上がって来てしまい、ついお母様に口を挟んでしまいましたの。お行儀なんて弁えてはおられません。

「な……んですって!あたくしが嫁ぐ前から、成保(しげやす)様には妾がいらした、ですって!!婚約式は先々月でしたのよ!馬鹿に為さるのも程が有るでしょう!」

お父様がやっと重い口を開かれましたわ。

「芙美香。先様は、その婚約式の後で真実を知り得たらしいのだ。しかも……その相手という者がだな……。」
「全くなんて事でしょう!!柴田家の女中頭というではありませんか!!」

「……女中……頭……。」

両親が顔を紅潮させて怒りに震えている様なぞ、あたくしの眼にはひとかけらも映っておりませんでした。

「……それで?お父様、お母様、あたくしはその女中頭に負けた、というお話なのでしょうか?」

「それなのですけれどね、芙美香。あちら様は、既に妾宅を構えて、囲っているのです。もし、貴女がその行為を許すとするならば、この婚姻はそのまま執り行う事と願います、との言い分なのですよ……いくら貴女が行き遅れの娘であろうと、代田家が格下であろうと、この様な馬鹿にされた条件下の婚姻など……考えずにおられましょうか!」

「うむ。さすがに大口の取引先の柴田家といえども、正妻の前に妾を囲うなど言語道断だ。馬鹿にするのにも程度が有る。どうする、芙美香。わたしはお前の意見も聞くぞ。当事者はお前だからな。」

いつもよりも語気の強いお父様の仰り様に、お父様のお怒りが手に取るようにあたくしにも分かります。

「どんな……方なんでしょう。その女中頭とやらは。」

「芙美香?そんな事を知ってどうするというのです。」

「芙美香。女中頭と言っても、だな。」

お父様がお顔を曇らせたまま、お話してくださいました。

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