小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#10 柴田成保②

私は賭にでました。両親に頼み込み、佐喜代を妾として囲いたい、と。言葉が悪いのは百も承知です。佐喜代を囲い者と呼ぶなどと……本来ならばしたくは有りません。

しかし、彼女の一生を責任を持って預かりたい。叶うなら、共白髪になるまで寄り添いたい。

正妻となるお嬢さんには申し訳無いと思います。そちらのかたにも責任を持たなくてはならない。出来る事ならば愛情もそれなりに与えなくてはならない。


それには、事実を告げて、状況を理解した上で結婚をしなければならないだろう。

婚約式までは真実を伏せる。その後、親戚達に公表し、代田家へお伺いを立てて欲しい。

あちらがそんな馬鹿な話は無い、この縁談話は無かった事に、と怒鳴り散らすかもしれない。……その時は、その時だ。佐喜代だけでも柴田家を出て貰い、一軒の屋敷を構える所存です。


「成保……。お前はそこまで佐喜代を好いているのか。」
「はい。父様が彼女を妾にしても良いとお許し下さいましたので、私はとても嬉しかったです。感謝致します。」

「もし、先様がお断りなさったらどうするおつもり?出来れば佐喜代を手放したくはないのよ。このまま柴田家に置いておけないものかしら。」
「母様……佐喜代を手放したく無いお気持ちは分かります。ですがこのまま、この家で女中頭として勤めさせるわけにはまいりません。他の奉公人にも示しが付かなくなりますから。」

「まあねえ。あの子の事ですもの。朝から晩まで働き通してしまうでしょうね。」

「成保。お前はそれでいいのか。佐喜代を囲って、正妻を迎えて。」

「旦那様、良いも悪いもそもそも選択肢などございませんでしょう。あたくし達でさえ、家の話し合いで婚姻を結びましたのよ?いくら時代が異なったとしても、柴田家の存続を第一に考えて貰わねば困ります。」

「う、ううむ……。」

まるで母親に責められている息子の様な父である。母は武家にも公家にも親類縁者があり、世が代なら「お姫様」として大切に扱いを受けていたらしい。
時代は目まぐるしく変わるもの。ふた昔以前の世だとしたら、柴田家には嫁いでは来なかったと推測されます。


両親の承諾を得て、叔父に事の詳細を代田家へ告げて頂きましたのは、それから三月後のことでした。

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