小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#4 柴田芙美香④
その女中頭は、柴田家で10年以上も昔から行儀見習い奉公として世話になっていたこと。
女中頭が坊ちゃまである成保様をたぶらかしたのではなくて、成保様が見初めたこと。
あたくしとの縁談が持ち上がる前から、成保様は女中頭に惹かれていたこと。
成保様のお母様が彼女を重宝されて、気に入られていること。また、お父様も可愛がっておられるとか。
当初、彼女は成保様をお断りし続けていたが、縁談話の浮上から態度が更に変わられた成保様の真摯なお心に打たれてしまい、発覚後に大金を目前に積まれても首を横に振り続けたこと。
そして極めつけは、跡取り息子の座を放棄して、成保様がその女中頭と駆け落ちを目論んでいたこと……。
ご説明に当家にいらした、現当主の実弟の方は、成保様の叔父様にあたる方だそう。
もし、成保様が駆け落ちを為さっていたら、その方が次代の柴田家当主になるはずだったとか。
「まるでこの縁談を壊されにいらした様ではございませんか……お父様。」
「どうとでも取れる。成保さんが駆け落ちして柴田家を捨てたらば、彼は準禁治産者となるらしい。そして当主の弟が彼の全ての財産管理をし、跡を継ぐ者となる。当のご本人はいきなり降ってわいたお家騒動に困惑しておられた様だがな。」
「……では、あたくしはどうしたら宜しいのでしょう?まさかあたくしの胸ひとつ、などとは仰いませんでしょうね。」
「芙美香、なんです、そのものの言い様は。」
「だから先程から言っておるではないか。芙美香、お前の意見も聞く、とな。」
……も?でしたら、お父様は既に結論を出されていると言うお話じゃ有りませんの?
あたくしの意見を聞いて頂いた所で何ら変わり様でもお有りですか?
「あたくし……一度、その女中頭とやらに会ってみたいですわ。」
「芙美香?何を言っているの!常識外れもいい所ですよ!婚約者とそのお相手の妾などが会うなどと!」
「芙美香は妾に会ってどうすると言うのだ。文句の一つでも言うか?それとも、別れさせるつもりか?」
「他に通う方がいらしても不思議は無いのでしょう?世間では妾の数名くらいは当たり前になっていると聞いております。」
「貴女、そんなお話をどこから……。」
伊達に婚期は遅らせておりませんわ。お母様……。
その妾は、既に柴田家からお暇を頂いて女中頭を退かれたそうでしたの。
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