小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#2 柴田芙美香②

お父様が険しい表情をなさっている。お母様は今にも泣きそうなお顔だわ。

先程、あたくしの嫁ぎ先予定である柴田家からお客様がいらしていたけれど、あたくしは応接間には呼ばれませんでしたの。……まさか、来月か再来月かと云われているお式が……まさか?破談?

女学校時代のお友達からも、そんな惨い事がいきなり青天の霹靂の如く起こるとは聞いておりましたけれど。まさか?

「そこへ座りなさい。」
お父様、あたくし聞きたくはありませんが。

「……はい。」
一応素直に座りました。畳替えしたばかりなので、少々香りがきついのです。このお部屋の空気と相まって、重苦しいですこと。

「つい先程、柴田家の御当主の実弟が訪ねて来られた。」
「はい……。」
「来月の婚礼は一時延期とした。」

「はい……え、延期?」
破談ではありませんの?

お父様はそれきり口をつぐんでおしまいになりました。その代わりに今度はお母様が応えられました。

「芙美香、これは我が代田家にとっても大事な問題なのです。勿論、貴女にとっても同じ事だと思いなさい。」

「……はい。」
政略結婚は常識である前に当然の事で、両家の損得勘定に則り取り分け娘たちは品物の様に取引先へと売られて参ります。

あまり良くないお噂もちらほらあたくしの耳にも聞こえておりますのよ。お母様……。売られた先のご事情など。

あたくしはお嫁入りについては大層遅れておりますほうですわ。
もしかしたら、こちらが破談にでもなったら、代田家に多大な損害をこのあたくしが与えてしまうかもしれませんわね。

そして、これが最後の機会でも有るかと。
二十歳を過ぎて、未だお輿入れしていないなどと、有り得ませんもの。

いつの間にか、お母様の泣きそうなお顔が、少しずつ怒りの表情に変わっていらしたのでした。

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