小西大樹「ルーツはここからかもしれない」#9 柴田成保①

私は柴田成保(しばた しげやす)といいます。柴田家長男で、一人息子です。斎藤家に嫁いだ4歳上の姉がおります。

この度、幾重もの試練を乗り越えまして、ようやく身を固める事が出来ました。

試練とは大袈裟な、と言ったご意見が有るでしょうが、私にはれっきとした試練で有りました。


まず、身分違いの相手に惹かれてしまったこと。その人を諦められなかったこと。家を、両親を捨てようとまで思い詰めてしまったこと……。

全く浅はかな、世間知らずの自分に嫌気が差しました。

もう少しで全てを台無しにしてしまう所でした。
佐喜代がそんな私に、良く、付いて来てくれると言ってくれたものだな、と思います。
彼女はとてもしっかりしている。

もし、私が柴田家を捨てていたら、無一文は当然の事、未来永劫財産を生み出す事が適わない人間に成り果てていたでしょう。

すんでの所で気付いて良かった。佐喜代に苦しみを味あわせる所でした。

私は佐喜代を選びましたが、彼女の家とは釣り合いが取れない。ではどうするか。
幸い両親も佐喜代を気に入っていました。特に母はとても彼女を女中頭として重宝していました。
これは、もしかしたら、上手く行くかもしれません。
後は、我が柴田家にその事を承知で嫁いでくれるお嬢さんが見付かれば良い。

酷い人間だと思われてもいい。
佐喜代を、家を、両親を、事業を、果ては一族を守り抜くには、これしか考えられませんでした。

今年に入ってすぐのこと。私に突然縁談話が持ち上がりました。お相手は我が家の取引先銀行の上層部の方のお嬢さん。二十歳になったばかりの方だそうです。結婚相手としては、少し……お年を召していると思われます。私もそうなので、年齢的にも釣り合うと判断されたのでしょう。

因みに私は26歳です。佐歳です。佐喜代の縁談話も幾度となく持ち上がりましたが、母があまり乗り気ではなくて、選りすぐり過ぎ、結局行きそびれておりました。私としてはほっと胸をなで下ろす気分だったのですが。

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