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Berlin, a girl, pretty savage

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遼太郎の娘、野島梨沙。HSS/HSE型HSPを持つ多感な彼女が日本で、ベルリンで、様々なことを感じながら過ごす日々。自分の抱いている思いが許されないことだと知り、もがく日々。 幼…
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2023年2月の記事一覧

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Moment's Notice #3

Emmaは首筋や手首足首に蝶や鳥、ハートなどのモチーフで小さなタトゥーを入れており、アーティストとしての梨沙の感性を刺激した。 「Emma、それ、もしかして…」 「これ? Tatooよ。日本ではやらないの?」 「…あんまりやってる人、見たことない」 「そうなんだ。こっちではみんなやってるよ。ファッションみたいなものね」 「それ、剥がれたり消えたりする?」 「消えないわよ。彫って、そこにインクを入れるんだから」 「彫る? 身体に? シールじゃないの?」 「そうよ。最初はちょっ

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Moment's Notice #2

9月になり、いよいよGymnasiumでの高校生活が始まった。 最初に簡単なクラス分けテストが行われ、割り振られたクラスには他国の留学生が他に2人いた。ポーランド人の女の子とトルコ人の男の子。 トルコ人と聞いてYasminは元気かな、と思い出す。 語学学校在校中は本当に良くしてくれた。本当のお姉さんみたいだった。連絡先を交換したが、まだ連絡はしていない。 ポーランド人のJulia(ユリア)は母親がドイツ人とのことだったが、国籍は父方のポーランドだという。そう聞いて梨沙は

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Moment's Notice #1

Gymnasium(高校)での授業開始に備え、梨沙は遼太郎に連れられベルリン市内で一軒家を構えているホストファミリーのSchulz家に移った。学校の提携先として予め決められていた家だ。 Schulz家はこれまでもアジア人は何人か受け入れた事があったが、日本人は初めてとの事で、家族も興味津々のようだった。 「リーザ(梨沙のドイツ語発音)、よく来てくれたわね。ここにいるあいだは私があなたの母親代わり、この子はお姉さん代わりよ。遠慮なく何でも言ってちょうだいね」 出迎えたFr

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #12

アパートメントホテルに戻り、2人はこれからどうしようかと話し合った。 「予定では明々後日には日本に戻る予定だけど」 「…」 梨沙は身を固くした。 「梨沙を一人にしておくことは出来ない」 その言葉にピクッと身体が反応する。だがその先の言葉は、梨沙の思い通りにはいかなかった。 「一緒に日本に帰ろう。留学はこの先にも出来る機会はある。今のままでは無理だと思う」 「…」 「俺がここに残ることも含めて色々考えたんだが、やっぱり家族みんなでいる方がいい」 梨沙を虚無が襲う。

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #11

翌朝。 2人でアパートメントホテルを出て、一緒にU-Bahnに乗り込む。 車内は狭く、ガタガタと固い乗り心地だ。2人のお出かけではいつもはしゃぐ梨沙も流石に大人しい。遼太郎は不眠のためか眉間にずっと皺が寄っている。 今日は学校に行くと言った梨沙に、遼太郎は送る、と言って出てきた。それも、校門の前まで。 「授業が終わる前に連絡して。迎えに行く」 「そこまでしなくても…」 「いいから。あと、帰ったらちゃんと今後のこと話そう。頓服、持ってきてるよな?」 「うん…」 「ヤバいと

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #9

瞼の裏に真っ白な光を感じて梨沙が目を覚ますと、激しい頭痛で顔をしかめる。二日酔いのようだ。 白いカーテンの外はかなり明るく、もう日が昇ってしばらく経っていることを表している。 横を見ると既に遼太郎はベッドの上で身体を起こし、こちらを見ていた。 「パパ…」 「今日、学校、休むだろ?」 眠れていないのか、虚ろな表情で遼太郎は訊いた。 「…行く」 多少の責任を感じそう答える。 「行けるわけ無いだろう、そんな身体で」 「大丈夫だから…」 「お前の大丈夫は信用できない」

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #8

遼太郎はすぐに梨沙のスマホに電話をかけるが案の定、呼び出し音が鳴ることはなかった。上着を羽織り、外へ出る。 スマホを操作して梨沙の位置情報を取ろうとしたが、機能をオフにしているのか、取得ができなかった。 遼太郎は舌打ちをし、タクシーを捕まえOstbahnhofを目指した。梨沙のことだから、極端な刺激を求めてクラブで自暴自棄になっているかもしれない。あの辺りは夜遊びスポットが集まるエリアだ。 タクシーを降り、とりあえずクラブなどを見て回る。あいつが行きそうな場所はどこだ…

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #7

学校から戻り、一人きりの部屋。 カレンダーを見ると、遼太郎の帰国日までもう同じ曜日を迎えることはない。 焦りと不安で、落ち着かない。 ひとりになる。 生まれて初めて、長い時間離れて暮らすことになる。 窮屈な日本を離れたのは良いけれど、ひとりになりたいわけじゃない。 現実が、迫る。 タブレットを取り出し、あの『絵』を開く。 小学生の頃から描いている、剣を振りかざすミカエルの絵だ。 指で絵の上の髪、瞳、そして左肩の傷のラインをなぞる。 * 梨沙はキッチンからナイフを

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #6

1ヶ月はあっという間だ。 梨沙の描いた理想の暮らしも残りわずかとなってきた。 残り少ないから一緒に外で食事がしたいとねだり、遼太郎の仕事終わりに待ち合わせた。 であれば、と遼太郎は自分が結婚前に赴任していた際に住んでいたというKREUZBERGに繰り出すことにした。子供の頃住んでいたNEU-TEMPELHOFからさほど離れていないエリアだ。 Yasminも確かこの辺りに住んでいると言っていた気がする。それを遼太郎に話すと 「確かにあのエリアはトルコ系の人がたくさん住ん

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #5

ホロコーストについてのサブストーリー 8月のベルリンの日は長い。 もちろん最も長いのは夏至の時だが、それでも8月中は21時くらいまで日は沈まない。地元民も観光客も、長い1日をたっぷりと楽しむ事ができる。 そんな8月も半ばの土曜日。 朝早くから遼太郎は梨沙を連れてHauptbahnhof(ベルリン中央駅)に出た。朝の弱い梨沙は口数が少なかったが、朝ごはんとして構内でWurst(ホットドッグ)を2人で食べたら、途端に元気になった。 ベルリンのホットドッグは、外はややカリッと、

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #4

シャワーを浴び終えた遼太郎が寝室に行くと、梨沙は既に自分のベッドで眠っていた。昼間の怒りで相当疲れたのだろう。 しかし遼太郎がベッドに入るともぞもぞと起き出し、父のベッドに潜り込んできた。 「あぁ、ごめん。起こしちゃったか」 梨沙は黙って首を横に振り、抱きついてきた。 「ぎゅってして」 「毎日飽きないね、お前も」 「家の中だったらいいんでしょ?」 よくないと言ったって梨沙は態度を変えないだろう。遼太郎は両腕で梨沙の身体を包むと言った。 「梨沙は今まで好きな人出来た

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #3

週明けの学校で席に着く際にElianaと目が合う。途端に昨日のことを思い出し、梨沙は嫌な気分になった。 するとElianaは梨沙をあからさまに子供扱いした上で言い放った。 「あら、おチビちゃん。昨日は随分いい歳した男と見せつけてたわね」 「何ですって?」 「あなた、蕩けたいやらしい顔して、白昼堂々とあんな場所でイチャイチャして。男の方も子供同然の女と腕組んで歩いて。あの後はどっかの宿にでもしけこんだの?」 その時の梨沙はまるでアニメーションのように、首から徐々に頭に血が