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Berlin, a girl, pretty savage

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遼太郎の娘、野島梨沙。HSS/HSE型HSPを持つ多感な彼女が日本で、ベルリンで、様々なことを感じながら過ごす日々。自分の抱いている思いが許されないことだと知り、もがく日々。 幼…
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2023年1月の記事一覧

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #2

遼太郎との滞在が始まった最初の週末、2人は市内のショッピングモールに出かけた。 もちろん梨沙にとっては、音・光・人混みの三大苦の場所であったが、父と一緒だと耐えられる。不思議だった。 恥ずかしいからだめだと言う遼太郎の言うことを聞かず、梨沙は腕を絡めて歩く。 梨沙の着ている大きなサイズの黒いプルオーバーパーカーは遼太郎のものだ。それをワンピースのように着、細い脚を際どく覗かせている。 自分の荷物を漁って着る梨沙に遼太郎は自分の服を着ろと嗜めるが「もう着ちゃったもん」と舌を

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Father Complex #1

ベルリンの中心を流れるシュプレー川。その中洲となっているムゼーウムス島の突端に野島梨沙は立っていた。 名前の通りこの中洲には多くの美術館や博物館があり、中央部にはシンボリックなベルリン大聖堂が鎮座している。 小柄で、ミニスカートから覗かせた脚は細く、少年のように痩せた身体をしている。そのくせ頬はぷっくりと丸みがある。 輝くほど艶やかな黒髪はショートボブで、きれいに内巻きにされている。 大きな瞳は母親譲りだろう。 それらのためか歳よりも幾分幼く見える。 8月の高い青空を見

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #18

中学3年生になった梨沙は、高校からドイツに年間留学したいと言い出した。高校には交換留学制度があり、当然それを目的として入学したつもりだった。 以前から話を聞いていた遼太郎は何とも言わなかったが、夏希は大反対であった。 「何度言ったらわかるの? 家族が1年間も離れ離れになるのは絶対にだめ! それに大学でならまだしも高校でしょう? 早過ぎるわ」 「どうしてよ!? 高校で留学制度があるってこと自体、行ってもいいってことじゃない! 何のために入った学校なのよ! 」 「短期の選択肢だ

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #17

そしてまたまた小事件が発生する。今度は家で。梨沙が中学2年の秋。 いつものように夕食を取るのに遼太郎の帰りを待つ梨沙に、先に夕食を終えた蓮が、夏希が風呂に入っている間にこう言った。 「お姉ちゃんさ、いつまでお父さんに甘えてるの? もういい歳のくせにさ」 普段口数も少なく大人しい蓮が、梨沙に対して攻撃的なことを言うのは珍しいことだった。梨沙自身も驚いたが、近頃のアンガーマネジメントもあり、初めはグッと我慢した。 けれど蓮も、いつか言ってやろうと思っていた。 お姉ちゃんが

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #16

梨沙は学校での出来事が堪えたと見え、校内では大人しく過ごすようになった。 以前から交流のあった子も含め、女友達と呼べる子も数人出来た。あまり深入りせず、あっけらかんとした彼女たちといるのは苦痛ではない。彼女たちもまた、女の子特有の団結力やゴシップ話題が苦手な子たちでもあった。 男子学生も梨沙に関心を示すが、梨沙はそういう連中はまるで相手にしなかった。むしろ男子を避けたがった。 あれから教頭は担任の対応に対し、指導を行った。梨沙の発した「どいつもこいつも、みんな私のせいにす

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #15

『梨沙、今どこにいる?』 夏希から "梨沙が帰ってこない。電話にも出ない" と連絡を受けた遼太郎はすぐに梨沙の携帯に掛けた。19時を回っていた。 「学校にいる」 『学校? こんな遅くまで何してる?』 「小学校なの」 『小学校?』 *** 「野島さん? 久しぶりね!」 出迎えたのは堀だ。 小学校の図書室で一人ぼっちでいた梨沙に声をかけ、絵画クラブへ誘ったベテラン教師。 受付から自分宛てに卒業生が来客で来ていると伝えられ出てみると、それは野島梨沙だった。中学の制服姿は

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #14

中学でも梨沙は浮いた存在になってしまう。 以前遼太郎に言われた通り、言いたいことはハッキリと言い、何か言われたら言い返す。自分の態度は変えなかったからだ。 初対面であろうと遠慮ないその言動や態度に戸惑ったり、嫌悪感を抱くクラスメイトは少なくなかった。 小学校とは環境を変えたことで梨沙は勝手にもっと良くなると思いこんでいたが、思ったようにいかないことに、この頃からまたやや感情的になることが多くなった。 時には教員にさえ歯向かう事もあったため、担任も手を焼いた。 一学期が終

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #13

そうして小学校を卒業し、中高一貫教育でドイツを始め数カ国に提携校のあるグローバルな私立中学に進学した梨沙。既にドイツ語と、英語も少々使うことが出来ている。 帰国によってドイツの小学校で習うことが出来なかったホロコースト、加害者のとしてのドイツのあり方について、遼太郎から改めてドイツの背負う戦争責任や、それが基となっている今日のドイツの教育や政治など欧州の中心として担う役割等についてなどを梨沙に教えた。 16年の長きに渡って政権を担ったアンゲラ・メルケルについてもよく話した

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #12

ASDは男性よりも女性は気づきにくいと言われている。女性の方が社会的適応をうまくやっていく、もしくはあからさまに表に出さない傾向が強いと言われている。 梨沙の場合、日本の幼稚園で、ドイツの小学校で、帰国後の小学校で、育った環境のせいなのか元々の気質なのか判別のつかないことも多かった。 一般的な感覚からすると、梨沙はとても感受性が強かった。多くのことに敏感だった。共感覚はその一端であろう。 強い光が苦手で、蛍光灯のような煌々としたツルッとした光は特に嫌いだった。家にあった蛍

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #11

家にいると "友達がいないこと" を夏希に責められているような気持ちになるため、梨沙は隆次の家に逃げ込むようになった。 隆次は週の大半を家で仕事しており、彼の妻となった香弥子はフルタイムで仕事に出ているため、気兼ねなく訪れる事ができた。 隆次の仕事が終わるまで梨沙は大人しくタブレットで絵を描いて過ごす。彼の部屋は蛍光灯がなく薄暗くてどこかミステリアスだが、梨沙にとってはそれがとても心地よい空間だった。 隆次が仕事を終えると算数を教えてくれたり、プログラミングやそれに必要な

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #10

絵画クラブは一応、絵を描くことが好きな4年生から6年生が集まっている。梨沙と同じクラスの子も何人かいたが、それでも通常クラスにいる時よりは好きな絵に没頭出来るから、気が楽だった。 梨沙の絵は独特の観点があった。他の児童たちは大抵見えたものをそのままに描こうとするが、梨沙は違った。独自のセンス、そして共感覚がゆえの色彩である。 児童たちが理解に苦しむことも多いが、梨沙の描写は非常に細かい時もあり、そこは皆の舌を巻いた。 「え、梨沙ちゃんすごい」 「絶対美大生になれるよ」

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #9

梨沙が10歳、蓮が8歳の春に家族は日本に戻ることになった。梨沙小学5年生、蓮小学校3年生に編入する年だ。 以前の都内の住まいは春彦(元々マンションは夏希と春彦の共同所有)に譲り渡したため、一家は新しい家を探さなくてはならなかった。 梨沙の感覚敏感と蓮の習い事の関係で部屋数を増やしつつ、遼太郎の弟・隆次の近所にしたかったことから以前と同じ区内で探し、やや苦労したが何とかマンションを探し当てた。 そして、問題は帰国子女がどの学校に編入するか。 普通の公立小学校か、インターナ

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #8(番外編)

ベルリン赴任4年目の春、遼太郎は社長から直々に帰国後に執行役員の席を用意すると連絡を受けた。 今まではそういった役職を会社は抱えてこなかったが、会社の規模も少しづつ大きくなり、ここ数年は組織改編も活発なためそういったポストも必要になってきたのだろう。 サラリーマンたるや、入社したら社長を目指すのは自然な目標であるものの、なかなか明言することはないだろう。しかし遼太郎は入社式の抱負で同期の前ではっきりと『俺はトップを目指す。俺が会社を動かす』と語り、ざわつかせたことがある。

【連載小説】Berlin, a girl, pretty savage ~Childhood #7

蓮もまた、小学校入学の選択をする時期が来た。 梨沙は入学が早かったため、3年生に進級する年だった。 「蓮、お前はどうしたい?」 そう問うた遼太郎に蓮はしばらく口ごもってから「お姉ちゃんと同じ学校に行きたい」と言った。遼太郎は正直驚いた。 「いいのか?」 「…うん。僕もお姉ちゃんと同じがいい」 やや遠慮気味だったのは、恐らく夏希からは日本人学校に行った方がいいと暗にそそのかされていたからだろう。梨沙の時も多少揉めたのだから、蓮にだって同じ思いを抱いたに違いない。 「ど