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枕五味 makuragomi
2019年1月12日 21:00
これは昔のお話です。ある国に玩具職人の男が居ました。男は玩具で子供の笑顔を作る仕事に誇りを持っています。しかし、新しい玩具の木馬に、もう一工夫欲しいと考えウンウンと悩んでいました。朝から夜まで悩みます。立派な満月の夜も、月を眺めながら悩んでおりました。不意に、月から欠けらが数個落ちてきました。職人の男は大変驚きました。だって月か何かが落ちてくるだなんて初めてみる光景だったからです。考え
2019年1月12日 00:15
ある満月の日の夜、僕を乗せた小舟は小さな岩礁にのりあげていた。僕は親と喧嘩し、躍起になって舟を沖に出したが、岩にぶつかったせいで舟に穴が空いてしまい、乗ることができず、また親に助けを求めるのも憚られ、独りぼっちで夜を過ごしていた。その日は満月で、どんどんと海の水位が上がって行く。僕は狼狽えていると、自分のいる場所からすぐ裏手に誰かの気配を感じた。ポロロロンと艶やかな弦楽器の音も聴こえてきた。
2018年12月17日 20:53
2018年11月25日 20:14
ある小さな村での出来事です。村の中央には井戸があり、たくさんの人が水の恩恵に感謝しながら慎ましく生活していました。その井戸の側に、ある日突然少女が現れました。汚れた黒い外套に身を包み、ボロボロの黒いフードが落とす暗い影に隠されて顔は見えません。少女はどこかで拾ったような一抱えくらいあるガラスの瓶と、文字の書いてある木の板きれを持っていました。そしてその板切れを、まるでお店の看板のように抱え
2018年11月24日 17:17
昔々あるところに、とても貧しい村がありました。長く雨が降らず、作物も井戸も枯れてしまい、家畜にやる餌も、子供たちにあげるご飯もついにつきてしまいました。このままでは村人はみんな飢えて死んでしまいます。村長は空にむかって願いを叫びました。「ああ、誰でもいい、どうかこの貧しい村を救ってください。お礼だったらなんでもしますから。」すると空から怪物が現れました。「聞いたぞ、聴いたぞ。私の名前
2018年8月5日 15:58
残業を終えた俺は、疲れた足を引きずり、アスファルトの地面を眺めながら帰路についていた。仕事をまだ覚えていない新人の失敗を補うために、無駄な時間と労力をとられるのにうんざりだというのに、今から家に帰らねばならない。先日、娘が彼氏を連れてきた。結婚するのだと既に決まったことのように話していたが、髪を染めて、耳にピアスを空けて、禁煙に成功した俺の家でタバコをスパスパ吸っていたのが”彼氏”というのを、
2018年7月20日 22:37
昔むかし、ある所に、とある国がありました。その国にはとても悪い病が流行っていました。その病を患ったら、たとえどんな人だろうと、倒れてそのまま数日寝込んで死んでしまいます。偉い人や頭のいい医者は思いました。「このままではこの国は病に満たされ、死によってつぶれてしまうだろう」国民たちの不安は募るばかりです。その国のとある村には怖い言い伝えがありました。山奥の廃教会には怪物が現れると。事
2018年7月14日 23:43
凍える厳しい冬の町。しんしんと雪が降りそそぐ。雪で冷えた石の道を歩く女の細い足が二本。血の気の失せた肌は風が吹くたびに白くなっていく。少しでも温まるために、女は家と家にはさまれた路地へと逃げ込む。疲れきってそこに座り込む。茶色の薄汚れた布は、彼女の体を冷たい石畳から守るには少しだけ薄すかった。女の歳は30程。その眼から生気あふれる光を少しずつ風がさらっていく。時計塔から20時を伝える鐘