181124_短編

怪物ルミルコーの伝説

昔々あるところに、とても貧しい村がありました。

長く雨が降らず、作物も井戸も枯れてしまい、家畜にやる餌も、子供たちにあげるご飯もついにつきてしまいました。
このままでは村人はみんな飢えて死んでしまいます。
村長は空にむかって願いを叫びました。
「ああ、誰でもいい、どうかこの貧しい村を救ってください。お礼だったらなんでもしますから。」
すると空から怪物が現れました。
「聞いたぞ、聴いたぞ。私の名前はルミルコー。わたしがこの村を救ってやろう。ただしそのかわり、私の願いも叶えてもらうからな」
村長は喜んでお願いしますと叫びました。

しばらくすると、村にとても甘い香りが漂いはじめました。花の蜜、熟成された木のシロップ、焼きたてのケーキのような香り。不思議と不愉快に感じるものは誰一人としていません。
甘い風がそこに吹くと、次々と目の前に暖かい食べ物とお菓子が村人たちの前に現れました。
雨も降り始め、作物はすくすくと育ち、村人たちはみんな大喜び。
もう家畜の餌にも晩のおかずにも困りません。

それからしばらくたち、村は以前のように元気な姿を取り戻しました。
怪物は村長にいいました。
「さぁこの村を救ってやったぞ、どうだ。次は私の願いを叶えてもらおう。」
「もちろんです、さぁなんでもおっしゃってください」
そうはいったものの、村長はとても怪物を恐れていました。
こんなすごい力をもった怪物の願いを本当にこの村の人々たちの力で叶えられるのだろうか、できなかったら、きっと怪物は怒ってしまうでしょう。
怪物はいいました。
「じつは、私もとても飢えている、とても乾いていつも中身がからっぽに感じる、どうかとびきり素晴らしい物でわたしを満たしておくれ。」

村長はすぐに村一番の料理人をよんで、とびきりおいしくて素晴らしい料理を作るよう命令しました。
「少しお時間をくださいルミルコー様。もうすぐとびきりすてきで素晴らしいもので、あなたをお腹いっぱいにさせてあげましょう」
怪物ルミルコーは大喜びです。しかし待てとも待てども料理はできあがりません。
とびきりおいしい料理には、それなりに長い時間が必要な物です。
ルミルコーは待つのに飽きてましたいました。
「まだなのか、私はとても飢えているんだ」

そこへ村長の娘が現れました。娘はルミルコーが飢えていると聴いて、ルミルコーのために少しのお菓子を持ってきてあげました。
「ルミルコー様、私たちの村を救ってくれてありがとう。待ってる間にこれを食べててください。私があなたのために感謝の気持ちを込めて作った物です。」
ルミルコーは大喜び。
「ああ、これだ。私が求めていたものはこれだ。この子にちがいない!」
怪物は大きな口で娘をぺろりと飲み込んでしまいました。

料理を持ってきた村長はそれを見てとても驚きました。
「娘が!わたしの娘が食べられてしまった!」
村長は気が動転して怒りました。
「娘を返せ!料理ならここにあるというのに!」
しかし怪物ルミルコーは怒声など気にしません。
「村の者よありがとう。私は愛を求めていた。怪物の私に快く接してくれる美しい心を持った者の善意溢れる愛を。きっとこれで私の飢えた心は満たされるに違いない。これでもうここには用はない。さようなら」

「こんなことになるだなんて!」
怪物はまた空をとんで消えてしまいました。
後に残ったのは、もう飢えていない、元気いっぱいの村と、娘を失った村長だけです。
村長は、おなかは満たされても心が飢えてしまい、やがて寝込んでしまいました。
悲しみにくれた村長は、誰にも看取られることなく息絶えました。  

それから何十年も後のことです。
ある日、とても甘い香りが村を包み込みました。
あまりにもいい香りだったので、村の子供たちはみんな外へでて、気持ち良さそうに風を感じています。
こんなに甘い香りが村を包んだのは、ずっと昔 村がひどく貧しかったのを救った怪物が現れた時以来です。
外で働いていた大人たちもその香りに気づいて、ふと顔を上げました。
そして空から一人の女性が落ちてくるのを誰もが観たのです。
女性は地面に叩きつけられると、砂糖菓子のように粉々に砕け散りました。
唯一粉々にならなかった首をよく見ると、その女性はかつての村長の娘でした。
娘の欠片に交じって紙片が一枚。
「彼女は違った。もういらない」

哀れに思った村人はその砂糖を壺に詰めて村長と一緒の墓に埋めました。

それからしばらくして、この村から山を超えたとこにある、食糧難に苦しむ小さな村に怪物が現れたという噂を誰かが聞いたそうです。

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