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優れた経営者を育てる国、インドの秘密を探る旅をはじめます (インド人リーダーシップ論 #1)

「インド人リーダー」と聞いて、あなたはどんなイメージを思い描くだろうか? 

20年前であれば多くの人が痩せ細った丸メガネの政治的指導者、マハトマ・ガンディを思い浮かべたかもしれない。いや、映画「ムトゥ 踊るマハラジャ」で王様を演じたタミル人俳優、ラジカーントだろうか?最近で言えば、日本との親交が深かったターバン姿のマンモハン・シン首相や、当代のナレンドラ・モディ首相のイメージも強いだろう。

経済界を席巻するインド人リーダーたち

テクノロジー企業が世界で台頭する今、既にご存じかもしれないがインド人リーダーは経済界で存在感をどんどん増している。Googleのスンダー・ピチャイ氏(Sundar Pichai)、マイクロソフトのサティア・ナデラ氏(Satya Nadella)、IBMのアービンド・クリシュナ氏(Arvind Krishna)、アドビのシャンタヌ・ナラヤン氏(Shantanu Narayen)、Mastercardのアジャイパル・シン・バンガ氏(Ajaypal Singh Banga)などなど、世界の名だたる企業のCEOにインド人が就任している。

日本でも2015年に、ソフトバンクの孫正義氏が自らの後継者候補として超高額報酬で招き入れ「165億円の男」と呼ばれたニケシュ・アローラ氏(Nikesh Arora)が記憶に新しい(もうとっくにアメリカのPalo Alto Networkに行っちゃましたね。あーあ、ホント残念。日本にとどまって欲しかった…。)


優れたリーダーを生み出す国、インドの謎を解き明かす

「なぜインドという国は、世界が求めるリーダーを生み出すことに成功しているのか?
そこから子供達を、未来の優れたリーダーを育てる方法を学ぶことはできないだろうか?」

インド企業で経営に関わって15年以上。これは優れたインド人経営者と出会い、「インド資本企業の日本法人代表」という特殊な肩書で生きてきた中でずっと答えを出したかった問いだ。

「そんなの、インド人がITに強くて英語ができるからだろ?」

うん、もちろんその側面も多分にあるだろう。でも私自身の長年の経験から、もっと深い文化と人格形成の部分にその本質的な答えがあるような気がしているのだ。


成長過程のインドで出会った2人の若き経営者

私がインド企業であるカクタス・コミュニケーションズに入社したのは、今から18年前の2003年7月、モンスーン(雨季)の真っ只中だった。チャイ売りの屋台しかないボロボロのムンバイ空港を出て、入り口が雨で浸水したアパートにびしょ濡れでたどり着いたころには、英語ができるというだけでインドでの就業を選んだ自分を一夜で後悔したが、この選択はその後の僕の人生を一変させた。

カクタス・コミュニケーションズは2002年に創業した、できたてほやほやのスタートアップで、当時は日本市場を相手に英語関連サービスを展開していた。今は1000人を超える社員を抱える中堅企業になったが、私が入社した時の社員は10人に満たなかった。

そこでアヌラグ・ゴエルとアビシェック・ゴエルという2人の共同経営者に出会った。彼らは兄弟で、兄のアヌラグはアメリカのウォートンを卒業してすぐマッキンゼーアンドカンパニーでコンサルとして活躍したあと、自分のビジネスを始めようとインドに戻ってきたばかり。弟のアビシェックは社会問題の解決に関心を持ち、日本滞在中に国際化する学問の世界で英語を母語としない日本人研究者の苦労を知り、英文校正ビジネスのアイディアを思いついた。


高い野望と揺るぎない自信、成長への執着心

アメリカを拠点に世界トップクラスのビジネスの知識と経験を積んだ兄と、強い目的とヴィジョンを持つ弟。月に1つの発注もなく、いつ会社が潰れるかもしれない不安の中でも、この経営者たちの不思議なまでに高い野望と、成長への執着心、そして自分たちにはできるという、とても根拠があるように見えない、でも揺るぎない自信に突き動かされた。一人一人の社員への並々ならぬ高い期待値に押され、それまでの自分の常識を投げ打って、無い知恵を振り絞り、必死で提案をしたのを覚えている。(当時の自分には本当に知恵やアイディアがなかったので本当に地獄の日々であった。)

それから19年、会社は途切れることなく高い時には3ケタの、低くても2ケタの成長を維持。彼らが描く高すぎる成長目標と壮大すぎるヴィジョンに死ぬ気で食らいついているうちに、いつの間にか自分も日本法人の社長として、グローバル企業のいちリーダーとして、思いがけない場所に連れてこられたと感じる。熱に駆られて坂道を猛ダッシュで登っていたら、いつのまにか眺めのいい小高い丘にいたみたいに。


インドの「ひと」を育てる力に迫る

私がインドに行った2003年は、くしくもゴールドマン・サックスがインドを含む4カ国をBRICsと名付け、2050年までに経済をリードする経済圏になると予測した年だ。それから数年後、インドは巨大な人口と英語、ITを武器とする新しい経済の中心地として議論の的になった。

しかし、当時のインドの取り上げられ方はむしろ「英語ができる安いエンジニア人材の宝庫」という位置づけでしかなかったと思う。グローバル企業のトップリーダーを次々と輩出する国、というイメージが生まれたのはこの5年ぐらいではないだろうか。世界がその認識に至るのには10年以上の時差があった、いや、彼らが世界を登り詰めるのにたった10年の時差しかかからなかったと考えればむしろ驚異だろう。

かたや日本はどうだろう?ユニクロやソフトバンクのような求心的なリーダーを持つグローバル企業は極めて少なく、周囲を見渡しても2桁3桁成長を当然とする気風は感じられない。ものづくりにこだわるうちにテクノロジーとリーダーシップにおいて、世界からどんどん引き離されている。インドは、あるいはインド人リーダーはこの10年、「ものをつくる人たち」でとどまらず、世界の中心に自分たちを食い込ませた。

19年前から今日に至るまで、私はインド人リーダーたちの情熱とアイディア、成長へのこだわりに鼓舞されて走り続けてきた。それもただの職業人としてでなく、人として変化し成長することを強く要求され、助けられてきた。彼らの中のなにが、こんなに自分を頑張れる人間に育てたのだろうか?

インドが今のように成長する以前からインドのリーダーたちと働いてきた自分自身の体験と、その後のインドの経済成長、そして今世界で起きているインド人リーダーの世界的な台頭。そのすべてを眺めた時に、そこには普遍的に学べる何かが存在すると思う。

インドの最大の強みは「ひと」、とりわけリーダーシップだ。このブログを通じて、自分なりに経験や知識を整理しながら、インドでは優れたリーダーがなぜ生まれるのか、その秘密に迫っていきたいと思う。


このシリーズの記事一覧

#2インド人経営者が現代ビジネスにマッチする理由 

#3インド人経営者のリーダーシップの7つの特徴

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