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インド人経営者のリーダーシップの7つの特徴 (インド人リーダーシップ論 #3)

インド人と働いていると言うと、インドを経験したことのある人はよく、自分が出会ったインド人が持っていた独特の国民性、つまり共通する彼らのパーソナリティについて熱く語り出す。そのほとんどがコミカルに、時にはちょっとした皮肉や、あるいは愛情を込めて。インドクラスタのみなさん、似たような経験あるでしょう?

インド人と日本人のお互いへの苦情

20代にインドで働き始めて最初に思ったのは、「典型的な日本人とインド人って国民性がほとんど真逆だよなー」ということだった。よく言われるのは時間の感覚や計画性の違いだ。集合時間の5分前に来る日本人 v.s. 30分遅れてくるインド人、みたいな話である。私にもインドで暮らしている時待ち合わせの相手が来なくてイライラした経験があるが、もちろんこれには個人差があって、几帳面なインド人もいればルーズな日本人もいるのだが。

逆にインド人の同僚からよく来る日本人社員への苦情は「日本人は真面目すぎて融通が効かない」「変化に弱い」「失敗を怖がって新しいことをやりたがらない」というもの。やる前にすぐ「どうやってやるのか?」を考えてしまい、自分の想像を超えた話になると心配ばかりしてしまう。これは日本人がインド企業で重要な意思決定に入りにくい理由の一つかもしれない。ネガティブな意見や懸念ばかり語って挑戦を避けようとする、という印象を与えてしまう。

私は会社でインド人ばかりの取締役で唯一の日本人で、上司はインド人、部下はインド人と日本人両方を持っている立場なので、しょっちゅう国民性の違いの板挟みにあう。インド人には一方で「とりあえず日本人にわかるように計画書をくれ」「日本人が心臓発作を起こさない実現可能なターゲットに変えてくれ」と懇願しつつ、もう一方で日本人には「そんなにビビらず失敗してもいいからとりあえずやってみよう」「変化なくして成長なし!変わることに慣れよう」と鼓舞する、という曲芸をしている毎日だ。という自分自身も思い返せばほんの5年前まで弱音ばかりこぼしていたような。。

特定の社会状況に有利に働くパーソナリティ

今書いたような話はステレオタイプな例だが、私が語りたいインド人リーダーシップの本質も実はここにある。私は現代の国際的なリーダーとしてインド人が台頭しやすく、日本人が極めて少ない重要な理由の一つがこの国民性の違いにあるのではないかと思うのだ。

特定のパーソナリティには必ず良い面と悪い面がある。例えば、おおらかな人は裏を返せば大雑把、心配性で困りものの人は実は危機管理に向いている、というように。

「特定の社会状況に有利に働くパーソナリティが存在し、現代のビジネスにおいてはインド人が有利になる条件がある」というのが私のおおまかな仮説だ。

詳しくはこれから独自に調べて一つ一つ紐解いていきたいと思うのだが、まずこの記事では私が長く一緒に働いてきたインド人経営者たちを例に、彼らのリーダーシップ・スタイルの要素分解を試みてみようと思う。

インド人経営者のリーダーシップの7つの特徴

私が考える彼らのパーソナリティ面の特徴は7つある。断っておくが、この項目はあとで更新するかもしれない。現時点ではあくまで個人的な経験によるものだが、インド人の上司を持つ人には共感できる点は多いのではないだろうか?

1. 現実に左右されず巨大な野望を描く
これまでの経験や実績、会社が持っているリソースやスキルの限界を気にせずに将来の野望やヴィジョンを描く、いわば妄想力だ。可能な限り高い目標を掲げることで、成長しようとする力が生まれる、「できるかどうか」「どうやって実現するか」は後から考えるもの、という発想がベースにある。

2. 無理に思えることを可能だと思い込ませる
「やったことがないからできない」は基本許されない。できない理由を説明すると、その全てをことごとく論破して、やるべき理由を示される。前例主義が強い保守的な日本人にはその指示が受け入れ難いこともあるが、半信半疑でやってみたら意外と結果が出る成功体験を経験することが多いのだ。

3. 失敗を恐れない突き抜けた楽観性をもつ
物事を進める時に、びっくりするほど失敗を想定しないのは、インド人リーダーの最大の特徴かもしれない。ほとんどの議論は「できる」前提で進める。リスク分析には十分な時間を費やすが、基本的にはやらない理由を潰して反対者を説得し、チームとして前向きになるためのプロセスとして使っている印象だ。

4. さっさと見切り発車して始めてしまう
新しいサービスや事業を始めるときに、多少リスクがあっても「とりあえずやってみよう」と見切り発車して世に出し、短期間でなるべく多くの仮説検証を繰り返しながら正解を見つけるのがインド人リーダーのスタイルだ。完璧に準備しても社会変化や予期せぬ市場の反応は起こりうる。スピードが常に最優先事項だ。

5. 猛獣(キャラの濃い人材、多種多様な人材)を使いこなす
インド人リーダーは、尖った才能を持つ人材を積極的に登用する。会社の発展のために社内にこれまでになかった新しい考え方や知識を取り入れることに貪欲だからだ。そういう人物は個性が強く、ともすれば扱いが難しいこともあるが、彼らが自由に振る舞い十分に個性を発揮できるよう組織の中に精神的なアソビを作るのがうまい。

6. 自分の弱みを正直に人に見せて、可能な限り分業する
インド人リーダーは分業に長けている。完璧な人間はおらず、人の能力は基本的にはデコボコしているという前提に立ち、自分が苦手な分野を明らかにし、自分より優秀な人材に仕事を任せ、自分自身が得意な分野に集中することで時間を有効活用する。有能な人材を自分よりずっと高給で雇うこともある。

7. 変化を好み、臨機応変に問題解決する
困難や未知の問題に遭遇することに慣れているインド人リーダーは、危機的な状況でも動揺せず、それまでとは違うやり方を自由に取り入れて臨機応変に問題解決する能力が高い。既存のプロセスや組織の枠組みを壊すことに躊躇がなく、ゼロからやりなおす労力、変化にかけるエネルギーを厭わない。

7つの特徴をまとめると、優れたインド人リーダーのスタイルはこんな感じだろう。

一見無謀かに見える高いヴィジョンとターゲットを掲げてチームを鼓舞し、成功に楽観的で失敗を恐れず、スピーディーに物事を実装し検証する。自分の弱みを認めて他者で補うことに積極的で、多様で個性の強い人々をうまく活用して分業する。変化や変更に強い耐性を持ち、問題が生じても落ちついて臨機応変に対処できる。。

ポジティブな面から書いたが、当然あらゆるパーソナリティの要素にはネガティブな面がある。現実からかけ離れた高いターゲット設定は社員に過度なプレッシャーをかけることもあるし、楽観的で素早い決断の結果予期しない問題を抱えることもある。個性的な人材は人間関係の軋轢を生むこともある。過度な変化は適応ストレスにつながることもある。

それでも、このようなインド人リーダーのスタイルは、今のビジネスの世界においてはポジティブな要因として働く可能性が高いと私は考えている。なぜそう思うかについては、次のブログで説明していこう。

(つづく)

このシリーズの記事一覧

#1優れた経営者を育てる国インドの秘密を探る旅をはじめます

#2インド人経営者が現代ビジネスにマッチする理由

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