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2023年4月の記事一覧

髪を切る理由って (短編小説)

髪を切る理由って (短編小説)

行きつけの美容院へ行く。
髪が伸びたから、切る。ただそれだけのため。
斜め後ろの奥様。ギャルの名残がある。
ぺちゃくちゃと担当の美容師と話をしている。
私とは相対的。
「最近の子って本当に積極的じゃないよねぇ 全然引っ張ってくれる気配がないっ」
とギャル奥様
「ねぇー」
「あれだけ、草食系だとさぁー 女の子大変だよねぇー」
「確かにそうだ。そう。大変だ。アプローチするのがねぇ」
と美容師さん

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ランデブー(短編小説)

ランデブー(短編小説)

青春なんていくつもいらない。
彼と出逢ったとき、そう思えた。

彼はここの学校にはいない。
他校にいる。

だから、みんなには適当なことを言って
抜け出す。
そして、彼に会う。
密会だ。

密会。なんて魅力的な響きだろう。
スリリングでドラマチック。
道中、怪しくニヤニヤしてしまう。
だけど、マスクがあるから誤魔化せる。
だから、コロナ禍が継続してもいいと思う。

様々な柵から解放され、彼とのひと

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繊細さは宝(短編作品)

繊細さは宝(短編作品)

私がまだ幼い頃、よく叔父さんの家に遊びに行った。

叔父さんは、丸メガネがよく似合い、白い無精髭が貫禄がを高めていた。
叔父さんはいつも部屋でプラモを作っていた。
飛行機や洗車、戦艦やロボットのプラモが棚に敷き詰められていた。

僕にとってそこは、宝の山だった。
だが、僕はその宝物を手に取ってはよく壊した。
叔父さんは、残念そうな顔をしたが僕を怒らなかった。

諭すように、繊細さを大事にしなさい。

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私が地球に帰還した理由(短編作品)

私が地球に帰還した理由(短編作品)

   
 
 夢は明確だった。宇宙に行きたい。そう思って実現させた。
何故?皆にその理由を聞かれるたびに嘘をついてきた。
しかし、今、質問されているのは、AIから。
人ではないのだから、本当のことを言ってしまおう。

「人と関わりたくないからだよ」

それは、幼少期から思うようになっていた。
上っ面はいい顔をしてるが、陰では罵詈雑言、誹謗中傷、排斥のオンパレード。
人を信じれなくなった。怖くなった

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受容(短編作品)

受容(短編作品)

レオは中学の入学式を終え、明日から授業が始まる。
期待より、不安の方が大きい。

母親から、美術館に誘われた。中学になると新しく美術の授業が始まるので、
美術がどういったものなのか見ておくと良いということだ。

美術館のテーマは、「近現代デザインの歴史」
19世紀から現代に至るまでのデザインの変遷が紹介されていた。
美しいもの理解し難いものまで、様々あった。

否定され受け入れられ、また再認識され

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癒されたくて (短編作品)

癒されたくて (短編作品)

癒してくれ

 休日出勤を終え、体を引きづるように桜並木のある坂を登る。
桜並木には、桜の花の面影は消え、新芽ができている。
桜をまともに見ることができなかったことに酷く落胆した。
ここ1ヶ月、東奔西走状態だった。仕事のミスが続き、信頼を失った。頼れる上司や同僚、部下もいない。孤軍奮闘状態。
だけど、強がって仕事をこなした。だが、もう限界に近い。
私も桜のように散ってしまいたい。強くそう思った。

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若いから大丈夫(短編作品)

若いから大丈夫(短編作品)

 それは、成人式の時だった。懐かしの友人たちとの再会で話に花が開き、二次会にいくことになった。二次会の席で男子集団がうるさく騒いでいる。横目で見てみると
大家という男の頭頂部に注目している。人間の頭をボール球の如く、男子たちは交互に大家の頭を回している。

「えぇ! お前ぇ はやぁ!! 禿げてるやぁぁあん」
「うるせぇ 声でけぇ」
ゲラゲラと下品な笑い声が上がる。

私の友人が声を顰め、
「え、も

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