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【朗読版】病室の朗読会


☆人数 :1人用
☆声に出すと3分〜4分
約750文字

⚠こちらを朗読される際は、文章の変更はせずにお読みくださいますようお願いします⚠



最低限の明かりだけが灯(とも)る
深夜の病室。

命を確認するための
機械音。

フロアに時折響く
ナースコール。

精一杯の
呼吸音。



もう、言葉を交わすことができないお父さんへ。

今まで恥ずかしくて言えなかったけれど、

わたし、文章を書いていました。

そんなことが好きだなんて、知らなかったでしょう。

色々書いてきました。

空が好きで、風が好きで、植物が好きで。

お父さんが付けてくれた名前の通り「季節」を見つけては、それらを綴ってきました。


実は、お父さんのことも書きました。

それを、声に出して読んでくださる方もいました。

何人も、いたんです。

いろんな思い出を重ねてくれました。

とてもとても嬉しかった。


今日は私が、お父さんのことを書いた文章を読みますね。




もう感想を聞くこともできないからと、ある意味開き直って父への朗読会を開いたのは、父が亡くなる二日前の深夜だった。


きっと声にならないだろうと思っていた言葉は、予想に反して震えることなく、淡々とベッドへ向かっていった。


恐ろしく忍耐強くて、
弱音の一つも吐かない
無口で頑固者。

それでいて
気遣いの人だった。

どれほど病状が悪くても、
面倒の一つもかけてはくれなかった。

手を貸されることを嫌がり、
誰にも頼ることを許さなかった。


そんな父が、
私に不安を伝えてくれることが
「痛い」と知らせてくれることが
「背中をさすって欲しい」と言ってくれることが

全部、嬉しかった。
なんだか、誇らしかった。




薬で眠る前のお父さんのことを、「さいごは」なんて、みんな言うの。

ひどいよね。
お父さんは、まだ生きているのに。
今もがんばって戦っているのに。


ねえ、話せないだけで、聞こえているの分かっているよ。

だから、まだ、もう少しだけ、私の声を聞いていてください。

今まで言いきれなかった「ありがとう」を、もう少しだけ聞いてやってください。



End




父へ朗読した作品は、こちらの記事にまとめてあります。

一つ一つの作品は、とても短い文章です。
もしご興味がありましたら、そちらもご覧いただけると嬉しいです。


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