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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2022年2月の記事一覧

『その瓶があるというだけで』

その瓶があるというだけで

嫌悪感を抱かれる

その瓶の存在を口にしただけで

疎ましがられる

どんなに厳重な梱包をしても

どんなにスタイリッシュなラベルでも

その瓶が棚に置いてある場合

周囲の空気は張り詰めるかあるいは

どんよりとしたものになる

もとより

そもそもその瓶詰の製造過程で

どんな個体でも若干は内容物が

漏れ出るようにできているというから

諦めるほかないのだろう

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『「危ないからいつでもヘルメットを被っていなさい」』

『「危ないからいつでもヘルメットを被っていなさい」』

 「危ないからいつでもヘルメットを被っていなさい」

 母のいいつけでというか強制的に、アタマをやっちゃうと危険だからという理由で、物心ついたときにはヘルメットを被せられていた。

 常に。

 自転車に乗る時なんかは被っている子も多いけど、そんなもの比べものでなくて、外出時は言わずもがな、室内でも被っている。もっとも外出時には、室内用に比べてより頑丈なモノを装着させられたわけで。

 食事のとき

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『全然わかってねーじゃん』

『全然わかってねーじゃん』

困るんだわ

マジで

寄ってきて困るんだわ

え?

なんかさ

だるくね?

俺べつに

本気出してねーし

申し訳ないけど

ファッションなんだわ

ファッションで

イケメンやらせてもらってます

だから

ほいほい寄ってこられても

困るんだわ

”あなたからはつくりものじゃなくて

ほんもののにおいがするの”

は?

しらねえわ

全然わかってねーじゃん

惹かれるの勝手だけど

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『飛ばして 飛ばして』

『飛ばして 飛ばして』

仕事に忙殺され

日々ストレスの極み

いっぽう家族との時間は

リラックスできるでもなく

退屈の極み

これといった趣味をもたず

道楽を知らない私の

楽しみといえば

眠ることくらい

楽をしていたい

苦痛な瞬間や

退屈な時間は

飛ばして

飛ばして

楽な場面だけを

ずっと

そんな要望に応えてくれる

素敵な機器があるという

なけなしの小遣いをはたいて

家族に内緒で

仕入

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連続note小説『みやえこさん』終『生き恥じて』

連続note小説『みやえこさん』終『生き恥じて』

(前回:4.『新宿にて』)

編集者より まえがきにかえて

 この書籍は、20XX年X月、当編集部宛に自費出版の依頼として手稿を寄せてくれたとある女性の独白をほぼ原文のままに、活字に起こしたものです。
 かつて知られざる生々しい体験を私たちは読み進めていくなかで、その文化的価値を認め、筆者本人とも幾度かの打合せを重ねた末、当社において経費負担のもと、刊行するに至りました。
 当社に送られた手稿に

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連続note小説『みやえこさん』④『新宿にて』

連続note小説『みやえこさん』④『新宿にて』

(前回:3.『祝い弔い』) 

 「こんな店でよろしかったんですか?」

 「かまわないかまわない。気ぃ使いたくないからさ。こんな感じでいいんだよ」

 「何を飲まれます?」

 「どうしようかな」

 一郎さんは店員を呼びつけながら。

 「あの土地も困ったもんだよね、それでね、あ、芋、お湯で」

 「はい、あ、レモンサワーください」

 「怖いよ。笑っちゃうよ」

 「笑えませんよ」

 そう

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連続note小説『みやえこさん』③『祝い弔い』

連続note小説『みやえこさん』③『祝い弔い』

(前回:2.『あんずあめ』)

 実家の母から、めずらしく電話があって。きけば、このあとすごくイイおカネになるお仕事があるから待ちなさいとのこと。それ以上をこちらが尋ねてもはぐらかされたので諦めた。

 西山ツドイ二十八歳男子。田舎のそこそこ優秀な高校から東京へ出て大学を卒業後、小さな商社に勤めたものの夢をあきらめきれず、あてもなく退社、専門学校で写真の基礎を学ぶ。その後は大御所の弟子になるで

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連続note小説『みやえこさん』②『あんずあめ』

連続note小説『みやえこさん』②『あんずあめ』

(前回:1.『とろける』)

 八月のおわり、お盆の翌週にある祭の日は、いまや年に一度、慶壱が家の外に出る日。

 漁業と海運で中世から生きながらえてきたこの集落、窪の祭は、山の中腹にある神社から御神体を担いで下り、舟に乗せて祀る。防波堤が松明で縁取られ、日没が迫る頃、舟は港を出る。翌朝、人の気配がない時分に神様は引き揚げられて、お社に戻される。

 港の広場には屋台が出て、地元住民と、里帰り

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連続note小説『みやえこさん』①『とろける』

連続note小説『みやえこさん』①『とろける』

(前回:序『みやえこさん』)

 

 その夜はじめて、苦虫一郎は以前から気になっていたサイトにアクセスした。ひとまず無料見積りの依頼を済ませ床に就く。

 あくる日、さっそく先方からの返信、近日直接会いたいの旨。焦る気持ちもなかったから、ちょうど一週間後、きょうと同じ曜日の午後を指定してみた。

 待ち合わせの場所に着くと、すでに先方らしきダークスーツの男がひとり、こちらに背を向けて座っている。

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『画鋲』

『画鋲』

不本意

毎日まいにち

流れるラインの

ほんの端くれ

パッケージに詰められ

出荷されて

どこかに着いたかと思えば

がきんちょが書いた

下手な習字を支えてる

すいませんね

こちら金属製の平べったいやつ

報われないのは

カラフルなプラ製のじゃないから?

あんなのはポッと出の…

だってさ

いつだって輝くのは

金色の平べったいやつなんだよ

しかし何が悲しくて

こんなつまら

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『「あのふかふかシートのスクリーンさぁ』

『「あのふかふかシートのスクリーンさぁ』

開演を告げるチャイムとともに

薄暗かった照明が

一段と落とされる

この瞬間が

とても心地よい

とはいえ

駆け込みで入ってくる客がいる

私のちょうど目の前に腰を下ろすので

なんだか面食らった気分

まずスクリーンに写されるのは

予告編が何本かと

映画泥棒がなんちゃらっていう

ようやく配給会社の

オープニングムービーが流れて

あれ…?

いつのまに?

エンドロール…

私と

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『この記事を読んでいるみなさんへ』

『この記事を読んでいるみなさんへ』

この記事を読んでいるみなさんへ

いま

この瞬間

そう

この瞬間だけは

数十年という

長いのか

短いのか

よくわからない人生のなかで

私という筆者のために

貴重な貴重な時間を

割いていただいているということ

なんと多幸感に溢れることでしょう

いつもほんとうに

ありがとうございます

本日は

日頃のご贔屓への

感謝の意を込めまして

みなさんにもれなく

現金を…

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『親戚の間でもちょっとアレだっていうことで』

『親戚の間でもちょっとアレだっていうことで』

カズおっちゃんは

親戚の間でもちょっとアレだっていうことで

あんまり近づくなって言われてた

でも子供からしたら

めちゃくちゃ面白くて

盆暮れに会って遊んでもらうのを

いつも楽しみにしていた記憶

ただやっぱり成長を重ねると

カズおっちゃんともだんだん

疎遠になって

十数年前のちょうど今頃

もうすぐ高校を卒業かなってとき

うちの電話が鳴った

偶然にも僕が出たもんだから

カズ

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