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チベット僧フォアとの出会い

チベット・インド旅行記
#13,ラルンガル・ゴンパ②

ルーフォー10

【前回までのあらすじ】四川省チベットエリアを旅中のまえだゆうきは、ひょんなことからチベット僧と意気投合し、外国人は立ち入ることの禁止されているチベットの僧院、「ラルンガル・ゴンパ」への潜入に成功した。


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早朝4時、あたりはまだ暗い。
標高3000mを越えるラルンガルの朝は8月でも極寒。
パーカーを羽織って外に出た。

谷の中腹に位置するお寺の本堂に恐る恐る足を踏み入れると、薄暗い堂内には無数のバターランプ(ヤクの乳で作ったバターのロウソク)が灯り。
100人を越える僧侶たちがぶつぶつとお経を唱えている。

フォアに案内され、隅っこに座る。
男女で座るスペースが区切られているようだ。


はじめは、それぞれがバラバラに唱えていた読経だったが、だんだんと波がうねるようにユニゾンを始め。
次第に合唱のように重なり合ってきた。

ブオーと、大きな音を立てて、長い象の鼻のようなラッパ、ドゥンチェンが加わる。
ビリビリと低音が響き、空気が震える。
ドンドンドンと、シンバルや太鼓のような楽器も加わりだし、狭い寺の中は、読経と管楽器、打楽器の音で熱気で包まれた。

ラルンガル2

1時間半ほど続いただろうか。
読経の音は徐々に小さくなり止んだ。
すると端の方から、徳の高そうな高齢の僧侶が入ってきた。
リンポチェ(チベット語で高僧の意味)だ。


うやうやしくひざまずく100人の僧侶たち。
リンポチェは仏像の前の座布団に座り、おもむろに口を開き、説法を始めた。

おそらくありがたい話を聞かせてくれているのだろうが、チベット語の為、全く分からない。
最初は頑張って聞いていたが、1時間が過ぎ、2時間が過ぎる頃には、だんだんと足が痺れてきて、尿意をもよおしてきて困った。

助けを求めて遠くのフォアの方をじっと見つめていると、私のピンチに気付いたようでずっと苦笑いをしているフォア。

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そうして窓の外から日が差し込み始めた8時頃、ようやく説法は終わった。

やれやれと、ほっとしていると、今度は僧侶たちが列になってリンポチェの元へ集まりだす。
(授業が終わった後、先生の所に集まる生徒のような感じだ。)

僧侶たちは一人ずつ順番に、手に持った白いスカーフ(カター)をリンポチェの首にかけていく。
白いスカーフは相手への感謝と尊敬の気持ちの表現なのだそうだ。

10枚、20枚と、スカーフで着膨れしていくリンポチェ。

トントンと肩を叩かれ振り返ると、フォアが私の分のスカーフ(カター)を用意してくれていた。
せっかくなので私も列に加わり、リンポチェにうやうやしく頭を下げてカターを首に巻く、すると、リンポチェはおまじないで私の頭をポンと叩いてくれた。

ラルンガル3

続いてフォアが手短に私の事を説明すると、何やら懐をゴソゴソと探していたリンポチェ。

私の事を手招きして、小さなペンダントをそっとプレゼントしてくれた。


途端に、堂内に巻き起こる驚きと歓声。


横にいたフォアなんかは、さっきまでの僧侶らしい振る舞いもどこへやら「キャ〜」とミーハーな声を上げて卒倒しそうになっている。
きっと、関ジャニ∞のメンバーがここに来たとしても、ここまでの騒ぎにはならないだろう。

リンポチェに礼をいって、そそくさと堂内を後にした。

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ラルンガル4

ラルンガル・ゴンパは、千を越える僧坊が集まって出来た、チベットエリア全土でも有数の僧院だ。

丘の上には、大きな仏塔(チョルテン)が建ち。
中腹には宿坊、学習用の建物、寺院などが立ち並ぶ。

近くの町から運んでいるのだろう。
所々に売店もあり、水やお菓子などの類も手に入る。

売店には、お供え用の花や、バターランプ用の油も売っていたので、せめてものお礼にと買って、お寺に寄付をした。

ラルンガル5

 
丘の上の仏塔を参拝していると、下からフォアがやって来たので合流した。
一緒に丘の塀に腰掛け、バター茶をすする。
獣臭いこのお茶にも大分慣れてきた。


2人で雑談をしている内に、フォアの生まれの話になった。

そもそもフォアという名前は、チベット人ではなく漢民族の名前である。

聞くところによると、フォアは東の沿岸の街の生まれで、今まで何不自由なく暮らしていたが、人生に行き詰まり、疑問を感じ、一人この四川省の山奥の僧院までやってきたのだそうだ。

もう家族とも連絡は取っていない。
フォアは少し寂しそうに言った。


フォアの話によると、このラルンガル・ゴンパには、チベット人だけでなく、フォアのように出家を志した漢民族も大勢住んでいるらしい。


物質的な豊かさや、衣食住に恵まれた暮らしを全て捨ててでも、出家の為、山奥までやってくる人たちがいる。
 

フォアは何を思い、そして今、何を信じてここで暮らしているのだろうか?
無数に立ち並ぶ僧坊を見下ろしながら、そんな事を考えた。
  

ラルンガル6

しばらくのんびりしていると、不意にフォアが
「これから鳥葬が始まるから見に来ないか?」と誘ってきた。

鳥葬、チベットで行われている事は知っていたけれども、まさかこんな所で観られるとは思っても見なかった。
 

もちろん、と二つ返事をしてお茶を飲み干し、フォアの後をついて行く事にした。



ラルンガル1

ラルンガルゴンパ③へ続く



【チベット・インド旅行記】#12,ラルンガル・ゴンパ①編はこちら!


【チベット・インド旅行記】#12,ラルンガル・ゴンパ③編はこちら!


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