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チベットの旅人たち

【チベット・インド旅行記】
#20,ラサ①


【前回までのあらすじ】遥かなるチベットを目指し、埼玉県から旅に出たまえだゆうき。出発から4ヶ月を経て、ようやく念願の地に辿り着いたのだが…。

ラサ1

2004年、10月、チベットの都ラサの街は、凍えるような寒さだった。

朝7時だというのに、あたりは真夜中のように暗い。

中国では、首都北京に合わせて標準時刻が設定されているので、広大な中国の両端、北京とラサの間では2時間ほどの時差があるのだ。


世界の秘境チベットはどんな所かと胸躍らせて来てみたものの、意外や意外、そこはツーリスト達の天国になっていた。


私が泊まっていたヤクホテルも連日外国人旅行客で満室。
寝泊まりしていた6人部屋のドミトリーも常に旅行者でいっぱいだった。

ドイツ人、オーストラリア人、イスラエル人、韓国人、もちろん日本人もいる。

ラサ3

日本を出発してから早4ヶ月。

よりによってここチベットで、旅人に囲まれた賑やかな日々を過ごすとは思ってもみなかった。


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朝7時半、ラサ旧市街、バルコル通りへと出かける。
全てのチベット人にとっての聖地、ジョカン寺へと詣でるのだ。

ラサ4

【ジョカン寺】
聖地ラサの中心にある、もっとも聖なる寺院、それがジョカン。
一説によると、7世紀、ガムポ王の死後、ネパール人王妃ティツンが、王を弔うために建てたと言われている。
1300年の歴史を誇る、由緒正しき寺である。
(旅行人ノート、チベットより引用)


ジョカンの寺の門は、開門を待つチベット人たちの熱気で静かに湧き上がっていた。
門の前は幾重にも人だかりが出来ている。


開門。

と同時に本尊に向かって走り出すチベット人達。
いつもの温和でにこやかな彼等からは想像もできない、鬼気迫る表情である。

私も、もみくちゃになりながら走り出す。
すると、なぜだか背後からチベット人のおじいちゃんが背中をぐっと押して加速をつけさせてくれた。

なんだかよく分からない親切で、いいスタートダッシュを切った私。
すかさず本尊へと滑り込んだ。

ラサ5

薄暗く狭い堂内はバターランプの灯りが無数に灯り、獣臭い匂いが充満している。
本堂には4メートルほどの金ピカで巨大な釈迦像(ジョウォ像)が鎮座し、バターランプのゆらゆらと揺れる炎に照らされて、艶かしい笑みをたたえている。

周りを見ると、一心不乱に祈り続けるおばあちゃん。
感極まって涙を流す人達。
押し合いへし合い、流れるプールに流されるように、段々とジョカン寺の出口へと向かっていく。
 


寺から出ると、今度は沢山の物乞いの子供たちに取り囲まれた。

煤(すす)けた顔、埃だらけの服、鼻水が固まってカピカピになった袖、10人ほどの子供たちが足にしがみついてきて、思うように歩く事も出来ない。

ラサ6

ここで小銭をあげる事は、何の解決にもならないという事は知りつつ。
それでもリッチな外国人旅行者としての後ろめたさから、1角銭を子供たちに渡す。

途端に散り散りに逃げてゆく子供達。


なんだろう、施しをしたにも関わらず残る、このもやもやは…。


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正午、
朝っぱらからもみくちゃになって疲れたので、自分へのご褒美に、スノーランドホテルのレアチーズケーキを食べにいく事にした。

こざっぱりしたゲストハウスに隣接した小洒落たカフェ。
それがここスノーランドホテル。

いつ来ても外国人旅行者が沢山いて、旅の情報交換をしたり、旅の武勇伝を語り合ったり、賑やかだ。


注文をして待つことしばし。
来ました来ました、淹れたてのコーヒーとレアチーズケーキ。
(5元、およそ75円)

フォークで切れ込みを入れ、口に含むと、しっとりした生地が口の中で広がり、ヨーグルト風味の爽やかな酸味が後から追いかけてくる。

日本にいてもなかなか食べられない逸品である。


美味いケーキとコーヒーに舌鼓を打っていると、ヤクホテルで同室の小林さんも店内に入ってきた。
旅行者の行きそうなカフェやレストランは大体決まっているので、街を歩いているとよく鉢合わせするのだ。

ラサ7

小林さんは41才で、うっすらと後退を始めた頭髪と、度の強い眼鏡、そして生え散らかった無精髭、
つまりはぱっと見冴えないオッサンなのだが、随分と旅慣れていて、
今まで世界中の色々な国を旅した経験があるのだそうだ。


小林さんに朝のジョカン寺での出来事を話すと。

「わっはっはっは!
ま〜た、前田くんは良い人ぶっちゃって!
どうせ子供に小銭渡しても、最終的には飲んだくれの親父の元へ渡って、飲み代に消えちゃうんだから、渡すだけ無駄無駄。
要は前田くんの自己満足でしょ?」

と一蹴される。


なるほど…、確かに正論ちゃあ正論だが…。


なんだかしっくりこないでいる私をよそに、小林さんは、今まで行ってきた国々の話をとうとうと語り出す。


「そうだな〜、前田くん、中国を旅するんだったら昆明もいいよ。飯も美味いし気候も良い。
タイならカオサンロード、インドだったらカルカッタのサダルストリートのドミトリーも安いね。
俺みたいに年がら年中旅しているとさ、色々な街で旅人と再会しちゃったりもしてさ。
まぁ、旅の醍醐味ってやつよ。」

 

話によると、小林さんは年に半年、日本に帰って、築地の市場や青果市場、工事現場で肉体労働をしてお金を稼ぎ。
残りの半年は物価の安い国を自由気ままに旅して過ごすのだそうだ。


飯はうまいし、一年中夏だし、女の子も安い。


旅を続けている間は、王様のような暮らしをしていられる。
絶品チーズケーキを頬張りながら、小林さんは力説した。
 


確かに、旅を続けている限りは自由気ままに生きていられる。
旅を続けている限りは…。


小林さんは、口では明るく語っていたけれど。
いつか、年をとって肉体労働が出来なくなった後の話はしようとはしなかった。


もちろん、私も聞かない…。




憧れの地、チベットに着いてはや1週間。
 

目的地に辿り着いたはずの私にやってきたものは、達成感や安堵感ではなく。


ここから先、どこへ行けば良いのか。
いつまで旅を続ければ良いのか。
という、悩みや迷いにも似た感情だった。

 


答えはまだ、見つからない。
今日も旅の日々は過ぎてゆく。



ラサ2

ラサ編②へ続く⇨



【チベット・インド旅行記】#19,ゴルムド編はこちら!


【チベット・インド旅行記】#21,ラサ編②はこちら!



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