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【(ほぼ)ネタバレなしレビュー】Tinder詐欺師〜恋愛は大金を生む〜

Aのストーリーラインと
Bのストーリーラインが走っている。

物語の中盤、
それぞれがピークを迎えて合流し
大きなうねりとなって後半へ加速するーーーー。

魅力的なコンテンツはこの運びが上手い。

すぐれた構成力のなせる技と言えばそれまでだが
簡単にできるものではない。
海外コンテンツは
この見せ方が秀逸な作品が多い印象だ。

ストレンジャー・シングスは
少年少女たちの活劇パートがそれぞれで走り、
頂点で折り重ねって加速する。

フィクションとノンフィクションでジャンルは違えど
この「Tinder詐欺師」もそうだ。

マッチングアプリTINDERにダイヤモンド貿易商の御曹司で
自家用ジェットを乗り回しヨーロッパ中を飛び回るお金持ちが現れる。

しかし、全部が嘘のまがいもの。イケメン偽バチェラー。
その被害者たちの証言を軸に進むドキュメント映画。

彼への恋に落ち、金を巻き上げられた
女性たちそれぞれのストーリーラインが映画中盤のピークで重なりあう。
あの時あの子と豪遊していたのは別のあの子のアメックスが資金源か…!と。

その点と点とが線になる瞬間に、観ているこちらは前のめりになる。

編集で整理されて見ていると、
およそ巧妙とは程遠いとも思えてしまう大胆なだましのテクニックの数々。

それに翻弄される彼女たちの様子はまさに
「恋は盲目」といった風情。

詐欺師がどんな手口で彼女たちを手玉に取ったか、
その内容は本編に譲るとして、

とりわけ注目したいのはインタビューを受ける彼女たちの表情、トーン、口調だ。

彼との思い出を語るときは、本当にうれしそう、「夢みたいな時間だった…!」
明るく語る。

一方、詐欺だとわかった以降を話す語り口は涙を流し、恨みがこもっている。

インタビュー収録時点で詐欺被害者であることは明白なのに、
デートの思い出を語る様は騙される前かのように瑞々しく、軽やかだ。

それが故
観客は彼女たちの感情を追体験できる。
華やかな偽バチェラーの輝きを新鮮に驚けるのだ。

たしかに、最初から被害者然と語られると
幾許かこのニュアンスは弱まったであろう。

当時の記憶を当時の感情で瑞々しく聞き出した作り手の手腕に拍手を送りたい。

いずれにせよ恋は魔法である。いい意味でも悪い意味でも。

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