大羊春秋~羊務執筆者党史~(9)
この「大羊春秋」(だいようしゅんじゅう)とは、私 前多昭彦が主宰していた同人誌サークル「羊務執筆者党」(ようむしっぴつしゃとう・略称SSP)の活動を振り返る「回顧録」です。
水谷優子公認F.C.のこと
若い頃、私はいわゆる声優の公認ファンクラブにいくつか入会していました。
高校時代からアニメのアフレコスタジオ前で“出待ち”をやるほど声優が好きだったのです。
平成元(1989)年のある日、角川書店のアニメ雑誌「月刊ニュータイプ」に「アップルパイ」という名の水谷優子公認ファンクラブが紹介され、会員募集中とありました。
TVアニメ「赤い光弾ジリオン」(1987.4.12~12.13・全31話)のヒロイン“アップル”を演じていた水谷優子に魅せられていた私は、そのファンクラブに入会します。
入会後、一般の会員では満足できなかったため、手紙を出して運営に携わる“スタッフ”になりたい旨を伝えたところ返事があり、9月か10月のある日曜に、新宿にあった喫茶室「カトレア」で会長以下スタッフに会うことになりました。
この会長、もう時効だと思いますし、後に彼がとった極めて無責任な行動を糾弾する意味で氏名を公表します。東京都某市在住の貝塚正晃という当時20歳前後の男性です。
その結果、10月から新宿駅南口の近くにあった整音スタジオ前でTVアニメ「天空戦記シュラト」('89.4.6~'90.1.25・全38話 + 総集編2話)の“出待ち”を毎週しながら、貝塚会長と会います。
実はこの水谷優子公認F.C.「アップルパイ」、事実上、貝塚会長のワンオペ運営でした。よって、同人誌サークルではなく、芸能人である声優のF.C.であるのにもかかわらず組織としてはかなり脆弱で危ういものでした。
特に会報(冊子)の作り方はズブの素人で目を覆うものだったと言っても過言ではありません。断ち切りやトンボを印すなどといった“版下”という概念は全く無く、出力したワープロ用紙をそのまま印刷所へ持ち込むという有り様です。また印刷所も料金が割高な市井の普通の印刷所を利用してました。
そこで、私がアドバイスをしたうえででき上がった新しい会報は、比較的料金が安い同人誌関連の印刷所を利用することにし、12月のある日、貝塚会長と私は「SSP」で利用していた「しまや出版部」へ入稿に向かいました。
ところがその後、貝塚会長とは音信不通なってしまいます。入稿した会報はどうなったのか、アップルパイの運営は今後どうするのか、などということを尋ねたくてこちらから幾度か自宅へ電話をしたのですが…… 居留守もしくは、今思い返すとたまたま本人が出ても「兄はいません」という具合に嘘をつかれていました。
私もいかんともしがたく、この件については諦めて考えなくなりました。
同時に会報をはじめ何も届かなくなり、F.C.自体も立ち消えになってしまいます。
数年後、水谷優子本人からF.C.会員に手紙が送られてきす。それは水谷優子公認F.C.「アップルパイ」は、その後スタッフと連絡がとれなくなり、立ち消えになってしまったことへの謝罪文でした。
そしてお詫びの品として何点かの水谷優子関連グッズと、私には「流星機ガクセイバー」のドラマCDが同封されていました。
水谷優子から手紙が届いた際は、なんとも申し訳無い気持ちでいっぱいになりました。
自分が出しゃばったことが悪い結果を生み出したのだろうかとも考えました。他にやりようがあったのではないかとも。その一方、やはり会を放棄して逃げたと言える会長の貝塚正晃には怒りを覚えました。
今様で言うと、「推し」の人のためにファンクラブを結成するといった行為は素晴らしいと言えるでしょう。そしてそれは、当人にとりステータスになり自尊心を満足させます。
しかし、それだけでは不十分で、この思いを昇華させ「推し」の人に尽くし、その人を応援してくれる人たちのために汗をかく、という志向に至らなければファンクラブなどは運営できません。
ところが、貝塚にはその志向が無く、ただ水谷優子の「取り巻き」だということを誇りたいだけだったのでしょう。
低劣な男です。
平成28(2016)年5月17日(火)、彼女は51歳の若さでガンにより天へ召されました。
訃報に接した際は驚愕したのと同時に、不謹慎ですが感慨がありました。そして、もう30年近く前のことでしたが、ファンクラブについて申し訳無い思いがまだありました。
「大羊春秋」で何故「水谷優子公認F.C.『アップルパイ』」を取り上げたかというと、この会がマトモに活動していたら、「SSP」の活動は全く違うカタチになっていたからです。いや、もしかしたらこの時点で解散していたかもしれません。その意味で深い関わりがあったと言えます。
《第9回「水谷優子公認F.C.のこと」おわり》
※文中敬称略
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