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リアス式海岸失踪事件 ~漁師の胸に奇跡の生還~

プロジェクトをすると本当に色々なアクシデントに見舞われるのだが、
その第一位と言っても過言ではないのが、ドローンのアクシデント。

ドローンは手軽に、さも壮大かのようにプロジェクトを世に示すことができるので、僕らのようなプロジェクター(言い方多分違う)にはなくてはならない存在なわけで。

美術館は基本いつもカツカツなので、ドローンも自前。
なので、「絶対に壊したくない!!!!」という決意を元に、
毎回超絶安全運転を心掛けるも自分の運転技術が皆無なのか、
ドローン自身が望んでいるのかはわからないが、
なぜか毎回飛ばす度にいなくなる。

「え、そんなに俺のところに居たくないの」

と毎回自尊心が傷つくわけです。

ちなみに僕は、物や家に名前をつけるタイプだが、
ドローンに限っては感情移入するといなくなる度に悲しくなるので、
そのまま「ドローン」と無機質なまま呼んでいる。

そんなドローンの最初のアクシデント、

「リアス式海岸失踪事件」

が起きたのは、雄勝小中学校での壁画の制作が始まる前日、
すこし肌寒くなってきた2022年春のこと。

学校の子供達に壁画の下地を塗ってもらうワクワクさんも驚きの授業の準備も万全に整い、あとは校長先生に用意してもらった家でぬくぬく、すやすや寝て明日を迎えればいいだけという超完璧な状態。

のはずだった。

購入たった3日でドローンカメラマンとしての才能が目覚め、
ゆくゆくは世界に名を連ねるドロニーになれるかもと舐め腐っていた僕の目の前に雄勝の超絶美しい壮大な夕焼けが現れたもんで、

「そこに風景があるから」

などとどこかの登山家のような台詞を心で吐きながら、
夕闇迫る海にドローンを放ったのが運の尽き。

息を呑むほど美しいリアス式海岸の風景と、
自分のドローン操縦技術に酔いしれながら順調に飛行させていたのだが、
正直まだドローンをどこまで飛ばせるのかの限界さえ知らず、
内心ビクビクしながらも、そんなの関係ねーとスティックを全力で倒し続けていると、、
その後の人生で何度も聞くことになる、あの嫌な音、、
がリモコンから発せられた。

聞いたことがない、アラーム音に初心者のウブな心が戻ってきてしまい、
普通にテンパった結果、ドローンがどこかに落ちてしまった。。

「これは海に落ちたな」と10万円という価値の儚さと、
ドローンとの思い出の感傷に浸っていると、
「そういえばドローンにはGPSが付いていたな」と、思い出す。

なんとか、ドローンのバッテリーが持ってくれていることを願いながら、お恐る恐るMAPを確認すると、リアス式海岸のギリギリ陸の場所に落ちたことが判明。

砂浜っぽいのは砂浜じゃない。

奇跡。。

リアス式海岸というやつはみなさんご存知の通り、砂浜という海と陸のグラデーションの概念が存在しない、崖オブ崖である。

そもそも人類が到達できる場所に落ちたのかもわからないまま、
とはいえ主人の到着を待っているドローンのことを想うとやるせなくなったので、MAPを頼りにドローンの捜索をすることに。
一人でいくとドローンもろとも行方不明になるかもしれないので、
アーティストの安井に泣きつき一緒に捜索の旅に出たのだった。

近くの車道の路肩に車を停めてガードレールを超えて、先の見えない道を進む。しかし、もちろん道なんぞなく、MAPを見るとすぐそこにあるように見えるのに、どこまでも危険な険しい谷がつづく。

道は自分でつくるのだという感じ。


小学校の時に金時山に登る遠足でひとり頂上を見ることなく、チルしながら麓で同級生たちの帰りを待っていたぐらい、チルマスターであり、根気と体力がないデブなので、道なき道を進みながら、「次のドローンをどれにしようかな〜」ともうすでに諦めていたのだが、

「日が暮れるまでに絶対見つけましょう!」

と安井が漫画の主人公ばりに鼓舞してくれるので、なんとかギリ持ってはいたのだが、内心「絶対見つけるわけがないし、マジ疲れた。。」
と思ってました。すいません。

ということで、山を越え、谷を越え、どうにかドローンがいるであろうあたりに到着。マジでギリギリの崖の上。

どこか地面に落ちているかなとくまなく探すも、全然見つからない。
刻々と夕方が迫りくる中、そんな状況でも、お落ち着くことの重要性をどこまでも知っているので、余裕をこいて一服しながら事態を名探偵のように整理しようとも事態は一向に前進せず。

すると、

「あれ!あそこの木の上にドローンいません!?」

と安井の鶴の一声があたりに響いた。

赤丸らへんにドローンがいるらしい。僕にはわからない。

指が刺す遥か上を見上げるも「え、本当にいる?」
というレベル100のウォーリーもびっくりの難易度。
アーティストの認識能力まじ半端ないな。

とはいえ、アーティストの言うことはどこまでも信じるのが美術館の館長としての役目なので、半信半疑ながらもその部分に向けて、枝とか石を投げてどうにか落とす作戦を決行。

元来フォームは綺麗だと周りから褒められて来たのだが、デブの極みなので、一時間くらい投げ続けたものの、全然当たる気配もせず、、
そもそもそこにいるのかも怪しいし、迫り来る夜と遭難の気配を背中で感じたし、持ってきたお茶のペットボトルも空振りに終わってどこかにいちゃったし、、

諦めて来た道を戻ることに。

すると来た道以外にも近道があったことを発見し、車道まで難なく生還することに成功。

「もう精一杯頑張った。本当に頑張った」

と地区大会の決勝で惜しくも敗れたバスケチームの監督の気分になりながらガードレールを最後の力を振り絞って超えたのも束の間、
すぐそこに1台の軽自動車が近づいて来て停車した。

「なんかドローンがなくなったらしいじゃん!」

と町の役場の元所長が奇跡的なタイミングで登場。

どうやら、行方不明になったらやばいと、一応何人かの住民に探しに行くことをLINEで伝えていたのだが、そこから噂を聞きつけて来てくれたということだった。

結構頑張ったけどもう暗くなるし諦めて戻って来たところだと元所長に言うと、とりあえず一緒に見に行ってくれる流れに。

ただ、元所長が前日自宅の庭の枝切りをしていて脚立から落ちて、
腰が痛いということが発覚、絶対にそんな状態で捜索しちゃいけないということと、今戻って来た道も近道とはいえ歩くのが結構きつかったので、
「いや、ほんと無理しないで大丈夫ですよ」
といいながら、どうにか戻るのをやんわり阻止しようという作戦虚しく、
全然大丈夫だよという優しさ純度100%の言葉に、
なんていい人なんだと諦めて戻ることに。

程なくその問題の木の下に到着。

ドローンがいると思われる、場所を示すが元所長を持ってしても、
なかなか救助策が浮かばずにいると、

「知り合いに林業やっている奴がいるから、明日木を切ってもらおう」

という完全に意表をつく、え、そこまでする?というアイデアを元所長が考案するも、夜雨が降りそうだったので、ドローンが壊れてしまうので泣く泣く諦める。

そして、日も暮れ始め諦めムードが充満する中、
元所長からまたもやナイスアイデアが。
ペンキを塗るローラーに取り付けるアルミの棒を4つくらい繋げて、
下からつついて落とす作戦を試してみることに。

そして、その棒は学校にあるので、また来た道を戻る。

学校に棒を取りに行く時に、お世話になってる漁師さん一家とすれ違い現状を報告したところ、漁師一家も救助に参加してくれることになり、大捜索部隊が組織された。

また、近くのホテルを再建している社長さんもその部隊に加わり、
計9人の大所帯となった。
メチャクチャ申し訳ない&めっちゃ大事になってしまった。
これは救出できないとマジでやばいという焦りが募り出す。

そして、どうにかまた現場に戻り、
ガムテープで棒をつなげて突いてみるも、なかなか落とすのが難しい。

まさかこの棒たちも、ペンキを塗る前にこんな事に使われるとは思ってもなかっただろう。


グニャグニャの棒で突くがなかなか落とせない中、
ここであることに気づく。

崖に生えた木の上にドローンがいるので、
棒で突いて落とせたとしても急斜面にそのままバウンドして、
海に真っ逆さまに落ちてしまうことに。

網のような物で、落ちて来たドローンをキャッチするのがいいかもとも思ったが、その網がない。あーでもない、こーでもないと作戦を練っていると、今度は漁師さんから相当リスキーなナイスアイデアが。

「崖の上の木に命綱をくくりつけて、斜面で俺が立って待ち構えるから落としたらキャッチするよ」

と。

え、現実にこんなヒーローがいるの??と思いましたよ。ほんとその時。
そこまでしてもらうのは、さすがに悪いなとも。
でもアルマゲドンの最後のシーンを思い出していたし、都会でぬくぬく育った僕には、頷くことくらいしかできないわけです。
なので、そのリスキーな最後の作戦を実行することに。

ここで本当に言っておきたい。
漁師さんは常に命を危険に晒しながら仕事をしているということを。
なので、本当に肝が据わっていているし、これぞ覚悟を持った本物の男なんだということを全国民、全世界に知ってもらいたい。
いや本当に、かっこいい。


ということで、漁師さんを急斜面で待たせたくないという一心で、

つつく。

つつく。

つつく。

するとついにその時が!!!!!!!!

灰色の物体が木々の隙間から落下して、
斜面に立つ漁師さんの胸にすぽっと飛び込んだ。


生後すぐの赤子のように抱き抱えられたドローン。
黙って見ていた捜索隊の面々も両手を上に掲げ、
楽天が優勝したのではというくらいの歓声に包まれた。
その瞬間は、今でもスローモーションで思い出す。
みんなが笑顔で喜んでくれた。


というのが、リアス式海岸失踪事件の顛末。


不思議なのはこの事件をきっかけに、
より住民との仲が深まっていった気がするということ。
その最初の一歩だったのかもしれないということ。

もちろんプロジェクトをしていく上では不要な迷惑をかけないのに越したことはないのだが、何かアクシデントがあるとその解決に向けて一緒になって考えてくれる人たちがいるということに気づくことができる。

それは本当に大事なことだと思った。
一緒に救出してくれたみんなには感謝しかない。

人との関係性をフラットに、捉えることは難しいし、
その垣根を越えるのも難しい。

でも確実に、
このアクシデントのおかげでよりいい壁画をこの町に残していきたいと思ったし、そういう連続した町との思い出によって海岸線の美術館という活動が成り立っているのだと感じる。

リアス式海岸失踪事件

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