見出し画像

【短編小説】 続・シニア喫茶店①終


前作のお婆ちゃんウエイトレスは、もういない。


確かに最近はとても店に出せる状態ではなかった。
さすがに引退したかな。


替わりに若い娘が来た。
普通にソツなくこなしている。


ちょっと寂しい気もする。
普通の喫茶店になってしまった。


しかし、前と変わらない昭和レトロな雰囲気は健在だ。


ウエイトレスは若返ってしまったが、厨房に居る店主も常連客も相変わらずお年寄りで、時間がゆったり流れている。



ただ······。


今朝の目玉焼きは、殺す気かってぐらい塩がかかっている。

スープには具がひとつも入っていない。

BGMのスイッチも入れ忘れているのだろうか?
店内は異様な静けさだ。

そして、開店から30分以上経っているはずなのだが、まだ誰のテーブルにもコーヒーが乗っていない。



「コーヒーまだぁ?」

たまらず常連客の一人が、席から厨房の店主に声を掛けた。



「あー、まだ出来てないからー」



······。



店主もそろそろヤバイのかもしれない。



しかし皆、各々再び新聞に目を落とし、コーヒーが出来上がるのをおとなしく待ち続ける。

文句を言う客など一人もいない。


私は、明日もきっとこの喫茶店へ来るのだろう。

もちろん常連客達もだ。


なぜこんなにもこの店が寛ぐのかわからない。


だが、そんなことどうでもいいじゃないか。


私はすっかり冷めてしまった具の無いスープを一口すする。


窓外へ視線を向ければ、そこには急ぎ足で職場へと向かう出勤中の人々。

こちらとは全く時間の流れが違う。


私は空になった皿をテーブルの隅にずらし肘をつくと、その忙しない世界を優雅にゆったりと眺める。






コーヒーは、まだ来ない。





おしまい




まえがきへ          あとがき


この記事が参加している募集

私のコーヒー時間

おじいちゃんおばあちゃんへ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?