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【短編小説】 シニア喫茶店①終


職場から2ブロック程離れたところに、行きつけの喫茶店がある。

毎朝ここで出勤前にゆったりとモーニングを食べるのが、私の日課だ。


昭和レトロな店内はとても古い。
椅子もところどころ破け、スポンジが飛び出ている。


だが、それがいい。


客は毎日同じ顔ぶれ。
年配の常連客ばかりだ。
とても落ち着く。


しかし、最近問題が。


この喫茶店、ホールはウエイトレスのお婆ちゃんが一人でやっているのだが······。


彼女が日に日に挙動が危うくなっているのだ。


仕事中、

「うちに忘れ物をした」

とそのまま店を出て行く。


「うちすぐ近いから」

と言っていたのに、


いつまでも、

いつまでも、

いつまでも、

いつまでも、


帰ってこなかったり……。




昨日は注文をとってから30分後に私の席へ来て、

「注文なんだっけ?」

……。

30分気長に待ってる私も私だが。


レジに伝票を出すと、伝票には何も書かれていない。

「注文なんだっけ?」

……。



今朝はモーニングの皿は来たのだが、コーヒーがちっとも来ない。

さすがに30分は待てないので、厨房まで言いに行った。

すると、

「用意はしてあったのよ〜」

と言い訳しながら、そこにずっと置いてあったままのコーヒーを私に手渡す。


当然冷めている。

既にアイスコーヒーだ。

……。


だからと言って、べつに怒る気にはならない。


私は仏のマダンテ。


すぐにカリカリ怒ったりはしない。

世の中は人によって時間の流れるスピードが違うのだから。



コーヒーの冷める時間は共通だけどね。




おしまい



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