マガジンのカバー画像

23
運営しているクリエイター

#文学

憧憬

憧憬

La nostalgie

濃紺のみなもに
銀の絨毯が敷かれたみちを
おまへの手をとり
駆けてゆきたかった

裳裾を垂らしたやうな
細く白い雲、澄みゆく大気

耳もとで囁かれるのは
すべてが 残酷な結末である
#詩 #散文詩 #文学

フレア

フレア

月明かりさへ霞ませる
燦然たる光は
橙色をして
ぼくの心臓を震わす

光はあまりに眩しく
肋骨のすき間を洩れ
辺り一帯に
恒星のリュクスを
撒き散らすやうだ

八月の夜の静寂に
燃え盛る星が叫ぶ

ぼくは此処にゐて
それから
恋をしてゐると
#詩 #散文詩 #文学 #8月31日の夜に #夏

憐憫

憐憫

淡色の花々を抱(いだ)きながら
それらを一つ残らず手折り
埋めてしまいたいといふ衝動

あゝ 憐れな命よ

芽吹き 開花させたるは
紛れもなく
ふたつの胸のふくらみの
深部であるといふのに
#詩 #文学 #散文詩

雲行き

雲行き

薄雲の透き間から
そっと手をのばし
あのひとの運命を
変えられないだらうか

曲がり角をやさしく手の平でふさぎ
遠く朝の光を目指して
硝子玉の転がるやうに 真っ直ぐ
#詩 #散文詩 #文学

薔薇の色は

薔薇の色は

昨夜贈られた
一輪の薔薇
この連なる花弁が
その目には何色に映るか

あなたも知っているはずだ
必ずしも薔薇が
望まれた色をもって咲かないことを

聖堂でひとり
ぼくは祈った

願わくばそれが
白薔薇であるようにと
#詩 #散文詩 #文学 #哲学

北極星

北極星

砂粒の混じる風が頬を強く打ち、熱の籠もる痛みが唇を震わせた。草木の萌える土はなく、乾いた地の裂け目は暗く深い。とうの昔に枯れ果てた灌木にとまる黒々とした鴉(からす)の群れの、虚しい笑い声だけが残響するさまは、しかし現である。
果てない荒野を歩みながら、わたしは外套の内にかくす青い星の存在を常に想った。「この仄青くかよわい光を、守ってゆかねばならないのだ。」唯一残された使命の断片と、傍若無人な風だけ

もっとみる
飴色の目

飴色の目

真夏の日暮れ
夕立の前に似た
張り詰めた気配

或る少女が
ひとり空を見上げ
鈍色の髪を
濡れた空気に浸す

雨雲の狭間
遠くで稲光が
見えたような
それとも幻か

振り返りざま
少女の目が
わたしを捉えて閃いた

其れは
飴色の目であった

誰も彼もが
少女の緊迫した挙動
指し示す方角から
目を逸らせない

飴色の目は
胸の奥底に沈む
革命への憧憬
知的昂奮への欲望

掻き立てられた

もっとみる
透明な祈り

透明な祈り

冬の夕べよ
どうかあの女(ひと)の
焦がすように熱く
猛る血の流れるからだを
薄暮のやさしい闇で
包んでおくれ

夜明けの澄んだ地平線を
ともに見つめ
そのみずみずしい指先に
触れられるように

冬の夜よ
どうかかの女(ひと)の
紅いルビーの唇
ヴィオロンの音を奏で
まっすぐに射る言葉を
露台を吹きわたる風で
受けとめておくれ

楽園に生るという
甘く熟れた柘榴に
震えず口づけられるように

もっとみる
駆ける詩人

駆ける詩人

詩人は駆ける
天蓋の閨にねむる
貴方の烟る横顔
薔薇色の頬のため

綴られた韻律
揺れ惑う抒情
斬り閃く散文
円やかな調べ

蒼ざめた唇に
匙でそっと
親鳥のように
言葉をはこべば

たちまち
春が咲きこぼれ
冬が雪解けて
頬に紅みさす

夢見るような瞳と
慈しみのまなざしは
焚べられた詩の
其々が灯す炎

金星の差延べる手をとり
詩人は旅する
腕一杯の詩篇と倶に
銀色の砂浜を駆け

もっとみる
静謐

静謐

石灰岩と曇り空の
曖昧な境界は
水彩筆によって
暈されて滲む

鈍色の水辺に
揺れる葦のさきが
冷たく柔い風を受け
小刻みに震えた

静かに流れる水が
ただよう躰の白い肌を
溶かすように
やさしく包みこむ

水面を透かし見る空は
遠く 広く
のばした腕を
雫が伝い落ちた

薄曇りが映る川は
櫃を海へと運ぶが
ゆるやかな流れは
午睡のように物憂く

聖櫃に納められた
乳白色の蕾は
今か今

もっとみる
飛翔

飛翔

時は満ちた

遠く鐘の音が
告げるのは出奔

絡む蔦を剥ぎ
門を開け
傷ついた手は
光芒をつかむ

金色の血が
奔流となり
褐色の瞳を
希望に燃やす

鳴り響く鼓動
溢れだす生命の躍動
長い行路の始まりに
おまえはいる

おまえには翼がある
明くる大空へ
地を蹴って飛ぶ翼が

冒険と愛が
青空の遥か高み
雲の向こうに待つだろう

透明な追い風が
必ずやおまえを助ける

新しい未来の

もっとみる