シェア
唐仁原昌子
2024年10月14日 21:26
ふと気がつくと、俺は夕焼けの中を歩いていた。 目的地はどこなのか、俺自身今ひとつわかっていないけれど、それは大した問題ではない。 ただ、「この道を歩いて行くのだ」ということはわかった気がしたので、その曖昧な確信だけを持って進んでいる。 俺には、得意なことがないけれども、不得意なこともなかった。また、人に憎まれることはないけれど、同じくらい人に好かれることもない。 何か群を抜いて胸
2024年5月12日 22:28
寝ぼけたまま、まともに目も開けずに手探りで窓を開ける。 ぶわりとカーテンが広がって、部屋の中に渦巻いていた灰色の空気が一気にかき回される。 昨日、五年付き合った人と別れた。 おしゃれで聡明な人だったけど、いつも難しい顔をしているから、それを和まそうと私はいつも一生懸命だった。「元気なところが好きだよ」と言われて、素直に嬉しかった。だから私はいつも元気でいた。いつも元気でいたくて、い
2023年12月3日 22:18
この世界に、音楽があってよかった。 私はそう思いながら、イヤホンを耳に持っていく。 ことの発端は、私が大学へ向かう途中に、バス停で見知らぬおばあさんを助けたことだったらしい。 バスに乗ろうとした際、目の前にいるおばあさんが入り口のステップを上るのを大変そうにしていた。荷物が大きかったせいもあるだろう。 真後ろにいた私は、何も難しいことは考えずに「荷物、持ちましょうか」と問うた。そん