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●ショートショート●

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これまでに書いた短編小説、ショートショートをまとめたものたち。
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2024年7月の記事一覧

【ショートショート】 レモンイエローな二人

【ショートショート】 レモンイエローな二人

「海の底って、簡単にはいけないのかな」
「どうだろうね」

 そもそも海の底って、いったいどこを示すものなのと、私はさっきまで包まっていたタオルケットを握ったまま続ける。

「確かに。うーん、ただ見るだけなら、浅瀬に行けば濡れなくても見えるか」
「なに、海の底に用事があるの」
「ちょっと見てみたい気分なだけ」

 ついさっき仕事を休むと決めたチイちゃんは、テキパキとその連絡を済ませて本当に今日一日

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【ショートショート】 月曜日のかき氷

【ショートショート】 月曜日のかき氷

 月曜日の朝。カーテンが半分だけ開いた、部屋の中。
 太陽は、もうすでにしっかり目覚めている。今日も暑くなりそうだなと、思う。

 身支度をしながら、他愛のない話をする。

「私、生まれ変わったら猫になりたい。でもできることなら、もう生まれたくないかも知れない」
「なんで?また生まれて、次もちゃんと私を見つけて、友達になってよ」
「うーん。自信ないから、チイちゃんが私のこと見つけてよ」
「じゃあ見

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【ショートショート】 私と夏とビー玉

【ショートショート】 私と夏とビー玉

 授業中、気まぐれに筆箱の中を探ると、コロンとした球体が出てきた。

 それは何の変哲もない、淡い水色のビー玉。

 そうだ、すっかり忘れていた。
 消しゴムのカスや、筆箱の糸くずがついているそれに、ふうと息を吹きかける。

 私の吐息でふわっと曇ったそれを、指の腹でぎゅっと擦る。そうすると、あっという間にそのガラスの球体は「透明」を取り戻す。

 これは二週間ほど前に、隣の席だった松井さんがくれ

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【ショートショート】 空の上の七夕事情

【ショートショート】 空の上の七夕事情

「いや、まじでごめん。とりあえず今日は無理なの」

 電話の向こうでベガさんがそんなことを言い出したのは、七月七日のお昼を少し過ぎた頃だった。

 着信があったスマホの画面にその名前を見て、ウキウキで応対した数分前の気持ちは、今やすっかり萎んでしまっている。

「えっ……。だ、だってもう今日だよ。会うのが嫌だって、あまりに急すぎるよ」
「ほんと、そこに関してはガチでごめん」
「七月七日は、一年に一

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