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小説「歩み」

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小説「歩み」 第2章 第2話 「小学校」

 幼稚園年中で自分の名前を漢字で書けるようになっていたし、年長でかけ算九九の二の段まで覚えていたので、平仮名から習う小学校の授業は退屈だった。
 隣の席の男の子が「この平仮名なんて読むの?」と訊いできたので目を向けると、その男の子の名前に使われている平仮名だったので心底驚いた。自分の名前の平仮名すら読めずにどうやって6年間生きてきたのだろうか、と。

 小学校に入ってから、水曜日を好きになり、木曜

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小説「歩み」第2章「幼稚園」

三歳くらいからは朧げに覚えているので私視点で話を進めることにする。

 幼稚園は楽しかった。幼稚園児ならではの「ママなんで帰っちゃうのぉ〜」と言って泣きじゃくり先生や母を困らせる、なんてことは一度も無く、なんなら「なんでママも園庭に入ってくるの?」なんて言い放つ三歳児だった。
 いかにも「幼稚園児」といった性格の女の子に嫌がらせをされて傷ついた記憶もあるが、幼稚園でやる勉強や運動にはついてい

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小説「歩み」第1章「母」

私、太田りおの母は所謂「毒親」だった。父からは暴力を受けた覚えはないけれど、暴れ狂う母から私を守ってくれなかったから、やはり「毒親」なのかもしれない。私には兄弟はいない。毒親の両親と私だけの息の詰まる三人暮らしだ。

 母は両親と兄との四人家族で育った。
 母の父、つまり私の祖父は石油をトラックで運ぶ仕事をしていたらしい。それなのに母曰く、石油を積んだトラックを飲酒運転していたとのことで、神経

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