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コール・マイ・ネーム
蓋が開いてしまわないように、そっと押さえ続ける。それは私にとってよくある出来事だった。開いてしまえば、二度と元には戻れないことを知っていたから。
だけど今夜、一つの箱の蓋が開いてしまった。私も迂闊だったが、長年蓋を押さえ続けることに麻痺を感じていたのかもしれない。
酔い覚ましに歩いていた深夜の帰り道。ひとけがなくなった暗い空の下で、不意に抱き寄せられて口付けられた。
一度離れてもう一度
ホームシック・ヒロイン
私は幼い頃から、自分の欲求をおもてに出すのが苦手だった。
赤い自動車のおもちゃが欲しいと大声で駄々を捏ねて泣く弟の横で、私もピンク色をしたうさぎのぬいぐるみが欲しいと心のなかで思っていた。
だけど口には出せなかった。私はあれが欲しい。その一言が、いつも言えなかった。
そして結局欲しいものを手に入れるのは弟のほうで、買ってもらった赤い自動車を手に誇らしげな顔をする弟を横目に、私はいつも、きよかちゃん