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【評価】元総理大臣・菅義偉の来歴・政治手腕・疑惑を炙り出す映画。権力を得た「令和おじさん」の素顔:『パンケーキを毒見する』

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元総理大臣・菅義偉の”素顔”を明らかにするドキュメンタリー映画。どうすれば「政治を語る社会」になるのか

私の「政治」に対するスタンスと、映画を観る前の「菅義偉の印象」

私はとにかく、政治的な立ち位置みたいなものはほとんどない。というか、政治に関しては「無知」だと自覚している。どれぐらい無知かと言えば、未だに「右」とか「左」とかがよく理解できていないレベルだ。「保守」「革新」みたいなものもイマイチよく分からない。

一応、選挙があれば毎回行くようにはしている。ただ正直なところ、「ちゃんと選んでいる」とはとても言えない。マニフェストを読んだことはないし、選挙演説も聞かない。「自民党は嫌だな」という漠然とした感覚だけはあるので、自民党ではない政党・候補者からなんとなく選んでいるだけだ。

「政治に関心はあるか?」とアンケートや街頭インタビューで聞かれれば「ない」と答えると思うが、まったくの無関心というわけでもない。政治が変わらなければ何も変わらないと分かっているし、そのためには、高齢者ではない世代が政治に関心を持たなければならないことも理解しているつもりだ。しかし、じゃあ何かしているのかと言われれば、特に何をしているわけでもない。

私は、まあそんな人間だ。それでも、この映画『パンケーキを毒見する』を観に行こうと思う程度には政治に関心を持っていると言うことはできるだろうか。

一応、映画を観る前の時点で、私が「菅義偉」という人にどんな印象を抱いていたのかも書いておこう。

色々批判もあった気もするが、官房長官時代の菅義偉は結構良かったと私は思っている。私には人の良し悪しを「言葉が伝わるかどうか」で判断するきらいがあるのだが、官房長官時代の菅義偉の言葉は割と伝わる感じがあった。だから、菅義偉が総理大臣になった時は、少し期待してしまったのだ。

しかし、総理大臣・菅義偉の言葉は、まったく伝わらないものだった。恐らくだが、菅義偉は「自分の言葉を公に伝えること」が得意ではないのだろう。官房長官時代の彼の役割は、自分の考え・意見を述べるというよりは、様々な調整の末に決まった誰かの考え・意見を伝える役割だったはずだ。そして、その役割に菅義偉は上手くはまっていたと感じる。一方で総理大臣は、自分の考え・意見を伝えなければならない。そして総理大臣になった途端、言葉の重みが急に無くなってしまったことを印象的に覚えている。

だから、No.2の立場にいるのが最も活躍できる人なのだろう、と私は感じた。先頭に立って何かを決するより、裏で人知れず暗躍している方が力を発揮できるのではないか、と。

ちなみに、「言葉が伝わるかどうか」という観点から安倍晋三元総理大臣にも触れてみよう。彼は、言葉そのものは力強いが、「『ある特定の層』に向けた言葉しか発していなかった」という印象が強い。政治家として、そのスタンスが適切なのかどうかの判断をするつもりはないが、私がその層に含まれていないことは明白だったので、そういう意味で安倍晋三の言葉は私にはまったく届かなかった。

岸田総理については、政策の中身などを評価したりはできないが、少なくとも「言葉が伝わる人」だと思う。そういう意味では、私は岸田総理に少し期待している。「具体的に何をするか」ももちろん重要だが、政治家はやはり「言葉」も大事だと私は考えているのだ。

映画の構成について

まず先に書いておこう。この作品は全体的に、映画としてはチープな雰囲気がある。私は「中身」が面白ければ「装い」は割とどうでもいいと感じるタイプなので、正直大きな問題だとは感じないが、「映画なのだから『装い』も大事だ」と考える人には、ちょっと違和感が強い作品かもしれない。「菅義偉関連書籍を読む謎の外国人美女」や「丁半博打を行っている着物美女」などが映し出される場面もあり、なんとなくバラエティ番組の演出みたいな雰囲気も感じてしまう。個人的にはもう少しドキュメンタリー映画としてきっちりした「装い」にした方が良かった気がする。もし、「隙」みたいなものを作ろうという意図なのだとしたら、もう少し上手くやった方が良かったように思う。

ただ反面、そのような「謎の要素」を入れざるを得なかった事情も分からないではない。というのも、どうやらこの映画の撮影に際して、菅義偉と親しい人たちへの取材が断られているようなのだ。映画は、「菅義偉の関係者に連絡するも断られる」という場面から始まる。政治家やその周辺の人たちだけではなく、菅義偉がよく足を運ぶスイーツ店にまで電話を掛けたそうだが、取材をOKしてはもらえなかったようだ。

もちろんインタビューを快諾してくれた人もいるわけだが、恐らくその数は通常のドキュメンタリー映画と比べれば少なかったのではないかと思う。だから、インタビュー映像ではないものを様々に詰め込んで映画を構成するしかなかったのだろう、というのが私の受け取り方だ。

ドキュメンタリー映画というにはちょっとチープさが前面に出てしまっている点が、少し残念ではあった。

さて映画は、大きく分けて3つの要素に分けることができる。映画での登場順に並べると以下のようになる。

①菅義偉の本質は「博打打ち・ケンカ師」である
②安倍政権・菅政権は「仕返し政権」である
③「しんぶん赤旗」は何故スクープを連発できるのか?

私は、②、③、①の順に面白いと感じた。そこで、私が面白いと感じた順に内容に触れていこうと思う。

安倍政権・菅政権は「仕返し政権」である

それを引き継いだ菅政権を含め、安倍晋三が長期政権を維持できた理由について、「仕返し」というキーワードで語っていた話が非常に納得感があり、個人的にはとても面白いと感じた。

この話は、朝日新聞の元政治部記者・鮫島浩のあるエピソードから始まる。彼は若い頃、当時の政権の重鎮から「権力と付き合いなさい」と言われたことがあるそうだ。その際彼は、「権力って誰ですか?」と聞き返した。それに対して重鎮は、

経世会・宏池会・外務省・財務省・アメリカ・中国だ。

と答えたという。「経世会」と「宏池会」は、自民党の派閥の名前である。昔ほどではないのだろうが、それでも恐らく、現在もこの2つの派閥は日本の政治に大きな影響を与える存在なのだと思う。

そして、戦後の総理大臣は基本的にこの2派閥のどちらか出身なのだそうだ。そういう視点で総理大臣を捉えたことはなかった。規模の大きな勢力から自民党総裁が出るのは自然な流れだろう。そんなわけで経世会・宏池会から総理大臣が出てくることになる。しかし安倍晋三は、近年では初めてこの2派閥以外から誕生した総理大臣だった。そして、「経世会」「宏池会」という2大勢力以外から総理大臣が誕生することは、これまで権力の外側にいた自民党の政治家からすれば画期的なことだったのだ。

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