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【挑発】「TBS史上最大の問題作」と評されるドキュメンタリー『日の丸』(構成:寺山修司)のリメイク映画

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寺山修司が関わった「TBS史上最大の問題作」と評されるドキュメンタリー『日の丸』を、佐井大紀が令和にリメイクした衝撃作

メチャクチャ面白い作品だった。これは凄い。観ようかどうしようか迷うぐらいの期待値の低さだったが、想像の100倍ぐらい面白くて驚いた。私は、ヒューマントラストシネマ渋谷で行われていた「TBSドキュメンタリー映画祭2022」で鑑賞したが、その後『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』というタイトルで劇場公開されたようだ。この記事を書いている時点では劇場公開も終了し、配信等でも観れなさそうだが、興味を持った方は機会を見つけてぜひ観てほしい。

まずは映画とは関係のない「日の丸」のエピソードから

映画『日の丸~それは今なのかもしれない~』では、街行く人に「日の丸」について唐突に質問する。これは、後で詳しく触れるが、寺山修司が関わった「TBS史上最大の問題作」であるドキュメンタリー『日の丸』を踏襲したものだ。日本人に「日の丸」についてのイメージを問うことで、そこから炙り出される「何か」をそのまま映し出そうという趣旨である。

というわけでまずは、映画を観る前の時点で知っていた「日の丸」に関するあるエピソードから紹介しよう。映画で語られる話ではないのだが、「日の丸」が持つ「不確定であやふやな印象」みたいなものを象徴する逸話である。

「白地に赤丸」という、いわゆる「日の丸」は、昔から日本を象徴するものとして存在していた。しかし、国旗としての「日の丸」を最終的に決定したのが実は1人の大学生だったという事実については恐らく知らない人の方が多いだろう。

時は1964年、東京オリンピックの年。ある1人の大学生が、「世界中の国旗に詳しいから」というだけの理由で、オリンピックの国旗担当に任命された。オリンピックともなれば、様々な場面で国旗は登場する。その際に間違いがあってはマズい。そこで彼に託されたのは、世界中の国旗についての情報を様々に収集し、配色やサイズなど「各国が定める正しい規格」をまとめることだった。

さて、当然彼は日本の国旗である「日の丸」の規格についても調べ始めた。しかし思いがけず、「日本の国旗」こそが彼の最難関として立ちはだかったのである。

何故なら、誰も「日の丸」の正しい規格を知らなかったからだ。彼は日本のありとあらゆる省庁に問い合わせ、「『日の丸』の規格を教えてほしい」と尋ねたが、どこからも明確な回答は返ってこなかったのである。散々調べて「規格など存在しない」と確定したが、そこからがまた大変だった。規格が無いなら誰かに決めてもらうしかない。しかし、そういう打診をしても、「そんな重大な問題を自分の権限では決めることが出来ない」と、誰も「決断」さえしてくれなかったというのだ。

困り果てた彼は、最後にこう開き直る。もう、自分が決めるしかない。

「日の丸」の規格はこのように、東京オリンピックという国家的行事を背景にして、たった1人の大学生の手によって定められたのである。

このエピソードは、「日本」という国家にどこかずっと付きまとう「不確定な揺らぎ」を象徴するようなものだと私は感じた。日本は国名についても、「ニホン」と「ニッポン」という2つの読み方を許容している。これは国家の正式決定だ。2009年、麻生太郎内閣の閣議決定で「国名の読み方はどっちでもよい」と決まったのである。国旗は大学生が決めた、国名の読み方はどっちでも良い。このような「曖昧さ」は、日本という国性や日本人という国民性が色濃く反映されたものであるように私には感じられる。

そしてだからこそ、「『日の丸』と聞くと何を思い浮かべますか?」と問われた時に、多様な受け答えが生まれ得るのだとも思う。日本以外の国で同じドキュメンタリーが成立するのか分からないが、国旗について問われた際の回答が多様に発散していくのは、日本ぐらいなのではないだろうか。

「TBS史上最大の問題作」の誕生と、その存在を知った佐井大紀による令和の挑戦

本作『日の丸~それは今なのかもしれない~』は、繰り返し紹介しているように、詩人・寺山修司がその構成に関わった、「TBS史上最大の問題作」と評されるドキュメンタリーが土台になっている。それが『日の丸』である。放送されたのは1967年2月9日。制定されたばかりの「建国記念の日」の2日前のことだった。『日の丸~それは今なのかもしれない~』の中でも、1967年当時放送された白黒の『日の丸』の映像が流れるのだが、観れば確かに、「TBS史上最大の問題作」と呼ばれる理由が理解できるだろう。

『日の丸』は、街頭インタビューのみで構成されている。画面に映るのは、マイクを持った女性と、受け答えをする街中の人だけ。カメラはどうも遠景からロングショットで狙っているように思える。恐らく、カメラの存在を回答者に意識させないためだろう。となると、そう説明があったわけではないのだが、『日の丸』はきっと、回答者の許可を得ずに撮影・放送しているのではないかと思う。インタビュー前に許可を取っていないのは見ていて明らかだが、恐らく、インタビュー後も許可が取られていないのではないか。私の想像通りだとすれば、『日の丸』とまったく同じ手法は、コンプライアンスに厳しい現代では行えないだろう。

マイクを持った女性は、何の前置きもせず、突然「『日の丸』といったら何を思い浮かべますか?」と質問をぶつける。相手が何か答えても、それに対して一切反応せず、すぐさま次の質問を繰り出す。マイクの女性はテープレコーダーのように、ただ決まった音声を出力するだけの存在というわけだ。そして、そんな不審極まりない状況で平然と回答する人々の姿だけを、なんのナレーションも加えずにただ流し続けたのが『日の丸』なのである。

なかなか凄まじい映像だった。放送当時もやはり衝撃をもって迎えられたようだ。放送中から苦情の電話が鳴り止まず、新聞でも報じられたという。「問題作」と評される所以である。

そんな『日の丸』を新人研修で目にして衝撃を受けたのが、『日の丸~それは今なのかもしれない~』の監督・佐井大紀だ。彼はドキュメンタリーやニュースなどに関わる部署に所属しているわけではないと思う。しかし、新人研修で観た『日の丸』の映像が忘れられず、「同じことを現代で行ったらどうなるだろうか?」と考え続けたそうだ。

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