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いかのおすし① 【登校】

【あらすじ】
北関東で小4の美桜を育てるシングルマザー塩谷美紀は娘にスマホを買うか悩んでいた。近所の不審老人、公園の見知らぬ男、推しに会いに出かけるクラスメイト等、不安が絶えない塩谷親子が巻き込まれた最悪の事件とは。防犯標語「いかのおすし」って何ですか。我が子をちゃんと理解できていますか。大切なものを失う前に、フィルターをかけずに読んでいただきたい、母目線と娘目線から紡ぐストーリー。
※各章のタイトルは流れを時間割で表しているだけです。

① 【登校】

どうせ眠れないと諦めていたのに、名前も知らない生物の声で目が覚めた。暗闇の中で、ああ今日も自分は生きているんだ、と失望する。
 
隣の枕もとに手を伸ばし、手探りでスマホの電源を入れた。
懐中電灯で照らされたような眩しさに一瞬目がくらむ。
時計を確認し、習慣でウエブサイトをひらく。
 
「……にみだらな行為をしたとしてP市の小学校教員の男を逮捕した件で、市の教育委員会は……」
「……で生後間もない赤ちゃんの遺体が見つかった事件で、技能実習生の問題に詳しい専門家は……」
「……の人気クリエイター、ちぇろぴぃさんが長官と一緒に踊った動画が海外でも話題に……」

速報、国内、エンタメと順にページをタップし、もう一度速報に戻って画面更新をする。

「……二人が死亡しているのが見つかった事件についてD県警は、美容師 中島あきら容疑者を児童監禁・暴行した疑いでも書類送検し……」
 
ニュースサイトはいつも、氏名や罪名が僅かに変わるだけで、その本質は大して変わらない。それらに対する、深い関心を装った第三者の浅いコメントも。
何度画面を更新しても、変わらない。
 
きっと何度うまれ変わっても、ずっと同じ道を走り続ける。
 
隣で疲れきって眠るたった一人の家族が眩しすぎる画面で目覚めてしまわないよう、そっとスイッチを切って、今日も同じ朝を待った。

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