戌亥 紅一

戌亥 紅一

最近の記事

「魔機構獣生成未遂事件」

__________________________ 「これって、報告書? 入れたらなんや出てくるンですわな。飲みもんとか」 「はい。そうです」 「その飲みもんって、ずっと持っとってもええの? いつまでに飲まなあかんとかあります?」 「30分以内に飲まないと効力を失うようです」 「……そう、30分ね……おおきに、助かったわ」 _____________________________________  30分。それまでに全てを決め、実行せねばならない。  今日、イヌイは

    • 石取決闘

       8月13日。ガーデンにて開かれた学園祭も後半に入り暫く経つ頃。未だどの店にも足を運んでいないどころか、ガーデンに戻っているかも怪しいドールが1人、秋エリアに存在する公園の長椅子に、今日は座っていた。そのドールは、何をするわけでもなく、唯長椅子の上で空を見上げている。日の昇った頃からずっと。全く無為な時間が流れていたところに、遠くから差し込む声があった。 「公園って聞いたけど…………あ、いた! イヌイさーん!」  声の主は、シャロンであった。その声を聞くなり、イヌイの肩が

      • 釜戸前、半透明なAIと

        『█████████……どこまで正しく聞こえた?』 『何を選んだとしても後悔だけはないように。ですよー』  ————  煌煌魔機構獣が発生してから、あれは不定期に移動を繰り返していた。ある時は海、ある時は映画館、ある時はどこかのエリア……そうしてあれがグラウンドへと立ち入った時、私達は美術館への避難を命じられた。美術館を避難所として使用するのは、以前にもあった。前回の使用も少し長いものではあったが、ここでは割愛する。とにかく、今回も避難してから数日が経過していた。……今、自身

        • フルーツビースト討伐〜ピーチッグ黄・白編〜

          「でも私たちだけというのも……」 「そうなんだよね……」  5月も最早終わりに差し掛かっている頃。2人のドールが何やら相談をしながら、LDKへと姿を現した。リラと、ヤクノジである。余程困っているように見えたのか、先に中に居たドールが声を掛けた。 「__あら、お2人とも。どないしはったんです?」 「あ、イヌイさん! 実は、私とヤクノジさんで魔法の練習を秋エリアの公園でしようって話になったんですけど……」 「練習ね、ええやないの」 「でもほら、今公園にはあれがいるでしょう?」

        「魔機構獣生成未遂事件」

          フルーツビースト討伐〜グレイプフルラット編〜

          「……そんで、あのお面貸してほしゅうて……」 「ああ、うん。そっか、それなら……」  ある日の午後、寮の広間にて、真剣な面持で相談をする2体のドールが居た。  4月頭に出現した『フルーツビースト(仮称)』により、此処箱庭全体は甚大な被害を負っているそうだ。既に何体かは対処が済んでいるらしいが、未だ手付かずの物は多い。そのうちの1体……否、複数体に手を下そうと、交渉を持ちかけていた。 「でも、確かそれって1人でやったら駄目だったよね?僕も協力して良いかな」 「ええ、もちろん。元

          フルーツビースト討伐〜グレイプフルラット編〜

          ホーム

           いつもは開けない缶の中身を覗いてしまったのは、私の不運からなったのか、連日通じて筆を走らせ脳に糖分を欲したからなのか。兎に角今朝の私は蓋を開けていた。  昼と言うには少し早い時間、私は無くなった飴玉の補充を為る可く欠伸を零しながら着物に袖を通す。指先まで凍らせるような寒さと、その指から全身まで溶かしてしまいそうな暑さの繰り返しに、最早今年何度目の衣替えをしただろうか。部屋の温度を見れば、二四度。日陰故かそれとも。一種の博打をかまして玄関の扉を開けた。降り注ぐ日光が、ちり、

          台本メモ レポートの最期を

           私:「〜♫」  僕:「うーん……」  私:「君、昼ごはんができ……なんだ、何をそんな獣みたいに唸っているんだい」  僕:「レポートが、終わらなくて……」  私:「レポート——君、大学生か!」  僕:「そうですけど、それが」  私:「いやぁ、そうかそうか! 若いなぁ! うんうん!」  僕:「いた、ちょっと、背中を叩かないでくださいよ……!」  私:「ははは、すまない! つい気分が上がってしまった」  僕:「もう! そういえば、さっき何か言いましたか?」  私:「おぉ、そうだっ

          台本メモ レポートの最期を

          台本メモ 或る貴方へ

           今日は大雪ですって。布団だけで乗り切れるかしら。湯湯婆、出しましょうか。添い寝なんて良いですけれど、流石に人肌じゃあ心細いでしょう。一先ずお茶でも飲んで。ゆっくりしましょ。春はまだまだ先なのですから。  こうして冬を越えるのも何回目かしら。私たち、知り合って長いですよね。何年かは置いておきましょう。貴方は色んなことを聞かせてくれたわ。お友達の話、お出かけした話、好きな食べ物の話、貴方の見た夢の話、お仕事の話、近所の猫ちゃんの話。一緒に詩作もしましたし、遊園地にも行きましたし

          台本メモ 或る貴方へ

          台本メモ 最終決戦(終わるとは言ってない)

          (凡そ6〜10分ほどで朗読できると思います)  よく来たな、勇者よ。  ここまでの道のりはさぞ辛いものだったであろう。時には命の危機もあったはずだ……だが、貴様はそれを全て乗り越え、進み続け、強い力と、仲間を持ち、今、そこに立っている。素晴らしい……  さあ! お前の倒すべき相手は目の前に居るぞ! 貴様が手に入れた力を、技を、絆を! 私に見せてくれ! 渾身の一撃を、この私へ叩き込むのだ!  ……。  ……どうした。  もう言うことは終わった、ほれ、さっさと来い。  ……来い

          台本メモ 最終決戦(終わるとは言ってない)

          台本メモ 私の最期を(1人読み)

          (こちらは別の台本メモ「日々の最期を」の1人読み私ver.です。約10分程で朗読できます)  ——うん? あぁ、君か。こんばんは。  なんて言っても、今初めて会ったんだけど。どうしたんだい。こんな冬に、寒い海を悠々と見下ろす崖の上まで足を運んで。  何? 私が、飛び降りるつもりなのではと。この崖から。なぜ? ……ほうほう……何も持たず、靴を脱いで、崖の縁にまで歩みを進めるものだから……と。君は一体どこから見ていた? ……なるほど。君の家がこの近くで。観光地から逸れた細い道路

          台本メモ 私の最期を(1人読み)

          台本メモ 日々の最期を

           BGM1+風の音   人が走る音  僕:「ちょっと! そこの貴方! 待ってください!」  私:「うん? 私かい?」  僕:「そう、貴方です」  私:「……あぁ、君か! いやあ懐かしいねぇ。なんだろうか」  僕:「え? 僕たち、初対面ですよね? どこかで会ったことあるかな……?」  私:「なぁんて、今初めてあったよ。どうも、初めまして」  僕:「や、やっぱり初めてじゃないですか! いきなりデタラメはやめてください!」  私:「あっはは。ごめんごめん。ところで、どうしたんだ

          台本メモ 日々の最期を