台本メモ 最終決戦(終わるとは言ってない)

(凡そ6〜10分ほどで朗読できると思います)


 よく来たな、勇者よ。
 ここまでの道のりはさぞ辛いものだったであろう。時には命の危機もあったはずだ……だが、貴様はそれを全て乗り越え、進み続け、強い力と、仲間を持ち、今、そこに立っている。素晴らしい……
 さあ! お前の倒すべき相手は目の前に居るぞ! 貴様が手に入れた力を、技を、絆を! 私に見せてくれ! 渾身の一撃を、この私へ叩き込むのだ!
 ……。
 ……どうした。
 もう言うことは終わった、ほれ、さっさと来い。
 ……来い!!
 ——ぬっ——! そうだ、それで良い! 今のは私の力量を測る為の小手調べだな!? いいぞ、遠慮はいらん! 全力で来い!
 ……むっ……ぬぅ……
 ……。先程から何も感じないのだが……なぜだ?
 ……まさか……
 それで終わりだなぞ言わんよな?
 ……はあ……もういい。やめろ。
 まぁ座れ。少し話そうじゃないか。
 ちっ——座れと言っただろ、武闘家よ。そんなことだから早死にするのだぞ。……ほら、残りは座れ。

 貴様らは一体どんな旅をしてきたんだ? ん? ……ほぉ……なるほど、そういう……森の覇者を倒し、海を渡って……待った、その海にはクラーケンを潜ませておいたはずだぞ。そいつはどうした。……遭遇してない?
 逃げたか……まぁいい、その先は。
 ふむ。とある一国を救い、エルフと仲良く……そうだ、エルフ。奴らには光のつるぎを渡した。あれはどうしたんだ。持ってないじゃないか。
 かっこよくないから売った!?
 は〜〜〜…………あのな? あの剣の装飾にはちゃんと意味があってだな?
 どうでもいいって、貴様……この……
 私が何のために! 勇者の旅を! 支えてやっていると思ってるんだ!
 金を持たせた魔物を送ったり、ダンジョンに武器を置いたり、ちょっと問題起こしてみたり、私の情報を流したり、城建てたり……
 こんなに色々やってるというのに、誰も私を殺してくれないじゃないか!
 私はただ死にたいだけなのに〜〜……
 大臣、お前はどう思う。どうすれば良い勇者が生まれると考える。
 大臣?
 大臣!!
 あ、さっき殺した も〜〜〜〜〜〜
 毎回私以外の要が死ぬか逃げるの勘弁してくれんか……いや私が勝手にやっていることなんだが。側近も、四天王も、門番まで私が育ててるんだぞ? 全ては私のため、私を殺してもらうためと。
 それだけやって完成したのがなんだ、デコピンで消えるじゃないか! そんなだったら殺さず残しておいてくれ!
 なんだ、私が強すぎるのがいけないのか。
 仕方がないだろ、生きていたらこうなってしまったんだ……魔族は寿命が長すぎる! そのうえしぶとい! 人類を見習え、たった100年ほどであの世の癖に、スライムのように体が柔らかい。スライムなら核さえあれば死ぬことはないが、人間はどこを叩いても致命傷だ。あんなにも、あんなにも弱い!! 私も人間に生まれたかった……
 なに? なりたかったらなればいい? 僧侶よ、お前は何もわかってないな。魔術に理解のない僧侶などいらん。散れ。
 ……そう、種族を変える術などない。いや、正確にはあるが、実行ができない。そこの魔法使いはよくわかっているじゃないか。
 なぜ実行不能かわかるか? あぁ安心しろ、これが分からなくとも殺しはしない。単に意見を聞いている。……ほう!「急激な変化に体が耐えられない」か。貴様はおもしろいことを考えるなぁ。だが違う。
 材料が無いんだ、単純にな。
 古代魔術の一つに種族を変える術式がある。しかし、術式を構築するために使う物のほとんどが、既に絶滅した生き物からとれるものだったのだ。おそらく、自らの種を変えたい者が多数居ったのだろう。全く忌々しいことよ……普通絶滅なんてさせんだろ! 少なくなったら保護するなり狩猟をやめるなりあっただろ! これだから! これだから目先しか見えんものは!
 ——何? ……「結構喋りますね」?
 そりゃそうだろう、久しぶりの客人なのだ。少し話すくらい許せ……ああなんだ、茶でも欲しかったか? 気付かんですまんな。今用意する。
 ————
 ほれ、人間用の茶だ。飲め。味の濃い薄いは受け付けん。
 うん? 魔物用が出ると思った? 馬鹿言え人間用くらいあるわ。客人のためでもあるが、ほれ、この代は確か……四天王に居ただろ、騎士が1人。……あ覚えてない? あそう……何となく思っていたが結構薄情だな勇者よ??
 まあ、いい。我ら魔王軍……あんまり言いたくないけど魔王軍。にもそういうはぐれ者がやってくるのだ。そいつらのためにも、この城には人間用の諸々がある。
 なんだ魔法使い。私の飲んでる茶が欲しい? やめておけ、貴様には毒だ。……駄目だ、一時の好奇心で命を捨てるでない。……なんだ、なんだしつこいな?? 本当に毒だぞ? いや致死量は知らんが。……はあ……一口だけだからな。ほれ。
 どうだ? 美味くはないだろうが……あ。
 ……あー……
 これは私の意思ではないからな? そいつの自滅だからな?
 ……まぁ……図らずしも貴様1人になってしまったわけだが……同情するぞ勇者よ。共に旅をした仲間達がこうもあっさり死んでいくのだからな。……は? 3日前に会ったばっかり?
 え、待って本当に言ってる? 道中は? その場で組んでた??
 ……。ちょっと待ってくれ。今少しだけ悲しんでる。……。
 よし。勇者よ。貴様一度帰れ。な。もう少し信頼できる仲間を作ってから、また来てくれ。貴様が勇者である限り、次の勇者は生まれないはずだ。貴様は薄情だが、きっともっと強くなれる。待っていてやるから。な。
 そこの扉から普通に帰れる。ちゃんと、ちゃんと鍛えてこい。面倒とか言うな!
 ほら、行け。強くなったら来るのだぞ。
 ……行ったな。

 ……剣のデザイン、もうちょっと見直してみるか……

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