江戸川乱歩『押絵と旅する男』
2次元の愛する人のもとに行った男
正直羨ましい
👉どんな話?
電車に乗ったら、同じ車両に大きくて薄い荷物を持った男が一人。
気になってチラチラ見ていたが、耐えられず声を掛けた。
荷物は妙に生々しく、生きていると思わせる絵だった。
若い少女と年老いた男が障子を背に和室で寄り添っている絵が描かれている。
「この男の方は、私の兄なのです」
家からほとんど出ない本の虫の兄がある日から突然毎日ハイカラな装いをして家を出ていくので心配になった親から後をつけるように言われ、気になっていた私は二つ返事で了承し後を追う。
兄は浅草十二階に着き屋上から熱心に望遠鏡で地上のひしめく人々の顔を見ていた。
自分の足元に人が多く居て喜ぶ趣味を持つ兄ではないため声を掛けると菩薩堂の付近で見かけた女性が忘れられないと言う。
その時再び女性が現れ、兄は駆け出した。
弟の私が追いかけると、兄は覗き絵を覗いていた。
兄が一目惚れした女性は、八百屋お七の覗き絵のお七だった。
そこで兄は弟に双眼鏡を逆さにして覗き込ませ、自分が縮むことで押し絵の中に入ることができた。
お七はもともと絵の存在、しかし兄は人間のため歳を取る。
兄が死んだときどうなるのか全く見当がつかない。
親も死に弟だけ生きている今、やっと新婚旅行をさせられると笑い、二人の出会いの場の浅草に行くのだと言う。
この男の話が幻でないなら、気が狂っているとしか思えない。
👉感想
双眼鏡を逆さにして自分が縮めばいい!
ハッとさせられた。私も人に頼んで双眼鏡逆さにして覗いて貰うしかないな。
浅草十二階の存在は日本史やゲームで知ってたけど中の構造とか広告塔とはいえ中どうなってるの?とか知らなかったのがこれで判明した。
戦争中だったのもあって特攻してる兵隊の油絵を窓も小さい石造りの螺旋階段の塔に飾るセンスよ。
背筋が寒くなるね。
家からほとんど出ない本の虫がある日から突然毎日出かけだしたらそりゃあびっくりするわな。
絵を仕舞う寸前の兄が鋭くこちらを見ていたような気がする、という一文で飯が食える。
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