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プロポーズ

「雪の中
震えたのは
愛言葉ゆえ」

朝から
雪の降る日のこと

思い入れのある
美術館に行こうと
あなたは言った

一時間かけて行ったけれど
閉まっていて
普段なら
せっかく来たのだからと
近くでカフェや他の展示を見るのに
あの日のあなたは
これから
二人の思い出の丘に
行こうと
言った

その
いつもと違う
強固な申し出に
薄い予感を感じながら

いいよ
これから行こうと
また
一時間以上の
ドライブをした

思い出の丘へ続く道は
凍っていて

こんな日は
誰ともすれ違わない

車を降りて
寒い中
手を取り
震えながら
降り積もる雪を
踏み踏み
丘にむかった

こんな日に
あえて行くところではないし

いつも
気遣いをする彼が
強固に歩みを止めないその訳を
感じながら

一種の期待を
胸に抱いて
ざくざくと
雪を踏みしめた

寒い寒いと
言いながら
二人でその場所に立ったとき

彼が
私を懐に入れながら
ずっと一緒にいたいから
結婚してくださいと
寒さと緊張で震えながら
言ってくれた

気の利いた言葉が
思い付かなくて
はい
とだけ
寒さと喜びで震えながら
私が答えたあと

雪が積もっているから
膝をつけなくてごめん

言いながら
大きな輝く石のついたリングを
私の指にはめた

そんな予定は無かったから
どうしたのこれ?

聞いてしまった

彼のお母様が
ご自身の母親から
譲られた
大切なものだと知って

私の指に来るまでの
長い歴史に
暖かさを感じながら

でも
寒さで早く
暖かいところにいきたくて

がちがち震えながら
二人で
追われるように
車に
戻った

車内の暖房と
これからは彼と
ずっと一緒にいられるのだ

安堵の気持ちから
じわりと涙が出てきて
隣の彼を感じながら
デフロスターの音を
聴いていた





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