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小説「オレンジ色のガーベラ」第14話

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第14話

「結局、統合失調症だとされたのは、常識的に考えるとおかしなことを言っていたからなんですよ」

 そうみずほは話し始めた。

「あ、俺もそう。大人の『こうあるべき』から外れると、みんな病院で診断を仰ぐんだよね。自分の子供がどんな状態でも理解してやれ、って思う。
本人だってそれまでの精神状態と違うのは分かっているから、不安で堪らないんだよ」

 同じく真也も賛同した。

 ちひろも頷く。自分もその経験があるから。痛いほど分かる。

「でもね、親もパニックになるわよね。子供があまりにもトンチンカンなこと言ったり、『それ、普通やらないでしょ?』ってことを始めたら……」

「そりゃそうだ。それでも、病院の中に閉じ込められたら、しんどいでしょうよ。俺はラッキーなことに、ちょろっと薬飲んだだけで済んだけど」

「まぁ、病院に入ったら簡単には出てこれないシステムだから。それよりもね、わたしの仮説を聞いてほしいの」

「何についての仮説?」

「『なぜ統合失調症になるのか?』について」

「わたしも聞きたいわ。続けて」
 黙って聞いていたちひろも口を挟んだ。

「統合失調症の人って何かが見えたり聞こえたりして、それが怖くなって眠れなくなったり、奇声を発したり、突飛な行動をすることがあると思うんだけど。
 そういう人たちは、今の世間一般では認められていない靈存在が見えたり聞こえたりして、怖くなるんだよね。そこまでは共通認識でいいかしら?」

「いいよ、次進んで」

 真也の言葉にちひろも首を縦に振った。

「あとは支離滅裂な考え、突拍子も無い思いつきな囚われている人のケースもあるでしょ?全く関係性の無い事柄を結びつけて恐怖を感じてしまう人たち。医学用語だとなんて言うんでしたっけ?」

「あぁ、それが典型的な統合失調症と診断されるパターンね」

「なんでか分からないけど、そう思う。思い込んでしまって、他の人がそんなことないよ、誤解だと言っても本人は妄想の世界から出て来れなくなってしまう。
 そういう人達は、どういうことが起こって居るのか、というメカニズム、というのかな?これは誰も証明できないことだろうから、仮説です」

 ちひろと真也はだんだんと前のめりになって耳を傾ける。

「見えない存在の中にはいいものと悪いものがいます。
 わかり易い例えとしたら、天使と悪魔ですね。人は心が弱ってくると、悪魔の声がより聞こえるようになるんです。例え、良い存在も話しかけていても、そちらの声は聞こえなくなってしまう。
 悪魔の甘いささやき、なんて言葉があるように、悪魔の言葉は魅力的に感じちゃうんです。
 そして、悪魔の言葉ばかり聞いていると、悪魔はその人をやりたい放題に操るようになります。
 元々その人が言わなそうなことを言わせたり、やらないことをやらせたり。悪魔が人間の身体と心を乗っ取って、好き放題するんです。
 乗っ取られた人間は後から考えると、何であんなことしたのか、分からない、という状態になります。
 それで、おかしな行動、変な思考する人だからということで、精神科や心療内科に連れて行かれる訳です」

「じゃあ、統合失調症の人は悪魔に操られてしまった末の言動だ、ということなのね」

「例えば、失恋して精神病になる人いますよね。心にダメージを負って、そこから立ち直れないでいれば、当然心は弱くなる。
 悪魔はその隙を狙って、心身をコントロールしようとするのです。だから、ずっとウツ状態でいることって怖いんですよ。自分の心と身体を好きに使っていいですよ、って悪魔に言っているようなものだから」

 ちひろは目を瞠った。なんという洞察力なんだろう。
 靈が見えるというところから、ここまで話しが発展するとは思わなかった。

「みずほさん、すごいじゃん。その考え、仮説、すごいよ、ホントに!」

 真也は興奮して息が弾んでいる。

「わたしは自分が入院する前に父親とトラブルがあって。それでずっと落ち込んでいたの。それがきっかけだったんだと思うんだ。どんどんネガティブ思考になっていくと、悪魔が入ってくるんだろうね。だんだん自分じゃない感覚があったもの」

 ちひろも大きく頷く。

「でも、入院してからしばらく経ってからかな?善い靈存在の声が聞こえたのよね。『心を入れ替えれば早く出られますよ』って」

「へぇー、それはすごいや」

おじいちゃんと会話できる真也も、興味が尽きないらしい。

「退院したい一心で気持ちを切り替えたんだ。感謝、感謝、ありがとうって。
『入院していてもご飯は食べられる、ありがとうございます。寝る場所もある、ありがとうございます。毎日じゃないけど、お風呂も入れる、ありがとうございます』そういうことを一つずつやっていったの」

「す、すごい。すごすぎるよ。みずほさん、尊敬する!」

「そうしたら、早く退院できたのよねぇ。あの時、善い靈がわたしを心配して話しかけてくれたから、今こうやってここに居られるの。本当にありがたいです」

みずほは見えない誰かに手を合わせた。

「もう少し靈についての話しをききたいんだけど」

この場を逃したら二度と聞けないのではないか、という流れを感じて、ちひろはみずほを促した。

「靈は見えない存在でしょ?そもそも何なの?」

「靈は肉体を持たない人たちです。死んだ人で生まれ変わってない人」

「じゃあ、わたしたちは肉体があるから靈とは違うのね」

「それは大きな間違いです!」
 みずほはびっくりするほど大きな声で言った。

「生きている人はみんな靈を死んだ人とか、自分とは関係ない存在だと思っていますよね。
 違うんですよ。
 わたしたちも靈なんです。靈人といったほうがいいかな?
 靈が肉体に入っていて、生きているという状態なんです」

「じゃあ、わたしたちは生きていても死んでいても靈なの?」

「あ、それ、感覚的に分かるー!」

 真也が口を挟んだ。
「俺ね、小学生の頃によく体験していたんだ。寝てるかうつらうつらしているときだと思うんだけどね。
 自分の意識っていうのかな、魂なのかわからないけど。それが自分の肉体から離れている感じがして。あぁ、自分は死んだら肉体はなくなっても意識だけはあるんだろうな、って思っていたんだ。
 あまりにも怖くなって、その感覚は封じ込めたけど」

「それは自分が霊体であること、肉体から離れた状態で霊体である自分を認識した、ってことよね」

「そう言われるとそうかもしれない」

 みずほと真也の会話になかなかついていけない。なんとなくは分かるのだが、感覚としてどうしてもつかめない話しだ。

「改めて整理すると、わたしたちは生きていても死んでいても靈体です。生きている人は肉体が使える靈体。死んだら肉体が使えない靈体」

 そういうことなのか。靈については氣功や靈氣で学んでいたが、根幹の部分が抜け落ちていた。みずほの教えはわかり易い氣もするが、なにか釈然としない。

「ちひろさん。今までの人生で靈について、色々と刷り込みがあったと思うんですよ。陰謀論とかそういうのも含めて。でも、靈について真実について教えてくれる人って世の中にはほとんど存在しないんですよね。
 スピリチュアルの人が語ることって、どうしても腑に落ちなくて。今わたしが伝えたことを有名なスピリチュアルのビジネスしている人たちは言わないですよ。だって儲からなくなるから。
 弱くなっている人からお金を巻き上げるのが商売でしょ?だから、弱みに漬け込んだことを言ってくるんですよ」

 話しの流れが変わってきた。ちょっと元に戻して確認したくなる。

「あのね、みずほちゃん。わたしたちも靈なのね?」

「そうですけど、何か?」

「その感覚、分からないですかね、中川先生には」

 みずほと真也は不思議な顔をして、ちひろを見る。

「肉体と靈としての存在をべったりと同一視していると、この感覚って分かりづらいかも?真也君は過去の経験から分かるのよね?」

「もちろん。俺は感覚的には封印したけど、元々肉体と自分の魂は別物だと知っているから」

「これは感覚的な問題だから。今までどれだけ刷り込まれてきたか、ってことなのかなぁ?」

 二人とも腕組みをして真剣に考えている。ちひろはその様子を見て微笑ましく感じた。

「ありがとう。今まで知らなかったことだから。すぐに認識しづらいかもしれないけど、理解したいと思うわ。頭ではなんとなく分かるけど、腹落ちするには時間が必要かもしれない」

 時間なのかな、そんなことないんじゃないの?二人であれこれ意見を出し合っている。靈存在の認識が合っている二人は、大きな価値観の共有をしているように見える。

「今日はここまでにしましょう。クライアントさん同士が顔を合わせることは通常無いのだけれど、今回はTwitterで知り合っているからね。まぁ、縁があるからこうやって顔を合わせているのかもしれないわね」

「ありがとうございます。今日はわたしの仮説から始まって色んな話しをさせてもらえたこと、ありがたいです」

「俺も愉しかった!こういう話しは誰ともしたことなかったから!」

 ちひろは若い二人の感性が正直羨ましくなる。そして、自分は若くないと思っているのだろうか、と内心どうでもいいことを疑問に思っていた。

(3,720文字トータル34,504文字)


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