衿 さやか

会社員です。綺麗な言葉が好きです。発表作「それ以外全部を、あなたがくれても」(2019…

衿 さやか

会社員です。綺麗な言葉が好きです。発表作「それ以外全部を、あなたがくれても」(2019_大阪文学学校賞奨励賞)「かわりばんこの おあいこ」(2022_樹林687号)「泡のような きみはともだち」(2023_文學界6月号)

記事一覧

満ちてゆく/藤井風

わたしは塔の上にいる。 雲が分厚く覆って、霧みたいな雨が頰から首を伝ってとても寒い。 塔の上の、柵の外側に立っている。 でもまあ、少しの風が吹いたくらいではそこか…

衿 さやか
2か月前
9

いつだって どこだって なんだってあげる ぜんぶ持って行っていいよ

3月になりました。 わたしは、3月生まれです。 それで、3月が好きです。 なんか3月生まれって、自分っぽいなあと思います。学年の一番最後に誕生日を迎えるので、スタ…

衿 さやか
2か月前
9

4年後のわたしへ

今日は2024年2月29日です。閏日なんだって。4年に一度しかない日です。良い機会なので、今のわたしが、4年後のわたしに向けてだけ、言葉を残します。誰かのための文章で…

衿 さやか
2か月前
15

明日のわたしにできること 今日のわたしが眠ってしまっても

「失う」ことがこわい。 突き詰めて考えてみると、わたしの人生はずっとそうだったなと思う。 「失うこと」がこわかった。 「失う」という言葉を打っただけで喉が締め付け…

衿 さやか
3か月前
16

車窓の夜は わたしだけのもの

わたしは大阪で生まれ、大阪で育ちました。 職場もずっと大阪で、つまり大阪から出て暮らしたことがありません。 大阪の中で前から憧れていたエリアがあったのですが、今…

衿 さやか
7か月前
16

ひかりもの/あいみょん

ほんの些細なことで、そんなこと取るに足らないことで、具体的に言うのもばかばかしいくらい、小さなできごとなんだけど。 ある質問をされたことによって、自分にとっては…

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ゆるせなさを胸に抱いて たゆたう

生きていれば、腹の立つことはあるだろうと思う。理解できないことも、分かり合えないことも、分かってもらえないかなしみも。 とんでもなく意地悪なことを言われたり、理…

15

【創作】残ってる/吉澤嘉代子

 革張りの3人掛けのソファの真ん中をあけて、わたしたちは隣に並んで座る。3人掛けの1人分よりは狭い間隔はもどかしいみたい。もう蝉は鳴いていなくて、あれ蝉っていつ…

5

いつか忘れてしまうから その時まで一緒にいよう

とりとめのない女友達との会話の中で、過去の苦い思い出や、くるしみ、悲しみについてふと話題にすることがあった。 彼女はかつてしていた数年間の結婚期間に起きたことを…

7

そんなあなたを、責めたりしないよ 少なくともわたしは

「それって彼が好きなんじゃなくて結婚したいだけなんじゃないの?」 「君は俺が好きなんじゃなくてただ結婚したいだけなんだろ。」 こういうことを言っている人のことも…

6

フラットシューズの わたしを愛して

「昔はお局さんがこわかったのに、年を重ねるごとに自分も気がきつくなっている」という旨のツイートを見かけた。これは自分が常々思ってきたことで、考えてきたことだった…

7

やわらかく着地していく ほどけてゆく あとはだから眠るだけ

なんか知らんが、いっつも悔しがってるな、自分。と気付く昨今。 「あのとき手を抜いたからかもしれない」「あのときいい加減な対応をしたらかもしれない」「あのとき有給…

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【読了】どうしても生きてる/朝井リョウ 著

わたしは、自分を嫌な女だと思う。 たとえば。 勇気を出してわたしのデスクまで相談に来てくれた子の話を聞くとき、時計を見てしまった。 ああ、また新幹線、最終かも。…

8

【読了】きらきらひかる/江國香織 著(2022/1/2)

どれだけ未読本が積まれようとも、併読中の本があろうとも、1年の1番はじめにはこの本を読むと決めているので(たいてい元日か2日には)毎年この本を読むことになってい…

8

わたしたちは無力感を持つ必要などない 少なくとも今くらいは

例えば。 心の中に絶対に揺らがない芯を持っていれば、どんなことをしたっていいと思っている(もちろん、倫理に反することなどはしませんよ) 言いたくもないことも言う…

4

「己の怠慢問題」とテンションのグラデーション

Twitterは、明らかにいつも「イイネ」をくださる貴重なフォロワー様たちがいて、わたしはその人たちになるべく嫌われたくないのであまり好き放題も書かず、一応考えて投稿…

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満ちてゆく/藤井風

満ちてゆく/藤井風

わたしは塔の上にいる。
雲が分厚く覆って、霧みたいな雨が頰から首を伝ってとても寒い。

塔の上の、柵の外側に立っている。
でもまあ、少しの風が吹いたくらいではそこから落ちたりはしないから危なくはない。

ただ、あまりにも些細な理由で、ほんの少しの、それは言葉かもしれないし事象かもしれないし、自身の内在的な話し合いの結果かもしれないけれど、あまりにも些細な理由で、その塔の上から姿を消してしまうことは

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いつだって どこだって なんだってあげる ぜんぶ持って行っていいよ

いつだって どこだって なんだってあげる ぜんぶ持って行っていいよ

3月になりました。
わたしは、3月生まれです。
それで、3月が好きです。

なんか3月生まれって、自分っぽいなあと思います。学年の一番最後に誕生日を迎えるので、スタートダッシュに全然間に合わない。でもそれもふくめて、まるっと3月が好きです。

3月って、まだすごく寒い日があったりするのに、日中は陽射しがやわらかくなってきて、それでも油断しないでね、っていう感じがして、よーし、これから春だなあ、とい

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4年後のわたしへ

4年後のわたしへ

今日は2024年2月29日です。閏日なんだって。4年に一度しかない日です。良い機会なので、今のわたしが、4年後のわたしに向けてだけ、言葉を残します。誰かのための文章ではないので、つまらないかもしれないですが、わたしのために、残します。

4年後を考えるにあたって、まず4年前を思い出していました。

あなたも知っての通り、わたしは写真を撮られることが苦手なので、ほとんど写真がありません。でも、4年前

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明日のわたしにできること 今日のわたしが眠ってしまっても

明日のわたしにできること 今日のわたしが眠ってしまっても

「失う」ことがこわい。
突き詰めて考えてみると、わたしの人生はずっとそうだったなと思う。

「失うこと」がこわかった。
「失う」という言葉を打っただけで喉が締め付けられる。手に汗が滲む。とても、こわい。

何を失うのがこわいのだろう?
「失わないため」の努力をずっとして生きてきたと思う。

ライフラインに関わることから、人間関係、自分自身、物理的なこと、状態、すべてのことにおいて。

のらりくらり

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車窓の夜は わたしだけのもの

車窓の夜は わたしだけのもの

わたしは大阪で生まれ、大阪で育ちました。
職場もずっと大阪で、つまり大阪から出て暮らしたことがありません。

大阪の中で前から憧れていたエリアがあったのですが、今回縁あってそのエリアに引っ越してくることができました。
(縁あって、というか、自分でそこを選んで引っ越したんだけど)

めちゃくちゃうれしい。
まさか住める日が来るとは思わなかったなあ。
家賃高いけど。でもうれしい。

毎日「わたしの家、

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ひかりもの/あいみょん

ひかりもの/あいみょん

ほんの些細なことで、そんなこと取るに足らないことで、具体的に言うのもばかばかしいくらい、小さなできごとなんだけど。

ある質問をされたことによって、自分にとってはとても大切な出来事だと思っていたことを、相手が全く覚えていなかったり、あやふやだったりすることが分かった。

そんな質問をしてくるってことは、覚えていないってことで、それはその質問者にとってどっちでもどうでもいいことだったんだ、と思うこと

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ゆるせなさを胸に抱いて たゆたう

生きていれば、腹の立つことはあるだろうと思う。理解できないことも、分かり合えないことも、分かってもらえないかなしみも。

とんでもなく意地悪なことを言われたり、理不尽なことを言われたとする。だけど立場上自分はそれを言い返せなかったり、飲み込まなければならなかったとする。

そしてその相手がふと見るとお昼休みにのり弁当を食べていたとする。

すると、何故だかほんの少し、許せてしまう。
「うん、のり弁

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【創作】残ってる/吉澤嘉代子

【創作】残ってる/吉澤嘉代子

 革張りの3人掛けのソファの真ん中をあけて、わたしたちは隣に並んで座る。3人掛けの1人分よりは狭い間隔はもどかしいみたい。もう蝉は鳴いていなくて、あれ蝉っていつまで鳴くんだっけと思う。一瞬浮かぶこういう疑問を、わたしはいつだって解決しないままにする。それでそのうちそのことを疑問に思っていたことさえ忘れてしまうんだな。それが、わたし。

 麻の素材のシャツを着たあなたは、少し暑そうだね。お水のむ?緊

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いつか忘れてしまうから その時まで一緒にいよう

とりとめのない女友達との会話の中で、過去の苦い思い出や、くるしみ、悲しみについてふと話題にすることがあった。

彼女はかつてしていた数年間の結婚期間に起きたことをよく話してくれる。離婚をしようと決めてからも、なかなか相手がそれを了承せず、ずいぶんと長い間、彼女は裁判所に通うこととなった。

結婚期間がスタートしてすぐに、違和感はあったそうだけれど、いろいろな、ほんとうに様々な事情があった。夫婦の数

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そんなあなたを、責めたりしないよ 少なくともわたしは

「それって彼が好きなんじゃなくて結婚したいだけなんじゃないの?」
「君は俺が好きなんじゃなくてただ結婚したいだけなんだろ。」

こういうことを言っている人のことも言われている人のことも知っている。

何故だかこのような話を聞くと、そうだよなあ、やっぱり…、と言われた側は罪悪感を持つことになる。無意識のうちにこの言葉を受け入れて、こんな思想を持つ自分だからいけないのだ、とどこかで罪悪感を持ってしまう

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フラットシューズの わたしを愛して

「昔はお局さんがこわかったのに、年を重ねるごとに自分も気がきつくなっている」という旨のツイートを見かけた。これは自分が常々思ってきたことで、考えてきたことだったので、激しく同意してしまった。

だからと言って、若者をいびったり、同僚にきつくあたったり、
そういうことは当然だけどしない。若いとき、そういうことをしている人たちを見てとてもこわかったし、こうはなりたくないなと思っていたから。

でも、自

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やわらかく着地していく ほどけてゆく あとはだから眠るだけ

なんか知らんが、いっつも悔しがってるな、自分。と気付く昨今。

「あのとき手を抜いたからかもしれない」「あのときいい加減な対応をしたらかもしれない」「あのとき有給とったからかもしれない」「あのとき」「あのとき」「あのとき」

どのときだ。

それは一体、どのときだ。

いいから一旦落ち着け、自分。

全方位に張り巡らせる神経は、振りまく愛想は、自分の無能さの象徴だ。優秀な人はこんなことしない。ちゃ

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【読了】どうしても生きてる/朝井リョウ 著

【読了】どうしても生きてる/朝井リョウ 著

わたしは、自分を嫌な女だと思う。

たとえば。

勇気を出してわたしのデスクまで相談に来てくれた子の話を聞くとき、時計を見てしまった。

ああ、また新幹線、最終かも。

新大阪から大阪駅へ乗り換えて、そこから帰る道と時間を計算する。ああ、長いな。

予定がどんどん押して、タスクがどんどん溜まって、全然消化できていなくても、でも、勇気を出して相談に来てくれた子の話を聞くときは、やっぱりちゃんと向き合

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【読了】きらきらひかる/江國香織 著(2022/1/2)

【読了】きらきらひかる/江國香織 著(2022/1/2)

どれだけ未読本が積まれようとも、併読中の本があろうとも、1年の1番はじめにはこの本を読むと決めているので(たいてい元日か2日には)毎年この本を読むことになっている。

そして、この本を指標に、今、自分の感じていることや、それ以上でも以下でもない自分というものを認識する。

去年の記事はこちら。

これは別に、言わなくてもいいことなのかもしれないけれど、念のために断っておきたいことがあって、このイン

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わたしたちは無力感を持つ必要などない 少なくとも今くらいは

例えば。

心の中に絶対に揺らがない芯を持っていれば、どんなことをしたっていいと思っている(もちろん、倫理に反することなどはしませんよ)

言いたくもないことも言うだろうし、ものすごく疲れていたってめちゃくちゃ元気に振る舞うこともできる。偏頭痛も生理痛も、魔法の鎮痛薬を飲めばいい。ありがとう、薬を作ってくれた世の中の偉い人たち、製薬会社、処方してくれる先生たち(でも用法用量は守ろう)

もっと今よ

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「己の怠慢問題」とテンションのグラデーション

Twitterは、明らかにいつも「イイネ」をくださる貴重なフォロワー様たちがいて、わたしはその人たちになるべく嫌われたくないのであまり好き放題も書かず、一応考えて投稿するようにしている。

それで、このnoteというのは、こんなどこの誰だかよく分からない人間の長文を読もうなどという奇特な方は少ないだろう、と踏んで、好き放題毎回書いている。そしてそれが何よりストレス発散になっている。

「己の怠慢」

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