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ひと言だけ

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#短編小説

わたしはわたし

わたしはわたし

髪が伸びすぎてる。オタクみたいだ。それでもいい気がしてきたから、いよいよオタクになれそうな夏の始まり。

刺身を食べかけたまま、箸を皿に置いて立ち上がり、開いた障子から陽の光のなかへ、かよこは出かける。

半分余ったそうめんが見える。溶けた氷が浮いたガラス器の水面に、明かりのない和室の天井が映る。

まぶしさに顔をしかめて、かよこはギラギラと迫るような道を青空背負ってまっすぐ進む。

髪が首にから

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桜の枝がとどく窓

桜の枝がとどく窓

言葉に飽きてしまって、幼いころみたいに言葉を遊び道具にして、ろくに伝わらなくても伝わりすぎないのがちょうど良いんじゃないのかと。

思いついたある昼から、わたしはコミュニケーション上手をあきらめた。

まず気になってたかっこいい後輩の25歳早瀬くんにがんばって話かけたり盛り上げたりするのを手放した。常温の関係。

上司に笑顔をばらまくのをやめた。言葉を紡ぐ…事実を表すより伝わりやすいように…これも

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天気雨とシュークリーム

天気雨とシュークリーム

ダイエット中といって予防線張ったのに、おかまいなしに、ヤマザキのシュークリームを手渡してくる母親は障害物でしかない、

このあいだ、小雨が降っていて傘がなかったから濡れて歩いていたら友人が働いている喫茶店が見えて、雨宿りしたかったけど、わたしは濡れているから店内には入らない方がいいなと思った。中は暖かくひとがたくさんいて、外にひとりで立つわたしがガラスに映る。足元は泥がはねて汚れていた。

気を使

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水平線の漁火

水平線の漁火

喫茶七つ森でココナッツカレーを食べてから、扉をカランカランさせて外に出ると、午後五時半の西日の中に、わたしの腕がチリチリと照らされる。産毛が金色に光る。

日焼け止めしてないから駆け足気味にアーケード街へ入る。

ブックオフの冷えた風につられて、欲しいものがないのに店内をほっつきあるく。サンボマスターの新譜がもう安売りされて四枚も並んでる。料理本も紀行本も小説も何にも興味が持てないのだが、まだエア

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いちごムース、階段、バッファローの群れ

いちごムース、階段、バッファローの群れ

数の子を冷蔵庫の奥に見つけた。驚いたことに賞味期限は切れておらず、捨てるわけにはいかないけれど、六月に食べる気にはなれない。

とりあえず見なかったことにして、手前のガラスカップに盛り付けたいちごムースを3つ取り出した。

低い丸テーブルを囲む友達は顔をあげて、わあーおいしそうと声をあげる。

私はテレビをぼんやり見る。画面のなかのバッファローの群れがハイエナから逃げる。

10分したら自然番組は

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evergreen

evergreen

CDを入れ替える。

流れてきた曲にあわせるように、窓から風が、車の中をかけぬけていった。

助手席でサトコが口ずさむ歌詞を聞いて、わたしはこの曲のタイトルの意味を知り、おもいがけず驚く。

「見送りに出てこなかったなあ」

「今度はあの子連れてあんたに会いにいこうか」

「うーん夏になったら、あたしがまた来る」

サトコはうすく笑って続きを歌う。

わたしはほんとうに来るだろうか。

あなたが大

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夜中に窓をたたくのは

夜中に窓をたたくのは

恋愛小説を書いてる友人が、夜中に窓をそっとたたき、チョコレートケーキを食わせろという。

糖分が足りないのだと。

チョコレートケーキもだが、わたしの意見が必要なんだろう、と思いながら招き入れてやる。

これ読んで。なんか、終わらないんだけど、

長いだけで堂々めぐりやん。

なんで先に進まないのかね。

さぁ…あ、チョコレートケーキ、切らしてるわ。

アドバイスも糖分ももらいそこなったくせに、翌

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雨の日

雨の日

違和感をかんじるものがなくなって日記を書かなくなり、大学生活も尽きかけた10月。

アルバイト先のセブンイレブンで、インドネシア人の店長が来週からサーフィンしに地元へ帰るから、一ヶ月シフトを任せるという。

店長はあいかわらず制服を着ないで、派手な青いシャツ姿。せいぜいアルバイトにしか見えない。しなやかな肌の濃い笑顔で、やっと帰れるわと鼻歌を歌う。

一ヶ月したら帰ってくんのほんとに、と突っ込んだ

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