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水平線の漁火

喫茶七つ森でココナッツカレーを食べてから、扉をカランカランさせて外に出ると、午後五時半の西日の中に、わたしの腕がチリチリと照らされる。産毛が金色に光る。

日焼け止めしてないから駆け足気味にアーケード街へ入る。

ブックオフの冷えた風につられて、欲しいものがないのに店内をほっつきあるく。サンボマスターの新譜がもう安売りされて四枚も並んでる。料理本も紀行本も小説も何にも興味が持てないのだが、まだエアコンの下にいたいから、ぐるぐる棚を見て時間を過ごした。

明るすぎる蛍光灯がふと、わたしに漁火を思い出させる。

紺色の空に置かれた神様の巨大なブレスレット。水平線に散らばる宝石の一つ一つ。

脳が再生する、濃い土の薫りとからみつく湿気た闇。わたしはエアコンのホコリっぽい冷え冷えの風に吹かれ、蛍光灯の並ぶ白い店内にいる。

もうブックオフにいるのをあきらめて、わたしはまたアーケード街を歩き出した。

都会ぐらしのルーティンのなかにも水平線はある。永遠と限界をそのつど見せる概念としての水平線は、ずっと手元に。

海の前に立つように周りにいつも広がっているものを、愛していけたらいい。

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