2 神社のさとこと、おならブー
No.2 あの時のたぬき
私は近所のサウナに行った。なんの変哲もない、老若男女が集まるスーパー銭湯だ。お食事どころもあるし、露天もある。泡でジェット流責めにしてくれる風呂もある。
サウナでテレビを見ると、なぜあんなに落ち着くのか分からない。すっぽんぽんに申し訳ない程度のうっすい温泉タオルを置いて、ジワっと緩むのを待つ。
「あっ!」
隣の若い女に小さく声を出された。
私は右隣の女をチラッと見た。
「あっ!」
私も小さく声を出す。
サウナに入っているおばさんたちが私たちをチラッとみる。みんな無言だ。
おばさんたちは私より若いけど、気合いではたぶん私の方が若い。
「あの時のたぬきっ!」
右隣の若い女は惜しげもなく、素晴らしいプロポーションをさらけ出して、私に小声で言った。
「しーっ!」
私は小声でたしなめる。
「きつねの癖に、人をたぬき呼ばわりしない。」
私は小声でささやく。
また、私より若いおばさんどもが私たちをチラッと見る。みんな無言だ。
汗が噴き出てくる。たぬきに負けてたまるかといった顔で、若い女は綺麗な上向きのおっぱい丸出しで細いウエストをかがめて、耐えている。
「バッカじゃないの。死ぬわよ。」
私は小声で女に言う。
「うっさいわね。たぬき。」
女が言う。
私の中でも、こいつに負けてたまるかと言う意地がなぜか生まれる。
私も阿呆だ。
「お姉さん、出たほうがええんちゃう?」
優しい声で、私より若いおばさんが声をかける。
おばさんより年上の私をいたわって言ってくれているのは分かる。私の綺麗なグレーヘアが、このサウナで最高齢であることを証明しているのであろう。ここまでのグレーヘアになれるには、相当年齢を重ねてケアしないければなし得ない。
そりゃそうだ。しかし、私はドスが効いた風情でマフィアのボスを長年張っているが、結構阿呆だ。意地がうまれた。
「まだ、大丈夫ですわよ。」
私より若いおばさんに微笑んで見せる。
「バッカじゃないの。死ぬわよ。」
さっきの私と同じセリフを、隣の女が私に言う。
「うっさいわね。きつね。」
私も女と同じセリフを返す。
「そこ、意地の張り合いやったら、ここでやったらあかんとちゃうの?」
別のおばさんが、優しい声で私たちを見かねて言った。
ここは関西人の集まりかっ。
私は右隣の綺麗な上向きおっぱいに汗をためて、真っ赤になっている若い女をチラッと見る。
女は限界だ。あと少しで私が勝つ。
私は自分にあと数分だと言い聞かせる。
「あの写真は私のですから。」
女は息も絶え絶えの様子で、また言い出した。
蒸し返すやっちゃのう・・・・
私は内心思ったが、しゃべったら余計なエネルギーを使ってしまう。
無言で無視した。
「ねえ、やっぱ、お姉さん、出たほうがええんちゃう?」
女が、私より若いおばさんの真似をして、下手な関西弁で私に流し目をして言った。
同調圧力で私をサウナ室から追い出す気だ。
ふん、自分だって限界なくせに。きつねは、暑さに弱いのであろう。
私はまだまだ平気だからなっ!
「あら、あなたこそ、倒れそうですよ。もう出たほうがよろしくて?」
私は真っ赤な顔の女に言った。
「ほんまや。あんた、限界やで。倒れる前に出た方がええで。」
「そう、なんだか倒れそうですよ。」
関西弁も標準語も混ざって、知らないおばさんたちが私たち二人を気遣って言い出した。
うん、限界やな。
こっちまで妙な関西弁になった。
「ほな、お先ー」
私は隣の若い女より先に水風呂にたどり着いた方が勝ちと言う妙なスイッチが入った。
ふらふらで、刺すように暑いサウナ室を出ようとした。
「あっ!私が先よ!」
隣の若い女がタオルを手に持って、本物のすっぽんぽん状態でふらふら出口に向かった。勢いのあまりに、女のおっぱいが揺れている。
「待ちなさい!わたくしが先!」
私は思わず、段差を降りる足を早めた。
「気をつけてー」
サウナ室には、口々に私たちを気遣う知らない女たちの声で溢れた。
勝った!
女のおっぱいが私の腕に当たったが、先にサウナ室を飛び出したのは私の方だ。
「ひえーーーーーっ!」
「うおーーーーーっ!」
水風呂に足をつけながら、女と私は奇声を上げた。
ゆっくりゆっくり、水に浸かる。女がいなかったら、絶対につかっていないであろう。
私の中の負けず嫌いは、私の命を縮めかねない。
女は、私の方を睨みつけながら、水風呂にゆっくり浸かろうと顔をゆがめている。
ほほう。
水風呂も私が勝ちますわね。
私は心の中でほくそえむ。きつねは、まだまだ修行が足りないようだ。
「あの写真は私の!」
「それから、私は人間ですっ!」
若い女は私の方を見ながら、水風呂の冷たさに震えながら言った。
私は女に勝ったと思いながら、先に肩まで水につかった。
まずい。これ以上は死にかねない。
私はさっと水風呂を出た。
女もサッと水風呂をでた。
「ひえっ!」
「うおっ!」
水風呂から出ながら、女と私は奇声を上げた。露天風呂の方に行くか、巨大扇風機の前を独り占めするか、私と若い女の裸の戦いは続く。
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