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なんでアメリカはホームレスが多いのか?ワシントン大学留学体験記11

ホームレス施設でボランティアした時の話

いきなりだが、ここからはホームレス施設でボランティアしたときのお話をしていきたい。

私は2023年の1月から6月上旬まで、大学の近くのホームレス施設で
週に一回、朝にボランティアをしていた。



ホームレス施設とはどういったところなのか?

簡潔に表すと、寮のように二段ベッドが15基ほどある二階建ての施設であった。
共同のトイレとシャワールーム、また広いスペースにパイプ椅子と机が並べられていて、朝食をそこで提供していた。

ホームレス施設は、主に冬の夕方から朝まで開いており、朝になるとホームレスは一律、追い出されてしまう。

ホームレスの施設には、職員さんと日替わりのボランティアが合計5人ぐらいと、病気のホームレスに手当をする人が3人いた。


なぜホームレス施設にボランティアに行ったのか?

結論を申し上げると、どういった人たちが、なぜホームレスになってしまったのか?ということに関心があり、実際にそれを自分の目で確かめて見たいと感じたからである。
また、なぜアメリカではホームレスが多いのか?という疑問を解決したいと感じたからである。なんで生まれる国や場所によって、人の境遇は変わってしまうのだろうという根本的なクエスチョンが自分の中にあって、そこから何らかの理由を持って移動する人々に関心をもった。そういった移民についても、ホームレス施設でより深く知ることが出来るのではないか、と感じボランティアすることに決める。

追記:殆どの場合、自身の行動の原動力が「常に疑問に思っていることを解決したい」という思いから成り立っているんだなーという実感が湧く。人生、わからんことだらけや!


ワシントン州のホームレスについて少し説明

参考までに、ワシントン州に、ホームレスがどのくらいいるか調べてみる。

How many people in Washington are homeless?
Washington state mirrors those national trends. The number of people living homeless in Washington rose by 2,825 people to 28,036 from 2022, according to the state's Point-in-Time Count.Dec 19, 2023

引用源:
https://www.seattletimes.com/seattle-news/homeless/hud-reports-record-high-homeless-count-in-2023-for-u-s-wa/#:~:text=Washington%20state%20mirrors%20those%20national,Point%2Din%2DTime%20Count.

大体、2万8000人ぐらいいるみたいである。
(ちなみに、ワシントン州全体で700万人ほどいるようである。)

しかし、実際はもっといる可能性も否定できない。

引用文の最後に書いてある、ポイント・イン・タイム・カウントというのは、集計方法の1つで、
要は、「ある特定の日にどのぐらいホームレスがいるのか記録する」方法である。

つまり、その日にたまたま、集計されない「抜け落ち」も発生しうる。

また、ポイント・イン・タイム・カウントとは別の話になるが、獄中にいる人や移民で身分を証明するものがない人で家のない人などは、本当に統計に組み込まれているのか疑問である。



また、シアトルでの実生活では、ホームレスと思われる人々との隣り合わせの生活だった。

彼らは、バスや電車などの公共交通機関、図書館など公共で誰でも入れる所に多く居座っていた。大学の図書館は、セキュリティチェックや大学関係者が多くいることもあり、全く見かけなかったが、ダウンタウンの大きな市立図書館ではよく見かけた。

また、家がないので、身の回りのものなどを常に携帯する必要がある。常にゴミ袋サイズの大きな袋を背負って歩いている人が多かった。

私がホームレスの施設でボランティアをしたことで、この点に意識が向くようになった。
なぜなら、先ほど申し上げたように、ホームレスの人々は朝に出ていかなければならなかったので、毎朝大量のスーパーの袋に衣服や身の回り品を詰め込んで、施設を出て行っていたからである。


図書館の中
シアトルの図書館
オシャレな内装(図書館)


どうやってボランティアを探したのか?

インターネットで、シアトルでボランティアを募集しているサイトを見つけ、
その中から探した。

私が最も重視したのは、

自分が住んでいるキャンパスから施設までの距離 と

いつの時間帯にボランティアができるか

である。

アメリカで夜、1人で歩くことは非常に危険だったので、
近場で朝にシフトを入れられる施設を見つけ、そこに応募した。

12月頃に応募して、身分証明書とワクチン接種証明書などを提出し、1月からボランティアを開始した。



ボランティアの内容

朝の6時30分から8時まで、週1回、
3つの仕事を週替わりでやっていた

朝とはいえ、6時だと大分暗かった

朝食の準備、バスルームでの点呼、布団や枕を回収して一か所に集める作業、である。
朝食とバスルームについては、詳しく説明しようと思う。

〇朝食の準備

どこかの団体が直接寄付してくれた食べ物やボランティアが自主的に持ってきたもの、寄付金で購入したものなどを提供していた。

例えば、シリアル、冷凍のハンバーガーや冷凍のベーグル、ゆでたまご、ゼリー、ヨーグルト、コーヒー、オレンジジュースなど。

キッチンはあったが、何か調理はせず、基本的に湯を沸かしたり、電子レンジを使ったりして調理できる簡単なものを提供していた。
コーヒーに入れるスターバックスのシロップもなぜかあった。(さすがスタバ発祥地)

〇気づいたこと

砂糖の消費量が多すぎる

日本でもコーヒーに入れる用の小さなポットに入っている砂糖を見かけたことはあったが、
200gぐらいの砂糖が十数人のホームレスが朝食を食べるとすぐになくなってしまう。

なぜかというと、コーヒーに砂糖を入れるだけではなく、シリアルにも砂糖をふんだんにかけて、激甘シリアルを豪快に食べる人が一定数いらっしゃったからである。

さすがアメリカ。

〇バスルームでの点呼

バスルームでは、トイレとシャワーが合計10個ぐらいあり、
私たちは入口で座って、やってきた人々の名前、どの部屋に入ったのか、何時から何時まで利用したのか、という内容を紙に記録する役割を担っていた。

なぜそんなことをする必要があるのか?

常にゲスト(ホームレス)を監視し、何かあればすぐチェックできるようにするため。

例えば、浴室でドラッグを吸う人もいる。トイレで意味不明なことを叫ぶ人もいる。

そういった人たちを、すぐに特定し、必要な支援を可能にすること。

それが、点呼の目的であったと認識している。

また、バスルームで10-15分以上経っても出てこない人には、大丈夫ですか?と呼びかけを行うこともあった。

ただし、名前を伝えようとしない人や呼びかけに応じない人も一定数いた。

また、ボランティアが終わった後、5人ぐらいのボランティアと職員さんと集まって、名前を言う、どんなことがあったか逐一報告するといった集会の場が設けられていて、皆で集って30分ぐらい話していた。

学んだこと

〇苦労したこと

英語が聞き取れない

私は、ボランティア施設の中で、唯一外国人留学生だった。周りのボランティアは皆アメリカで生まれ育った人々だった。

また、ホームレスももちろんアメリカ人で、かつ薬の影響下にある人やスラングを多用する人は本当に何を言っているのか分からなかった。

また、バスルームの点呼は2人体制で行うのだが、1人が記録して、もうひとりがやってきたホームレスに名前を聞くのだが、忙しく無いときは2人で談笑していた。

たいてい、日本はどんな国か、とか、週末は何をしていたか、とか、そういった話題になるのだが、時々相手が何を言っているかわからず、話についていけなくなる時も多々あった。

朝の6時半という脳みそが完全に機能していない朝一番に、いきなりネイティブのマシンガントークを聞くのは、かなり脳の体操になっていた、と記憶している。

そういった時に、私と年が10歳ほど離れたお姉さん的なボランティアの方と一緒に仕事をすることになった。

その方は「私の話しているスピードが早かったら言ってね」と声をかけてくださったり、
「母語じゃないから大変でしょう」と気にかけてくださって、今でも本当に感謝しているとともに、日本に留学している留学生の気持ちを身に染みて感じることが出来た。
帰国してからも、このことを忘れずに、言語的な配慮に取り組んでいこう、と思うようになる。

気づいたこと

〇ホームレスになってしまう原因

白人でない男性の割合が大きい

これは自分がボランティアをしていた施設での話だが、
白人でない男性の割合が大きかった。

移民としてやってきて、ビザが無かったり、
働くために必要な書類が無かったりして家を借りられない
といった人もいた

私は直接的に携わっていないが、そういった書類の手配なども
施設で支援しているようだった。

また、話を聞いた中では、女性がホームレスになる割合は男性より少ない傾向があること、
もし女性がなってしまったら、男性より身の危険性が何倍もあること
を知った。

LGBTQについて

ホームレス施設に行くまで、気づかなかったことなのだが、
5-8人に1人ぐらいLGBTQのホームレスの方々がいらっしゃった。

そして、LGBTQであるということがホームレスになる
原因になりうるという可能性を
ボランティアを通して初めて知った。

例えば、敬虔なクリスチャンの家族で1人がLGBTQである
と分かった場合、家を追い出して、絶縁する など
自分の想像を絶する以上に根強い差別や偏見があった。

このホームレス施設ももともとはキリスト教系のボランティア団体
であったみたいだが、今は宗教は関係なく、
そういったLGBTQの人々も受け入れている

アメリカに来る前、アメリカは寛容な国だと思っていた。
しかし、現実は必ずしもそうではない、ということを
思い知らされた。

また、ボランティアに入る時も気をつけて、と言われたことは
通称(pronoun)だった。

Sheと呼ぶのか、heと呼ぶのか、theyと呼ぶのか、

ゲスト(ホームレス)の呼ばれたい通称で呼ぶこと。

見た目でジャッジしないこと。

私はわからない場合は、その人を名前で呼んでいた。

ドラッグの影響

ワシントン州では大麻は合法化されているし、街を歩いていても時々、ドラッグを吸う人や
使用済みの注射器を見かける事もあった。

追記:私が留学から帰るころの2023年夏に法律が変わり、公共の場のドラッグの使用や携帯は禁止されたようである。

街をよく観察してみると、バス停や建物の塀のあたりなどにホームレスだと思われる人々がたくさんいて、ドラッグの影響下にあるのかなと思われる人もいた。

意味不明な事を叫んでいたり、鏡に映っている自分を見て怒っていたり。

ドラッグは仕事を奪い、人間を奪い、家を奪って人生を狂わせてしまう。

でも、なんで人はドラッグに手を染めてしまうんだろう。

私はドラッグを使用する本人だけの問題ではないと感じている。

これは、あくまでも私の意見であるが、

「人は極度のストレスやどうにもならない絶望感を味わったときに、
 悪いと分かっていながらも、現実逃避し始める」

ということだ。ドラッグの使用は、ストレスや心身の不安から、自分を守っている防御行為なんだと思う。

人間、程よいストレスを感じることで逆に物事をうまく進ませることもできるのだが、
大きすぎるストレスは身体にとって毒に他ならない。

では、そのストレスや絶望感はどこから生まれるのか、といったことを
ホームレス問題に絡めて少しお話していきたい。

私の見解として、本人だけの問題でなく社会の構造にも問題があると思っている。

それを踏まえて、「アメリカ社会のセーフティネット」について少し
考えてみたいと思う。

社会のセーフティーネットワークが弱い

アメリカに留学して、ひしひしと感じたことが1つある。それは、

「この国は、お金がある人たちが素晴しい生活を送れるシステムになっている」

簡潔に言えば、超資本主義社会だった、というのを感じた。

例えば、

お金さえあれば日本より進んだ最先端の治療が受けられる。

広大な土地を生かして、日本の住居と比べ物にならないぐらい大きな家を建てることができる。

お金さえあれば、アメリカの大学院に進むと潤沢な資金を使って最先端の研究活動ができる。など。

逆に言うと、お金のない人には日本よりずいぶん生きづらい世の中であると言える。

アメリカンドリームを追い求めて、やってきた人もいるだろう。
そこで成功すれば良いかもしれないが、もし失敗したらどん底に突き落とされるような気がする。

まず、医療体制がビジネス化している。治療費が高額だったり、保険に入っていても入院・救急車に莫大なお金がかかったり、などと言った話をよく聞く。

生命に関わる重大な時にもお金のことを考えなければいけない、というのは深刻な問題だと感じている。とくにホームレスの人々の負担は大きい。

また、失業率も高い。クリスチャンの人々の記事を見てくれた人は分かるだろうが、
有名な大学を出て、優秀な人であっても、会社の経営方針が変わったり、経営悪化で高所得者を切るという決断がなされたりしたら、容赦なくレイオフされる。

仕事をまた見つけられればよいが、見つけられない人もだっている。

そういった際に、いつまでも失業保険を受け取れるわけではないし、家を失う可能性だって十分でてくる。

ホームレスは怠惰なのか?

アメリカの社会は日本以上に資本主義社会、競争社会であるということを
留学生の私であっても、目の当たりにした。

そんな中、私がホームレス施設でボランティアをしている際に気づいた事がある。

それは

彼らは自分たちと同じような人間で、ただ家のない人たちだ

という事実である。

これもまた失礼な話だが、ボランティアに行く前は正直
ホームレスの人々が本当に怖かったし、あまり近づかないようにしていた。
今もむやみに関わろうとはしないが、当時は自分の中に強い偏見があった。

しかし、ホームレス施設でボランティアする中で、
人間対人間の温かいコミュニケーションを彼らと取ることができた。

家がないだけで、仕事をしている人もいる。
自立しようと頑張っている人だっていた。

…………………………………………………..

少しだけ仲良くなったホームレスの人とのエピソードを共有したい。

そのホームレスはかなりフレンドリーで陽気な方だったのだが、
ある時、私が首からぶら下げていたネームカードを見て、

「君、日本人?日本の名前だよね?なんて読むの??」

と声をかけてくださった。

私が自分の名前を言うと、

「え、originally from Japan なの?」と尋ねてきたので、

私はアメリカで生まれ育った日本人ではなく、日本からやってきた日本人だ

と説明した。

そこから、彼が日本にとても強い関心を持っていて、
アニメや任天堂が好きであること、日本語を少し知っていることを
知った。

帰国する直前にシフトが入った際に、また彼と話した。

彼はマックブックを持っていたので、
なんでパソコンを持っているの?と聞くと

「これから仕事に行くんだよー」と教えてくれた。

私がもうすぐ帰国するのを知って、彼は

「いいなあ。僕もいつか日本に行ってみたいなあ。任天堂ワールドに行きたいんだよねー」

と言ったので、何も考えずにいつもの調子で
「きっといつか行けるよ!」
と言ってしまった。

言ってから、あ、この発言よかったのかな、と考えたが
少し間があって彼は
「行けるといいな!」と返事してくれた。

私はこの時、この人がホームレスだということを忘れてしまっていた。

………………………………………………………
その話に関連するが、別のホームレスがアマゾンで何かものを注文したらしく、ホームレス施設あてにアマゾンの荷物が届いた。

なんで住所ここにしたかなあと一瞬思ったが、

そうか、この人ホームレスやったわ。

と改めて気づいた。

また、お世話をしている犬や猫をつれてくる人もいた。
職員の人になぜペットも受け入れているのか尋ねると、
ホームレスの人々にとっても、ペットは心の安定剤であり
家族の一員であるので、ペットも許可している、と。

実際に、ドッグフードの提供なども行っていたそうである。

結論

私は、アメリカの社会やホームレスについて学ぶために5か月間ボランティアをしたが、ここでも貴重な体験や学びを得ることができた。
自分自身は、言われたことをきちんとやる、周りのボランティアとコミュニケーションをとって協力するなど、活動をしてきたものの、貢献度はそこまで高くなかったかもしれない。自分なりの工夫が出来たのか、と言われたらそこまでできなかったかもしれない。しかし、ホームレスに対する過度な偏見が無くなったということは胸を張って言えることだと思う。

私の親せきにも、ホームレスは仕事をせず怠惰で甘えている、という人もいる。しかし、一度立ち止まって考えてみてほしいことがある。
それは、何が彼らをそうさせたのか、という事である。

目に見えないところで、社会の構造的な問題があるかもしれない。
実は、自分が当たり前だと思っていたことが当たり前じゃないかもしれない。
そういった意識を持つことが、社会をより良く改善する一歩になるかもしれない。

そんなことを多くの人が考えていければ良いなと感じたところで、そろそろ筆を休めようかと思う。



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