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【夢日記】エロスの有明

 エロスはそこにあった。僕はそれをリューヌ、君へ押し付けた。だが、君の笑顔を見た時、僕の中に自我理想が生じたのだ。君に僕のすべてを吸い出される傍ら、もちろんこのエロスも吸い出され、その理想は蓄積されていた。

 でもあの時。そう、ちょうど君が低俗的で、愚かで、冷血で、卑しく、不遜で、傲慢で、醜く、気取り、悲惨であることを知った時、死への階段を下っていたエロスは、一気に駆け上り、その勢いのまま天まで駆け上ったのだ。このエロスは物質という物質、空間という空間、言語という言語を突き破り、このエロスの根本にある僕の人格全体から、いや、そこからしか発されていない。これが達成される以前、苦労と悲惨しかないが、達成されれば人類全体さえ動かし得る魅力を破り捨てたものたちの周りで振り撒くのだ。

 君は僕を弟のように可愛がったね。僕は君の腕の中で、君に頭を撫でられながら、ひたすら君のことを考えていた。でも僕は君の手を振りほどいた。これほど愛したことのない愛しの人の手を。そして僕はピアノを弾いた。部屋は悲しみで満ちていた。そこに君がやってきた。愛する君がやってきたのだ。君は僕の座っていた椅子の端に座り、僕の音楽に音を重ねた。悲しさがピンク色をし始めた。僕の秋の静かで物寂しい音色に、君の春の穏やかで爽やかな音色が接吻した。異様な興奮だった。

 なんて日だろう。なんて美しいのだろう。こんなに美しい日だから、僕は君に言葉を発さないまま、君に別れを告げた。僕はウェルターのように拳銃があれば、こめかみに銃弾を浴びせただろうね。

 僕は再びベットへ横たわった。すると君はやってくる。君は笑っている。脳裏にアルベルトの顔がチラつく。僕は今どんな顔をしているのか分からなかった。

 君は僕の頬をなでる。
 君の指先が体に広がる。
 君の顔が近づく。
 君で視界が埋め尽くされる。
 君の息が近づく。
 君の音が頭の中でこだまする。
 君の唇が近づく。
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 僕は涙を舐めた。涙は悲しい味がしたが、キャラメルの様なほろ苦さが僕を救ってくれた。

2019年4月13日

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