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マンガとダンスの身体:夏目房之介教授最終講義「マンガ研究はなぜ面白いのか」

漫画と舞踊を身体という共通性で捉える

漫画研究の夏目房之介氏が若いころ漫画を描いていたということで、テレビ番組「浦沢直樹の漫勉」に言及し、また趣味で中国武術をしていて、漫画を描くこととの関係性を指摘し、漫画の身体性を語っていた。

最近、久しぶりに絵や文字を手で描・書いて、体を動かすことで紙に線が生み出されていく、あの独特な感覚が自分には必要なのではないかと考えているところだったので、上記の話に興奮した。

パソコンでキーを押してネット上にコードを書き、それがレイアウトされてビジュアル的に豪華なものが画面上に現れるのも素晴らしいことだが、そういうインプットとアウトプットの仕組みの中だけではきっと自分は生きていけない。

タブレットで作曲ができてさまざまな音色が奏でられるのもすごいけど、やはりピアノの鍵盤を押してそれでピアノの中の各部が動いて音が出て、それを耳で聞くことをしたい。

今のところ生きている実感には身体が必要で、脳と信号だけで「存在する」のが技術的に可能になったとしても、それは少なくとも体を伴う生存とは違うのだろうという気がする。

マンガとアートとダンスの鑑賞と実技

漫画を読むのが好き、美術を見るのが好き、踊りを見るのが好きだ(踊りは、目で「見る」とは限らず、聞く、振動や空気を感じるのも含む。漫画も紙ならその手触りや匂い、絵や彫刻も鑑賞しているときのまとわりつく空気や匂い、物質から漂う質感なども含む)。

でも考えてみるとどれも、作品を受容する前に自分で「やっていた」。もちろん完成系として何かを作り出していたわけではなく、本格的に読んだり見に行ったりする前に、絵を描いていたし、お遊戯的な動きをしていたということだが。

そして作品に触れるときに、その自分の体験、感覚も通して、作品を味わっている気がする。

と書いていたら、視聴中のオンライン講義で夏目房之介氏が、自分で線を書かなくても、目の前で人が線を書き、それで空間が生まれるのを目撃するだけでも、身体的な感覚を少しつかめるという話をなさっていた。

そうなのだ、読者・鑑賞者としても、実践者としての記憶・感覚が、読書・鑑賞体験をいっそう豊かにしてくれているのではないか。

小説も書道も

子どものころから本で物語を読むのが好きで、また習字を習っていた。

習字も、毛筆なら筆に墨を含ませ、半紙に筆を当てて動かすことで、硬筆ならペンを紙に当てて動かすことで、文字が生まれていく点が身体的だ。

物語は、文字が読めないころから読み聞かせをしてもらっていたようだが、自分で本を読めるようになる前に、空想し、眠っては夢を見て、ごっこ遊びで物語を作っていた。ここでも実作と鑑賞が自分の中で結び付いていたことが見て取れる。

さらに、物語を読む経験は、単に文字を追うだけにとどまらない。文字を読んで物語世界を自分の中に描き、楽しめるのは、自分の身体を通したさまざまな体験を実生活でしているがゆえだ。身体と五感で体験したことを基盤に、普段の生活では「あり得ないこと」を「体験」できる。

好きなことの共通点は「身体性」、わかろうとするときのマインドは「自分でもやってみること」

夏目房之介氏の最終講義を聞いて思い浮かんだことを書いてみた。

自分にとっては、「身体」を介すること、下手であっても少しでも「実践」してみることが大切なのだろう。

今でも何かを理解しようとするとき、「とにかくやってみないとわからないな」と考えることが多いようだ。やってみてもわからないことの方が多いかもしれないが、それでも、人がやっているのを見て、説明を読む・聞くだけでは、もっと何もわからないままだろう。

そうやって少しずつ、いろいろ新しいことに出合い、付き合いが深まったり離れたりしていく。そうして人生も自分も移り変わり変化していく。

※講義は後日アーカイブなどの形で公開される予定だそうです。

講義概要

学習院大学身体表象文化学専攻主催 講演会
夏目房之介教授最終講義「マンガ研究はなぜ面白いのか」

日時:2021年3月6日(土)14:00~17:00(予定)
開催方法:YouTubeオンライン配信

第一部[講義]「現代マンガ学講義」の現在いま
第二部[鼎談]夏目房之介×中条省平×佐々木果(司会:三輪健太朗)

[内容]
夏目房之介先生が本学に着任されたのは2008年のことです。それから毎年、13年間の長きにわたり担当してきた「現代マンガ学講義」は、学部生向けの概論にとどまるものではなく、「表現論」と社会や歴史の接続可能性をさぐる夏目教授の思考の軌跡そのものでもありました。第一部「現代マンガ学講義の現在いま」では、講義内容の変化をふりかえりながら、「夏目房之介の現在地」についてお話しいただく予定です。
 さらに第二部の鼎談では、中条省平先生、佐々木果先生とともに、学習院大学身体表象文化学専攻におけるマンガ研究のこれまでとこれからについて、本専攻の修了生である三輪健太朗先生の司会のもと、語りあっていただきます。

[出演者]
夏目房之介 本学教授
中条省平 本学教授
佐々木果 本学非常勤講師
三輪健太朗 跡見学園女子大学専任講師

[タイムテーブル](仮)
14:00 開会の挨拶等
14:15 第一部
15:15 休憩
15:25 第二部
16:25 休憩
16:35 質疑
17:00 終了(予定)


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