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太宰治のことば

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太宰作品の好きな言葉たち
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#読書

音に就いて

音に就いて

文字を読みながら、そこに表現されてある音響が
いつまでも耳にこびりついて
離れないことがあるだろう。

太宰治「音に就いて」

▷小説と音楽
太宰とは逆の意見だし
作品とはまったく関係はないけれど
読書をするときに思い浮かぶ歌がある。

現代小説の多くでは
「なぜその音楽をつかうか」によって
作品の方向性とか今後を示唆するものが多い。

だからこそ、小説に音楽が出てくる場合には
必ずその音楽を聴き

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富嶽百景

富嶽百景

私は、ふたりの姿をレンズから追放して、
ただ富士山だけを、レンズ一ぱいにキャッチして、
富士山、さようなら、お世話になりました。
パチリ。

『富嶽百景』太宰治

つい先日、去年の夏に出かけた時の写真が
送られてきた。

雲ひとつない空の下。

この写真を見るまでは、あの日の空のことを
思い出すことができなかった。

とっても楽しくて、とにかく笑っていたし
満足をしていたことは間違い無いのに
断片

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断崖の錯覚

断崖の錯覚

夜明けのまちには、人ひとり通らなかった。
私たちは、未来のさまざまな幸福を語り合って、
胸をおどらせた。

『断崖の錯覚』太宰治

「大人になったら、何になりたかったですか?」
「大人になったら、どうなりたかったですか?」

小学生の頃に夢を見ていた将来の夢。
叶えることはできなかったけど、特に後悔はない。

なんとなくかっこいいなと思っていたくらいで
正直なところ本気じゃなかったのかなと思う。

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服装に就いて

服装に就いて

あの人の弱さが、
かえって私に生きて行こうという希望を与える。

『服装に就いて』太宰治

太宰のいう「弱さ」という言葉が好き。

強いから与えてもらえる希望もたくさんある。

でも、「弱さ」だからこそ与えてもらえる
小さな「希望」というか。

例えて言うなら

寒い日に入るこたつの温もりじゃなくて
外を散歩していて見つけた日向みたいな場所。

街頭の灯りに照らされた道よりも
海辺で見る月明かりと

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火の鳥

火の鳥

よろこびも、信仰も、感謝も、苦悩も、狂乱も、
憎悪も、愛撫も、みんな刹那だ。その場限りだ。

『火の鳥』太宰治

土曜日は、心が温かくなるようなことがあって
日曜日は、人の背中を押して感謝されて
月曜日は、怠惰を極めた自分への憎悪が膨れて
火曜日は、終わらない仕事に苦悩して
水曜日は、懐かしい思い出をみてよろこんだ。

でも、どれもこれもが「刹那」「その場限り」
感情とか、思いなんてものは一瞬なの

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チャンス

チャンス

人間が人間を「愛する」というのは、
なみなみならぬ事である。
容易なわざではないのである。

『チャンス』太宰治

好きなことだけを好きなだけして生きたい。
すべきことじゃなくて、やりたいことだけしたい。

それを叶えるためには、すべきことをやって
信頼というものを勝ち取ってはじめて
与えてもらえるものなんだと思う。

子どもの頃、もっともっとわがままを言って
自由に好き放題してればよかった。

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フォスフォレッスセンス

フォスフォレッスセンス

私は、この社会と、全く切りはなされた別の世界で生きている数時間を持っている。それは、私の眠っている間の数時間である。私はこの地球の、どこにも絶対に無い美しい風景を、たしかにこの眼で見て、しかもなお忘れずに記憶している。

『フォスフォレッスセンス』太宰治

今日は「惰眠を貪る」と決めて眠る日が好きだし
人間の三大欲求のうち「睡眠欲」があるわけだから
眠ることが好きでもなんの問題もない。

最近、リ

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二十世紀旗手

二十世紀旗手

私の欲していたもの、全世界ではなかった。
百年の名声でもなかった。
タンポポの花一輪の信頼が欲しくて、
チサの葉いちまいのなぐさめが欲しくて、
一生を棒に振った。

『二十世紀旗手』太宰治

自分の人生の最期なにを思うのだろう。
そんなことを考えさせてくれる言葉。

恋をして、結婚して、子供を育てたり
友達と遊んで過ごしたり、好きな仕事したり。

時間の使い方は生まれた人間の数で
誰一人として同じ

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弱者の糧

弱者の糧

映画を好む人には、弱虫が多い。
私にしても、心の弱っている時に、
ふらと映画館に吸い込まれる。

『弱者の糧』太宰治

太宰のいう心の弱い人は「真暗い」中で
「全く世間と離れている」場所を意図的に
作らなければ心が休まらないのだと思う。

常に誰かに奉仕し続けるような毎日を
送っていたら、1人になる時間を意図的に
作らない限り弱くもなれないのだと思ったら
「1人」を好む人間も「弱者」なのではないか

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ヴィヨンの妻

ヴィヨンの妻

人間三百六十五日、何の心配も無い日が、
一日、いや半日あったら、それは仕合せな人間です。

『ヴィヨンの妻』太宰治

「何の心配も無い日」なんてものを過ごしたこと
ほとんどないかもしれない。
何かに焦って、考えて、眠りについて朝が来る。

それでも誰かと時間を共有しているときとか
仕事をしている時には、「心配」ではなく
何かにときめきを覚えている瞬間があるから
私は幸せ者だと思う。

こういう日常

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女生徒

女生徒

眼鏡をとって、遠くを見るのが好きだ。
全体がかすんで、夢のように、覗き絵みたいに、すばらしい。汚ないものなんて、何も見えない。
大きいものだけ、鮮明な、強い色、光だけが目にはいって来る。
『女生徒』 太宰治

このセリフを知った時「!!!」となったのは
多分高校生の冬の時期だったと思う。

クリスマスの時期、まちをぼんやり眺めていると
強く印象的な光が目に飛び込んでくるのに
どこかぼんやりとして、

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田舎者

田舎者

私は、青森県北津軽郡というところで、生れました。今官一とは、同郷であります。彼も、なかなかの、田舎者ですが、私のさとは、彼の生れ在所より、更に十里も山奥でありますから、何をかくそう、私は、もっとひどい田舎者なのであります。
『田舎者』太宰治

▷「田舎」という言葉①都会から離れた場所
②田や畑があるのどかな場所
③故郷

田舎という言葉にも沢山の意味がある。

私の生まれ育った場所まで随分と田舎で

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かくめい

かくめい

じぶんで、したことは、そのように、はっきり言わなければ、かくめいも何も、おこなわれません。

じぶんで、そうしても、他におこないをしたく思って、にんげんは、こうしなければならぬ、などとおっしゃっているうちは、にんげんの底からの革命が、いつまでも、できないのです。

「かくめい」『太宰治』

人に言われてなにかを成し遂げるときほど
やりたくないという気持ちになることはない。

あれも、これも、それも

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