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女生徒


眼鏡をとって、遠くを見るのが好きだ。
全体がかすんで、夢のように、覗き絵みたいに、すばらしい。汚ないものなんて、何も見えない。
大きいものだけ、鮮明な、強い色、光だけが目にはいって来る。
『女生徒』 太宰治

このセリフを知った時「!!!」となったのは
多分高校生の冬の時期だったと思う。

クリスマスの時期、まちをぼんやり眺めていると
強く印象的な光が目に飛び込んでくるのに
どこかぼんやりとして、美しいと思うものだけが
くっきり見えるような体験をそれから何度かある。

こんなにも思春期の女性心理を捉えた小説って
他にあるのだろうか!くらいびっくりした。
ただ、太宰がもらったファンレターを元に作ったと
何かで目にした時には「あ、よかった」と思った。

こんな気持ちまで体験していたら
単純にずるいと思った。
特別な経験だからこそ実体験としての語りではなく
小説の中だけで語られる言葉であってほしいと
その時思ったのを覚えている。

女生徒に出会ってからは10年以上の月日が流れて
こんな気持ちを持ったこともあるなと
どこか懐かしい気持ちになる。

実は、仕事で昇格をした。
10年前の私が、今こうなることは
誰も想像していなかったし、もちろん自分が
一番衝撃を受けている。

本を読むことが好き。
それ以外に好きなことなんてなくて
高校生になるかどうかも悩んだ時代があって
それでも、ちょっと大人になったいま
懐かしい感情を思い起こす小説が懐かしくなった。

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