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太宰治のことば

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太宰作品の好きな言葉たち
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2021年3月の記事一覧

やめる勇気『ダス・ゲマイネ』

やめる勇気『ダス・ゲマイネ』

面白くねえや。
君にはわるいけれども、僕は、やめる。

『ダス・ゲマイネ』太宰治

真っ黒の画面に映る自分の顔。
眉間にシワのあとをみて、心底嫌になる。

全部、全部背負い込むとその荷物が重たくて
抱えきれなくなってしまう。

仕事だってそうだ。
抱えられるには限界があるし、足らずもあって
私が完璧じゃないのに他人に完璧を求めすぎた。

いつだって、高いクオリティを求めようとするたび
息が詰まって

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縁の下の力持ち『皮膚と心』

縁の下の力持ち『皮膚と心』

世間のひと皆、新聞の美しい広告を見ても、その図案工を思い尋ねることなど無いでしょう。図案工なんて、ほんとうに縁の下の力持ちみたいなものですのね。私だって、あの人のお嫁さんになって、しばらく経って、それからはじめて気がついたほどでございますもの。

『皮膚と心』太宰治

「縁の下の力持ち」
誰かに賞賛されるために作っているわけではないし
裏側を知らないひとには、名前も知られない仕事。

そんな仕事を

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日常の疲れ『ダス・ゲマイネ』

日常の疲れ『ダス・ゲマイネ』

けれども私は、そのころすべてにだらしなくなっていて、ほとんど私の身にくっついてしまったかのようにも思われていたその賢明な、怪我の少い身構えの法をさえ持ち堪えることができず、謂わば手放しで、節度のない恋をした。好きなのだから仕様がないという嗄れた呟きが、私の思想の全部であった。

『ダス・ゲマイネ』太宰治

自分の人生、自由に生きたい。
誰からも、何からも縛られたくない。

自由を手にするために、必

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愛情を消耗しない『斜陽』

愛情を消耗しない『斜陽』

「人間は、万物の霊長だなんて威張っているけど、
ちっとも他の動物と本質的なちがいが無いみたいでしょう?ところがね、お母さま、たった一つあったの。おわかりにならないでしょう。他の生き物には絶対に無くて、人間にだけあるもの。それはね、ひめごと、というものよ。いかが?」

『斜陽』太宰治

陽が沈む春の空。
夕暮れどきに想うこと。



人間にしかできないこと
・嘘をつくこと
・ひめごと

動物に感情

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カタチのない「愛」とは『思案の敗北』

カタチのない「愛」とは『思案の敗北』

何を書こうか。
こんな言葉は、どうだ。
「愛は、この世に存在する。きっと、在る。見つからぬのは、愛の表現である。その作法である。」

『思案の敗北』太宰治

「恋」と書くと、恋仲の相手を想う気持ちなどが
描かれていることが多い。

「愛」というのは「色恋」のことだけではないし
太宰の作品に多く描かれる「人間」というものを
表現するために必要な言葉が「愛」だと思う。

けれど、わたしには「愛」が何か

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個性についてひとりごと『東京だより』

個性についてひとりごと『東京だより』

どの子もみんな、同じ様な顔をしています。
年の頃さえ、はっきり見当がつきません。
全部をおかみに捧げ切ると、人間は、顔の特徴も年恰好も綺麗に失ってしまうものかも知れません。
東京の街を行進している時だけでなく、この女の子たちの作業中あるいは執務中の姿を見ると、なお一層、ひとりひとりの特徴を失い、所謂「個人事情」も何も忘れて、お国のために精出しているのが、よくわかるような気がします。

『東京だより

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テープの先のゴール『虚構の春』

テープの先のゴール『虚構の春』

その自信を持たしてくれるのは、自分の仕事の出来栄えである。循環する理論である。だから自信のあるものが勝ちである。

『虚構の春』太宰治

さて、この言葉を引用するのはこれで2回目。

でも、前回とは状況が異なる。

これをしないといけない、あれもやらないと。
タスクばかりが増えていく働き方は悪くない。

けれど、学生の頃に思っていた
「歯車みたいになりたいくない」といった
自分に嘘をついているよう

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伝えたいこと『新郎』②

伝えたいこと『新郎』②

好きな人には、一刻も早くいつわらぬ思いを飾らず
打ちあけて置くがよい。
きたない打算は、やめるがよい。
率直な行動には、悔いが無い。
あとは天意におまかせするばかりなのだ。

『新郎』太宰治

「あのとき、伝えておけば良かった。」
「我慢しなければ良かった。」

と後悔しても、時間は戻ってこない。
恥ずかしくても、ぶっきらぼうでも
想いを「打ち明ける」というのは必要だと思う。



時が経てば経

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惰眠『懶惰の歌留多』

惰眠『懶惰の歌留多』

私の数ある悪徳の中で、最も顕著の悪徳は、怠惰である。これは、もう、疑いをいれない。よほどのものである。こと、怠惰に関してだけは、私は、ほんものである。まさか、それを自慢しているわけではない。ほとほと、自分でも呆れている。私の、これは、最大欠陥である。たしかに、恥ずべき、欠陥である。

『懶惰の歌留多』太宰治

字面はカッコいい。
高尚な言葉に見えたりもするけれど
「怠惰」怠け者。

意思だけはあっ

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祝・結婚『葉桜と魔笛』

祝・結婚『葉桜と魔笛』

神さまは、きっとどこかで見ています。
僕は、それを信じています。
あなたも、僕も、ともに神の寵児です。
きっと、美しい結婚できます。

『葉桜と魔笛』太宰治

友人歴20年の友達からの報告。
「今年の夏、結婚することになったよ。」

多分、これまでの人生でTOP5に入るほどの
嬉しい報告だった。

恋なんてまだ知らない時から一番近くにいて
はじめて彼氏ができた時も、別れた時も
散々な恋愛をして、も

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『走れメロス』の泉と仕事のやる気

『走れメロス』の泉と仕事のやる気

歩ける。行こう。
肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。

『走れメロス』太宰治

これは、親友セリヌンティウスのために
邪智暴虐な王を見返すために、メロスが走り続け
泉で水を飲むシーンだ。

メロスにとっての水は、今の私にとってはやる気。

24時間のうち、12時間は仕事をした。
でも、まだ12時間残ってる。
やれる、できる。

広報担当1年目。
clubhous

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カーテンをあける朝『古典風』

カーテンをあける朝『古典風』

女の子は声を立てずに慟哭をはじめた。
美濃は少し愉快になる。よい朝だと思った。

『古典風』太宰治

ピンポーン。
ピンポーン。
2回目のインターフォンの音で目が覚める。

始業の2時間前。
まだ少しだけ寝たい。

でも、せっかく早く起きたからと思い
セブンイレブンの新商品のパンのお供に
自分でコーヒーを淹れた朝食。

結局、ぼーっとしていられなくなって
洗い物・洗濯をしながらのclubhouse

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失敗園

失敗園

(わが陋屋には、六坪ほどの庭があるのだ。愚妻は、ここに、秩序も無く何やらかやら一ぱい植えたが、一見するに、すべて失敗の様子である。それら恥ずかしき身なりの植物たちが小声で囁き、私はそれを速記する。その声が、事実、聞えるのである。必ずしも、仏人ルナアル氏の真似でも無いのだ。では。)

『失敗園』太宰治

こんな書き出しのあとに続くのは
「とうもろこし」と「トマト」の会話。
自分の背丈がどうとか、身の

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葉

「小説を、くだらないとは思わぬ。
おれには、ただ少しまだるっこいだけである。
たった一行の真実を言いたいばかりに
百頁の雰囲気をこしらえている」
私は言い憎そうに、考え考えしながら答えた。

「ほんとうに、言葉は短いほどよい。それだけで、信じさせることができるならば」

『葉』太宰治

長い言葉をつらつらと述べるよりも
たった一言の、言葉に救われることの方が多い。

伝えたいことは山ほどあるけれど

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