ヤミナベ(シネマンガ)

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沈む夕陽

居ても立っても居られず、私は家を飛び出ていた。 空は薄っすらと夕間暮れて茜色が差しており、普段であれば御夕飯の支度を始める頃合いだろう。 オルキス様は只の他人に過ぎない上に居候の身である私に、何かを課す様な事は殆どされないものの、酒場の営業日以外は大体決まって、一緒に夕食作りをするのが習慣になっていた。 お優しいオルキス様の事だから、きっと私を咎めなさったりはしないだろうけれど、そんな寛容な彼女を困らせてしまう事が却ってとても心苦しい。 だけど、私が今のこころの状態でお手

    • ヴァサップ童話 メアデレラ

      昔々。ある所にメアデレラという年頃の女の子がいました。メアデレラに父親はおらず、その再婚相手である継母と、連れ子の二人の姉に毎日苛められ、料理に掃除にと扱き使われていました。 継母(⚰)「メアデレラ、掃除は?」 メアデレラ(🧵)「あっ…忘れてた…今からする…」 姉1(🎃)「メアデレラ、お腹空いたんだけど」 メアデレラ(🧵)「わたしもお腹空いた…」 姉2(💀)「メ、メアデレラサン、オセンタク、ハ」 メアデレラ(🧵)「寒くて手がかじかんじゃって…」 継母(⚰)「もう良い、アタシ

      • 資料:武術寺院について

        武術寺院とは 大陸のとある国(中国モチーフ)に存在する施設、または其処を拠点とする非営利組織の呼称。肉体的鍛錬は勿論として、所謂ヴァサラ戦記本編の『極み』とは別ベクトルの、波動を用いた技術を門下生に伝授している。 用語解説:『纏身(てんしん)』 武術寺院で指導される技術の、基礎にして極意と呼べる概念。 本編中では『波動』が火や電撃、風などのある種性質や実体を持っている『極み』とは異なり、自身の『波動』を体内に循環させ、身体能力・知覚能力・肉体強度を強化する。強化される前後のそ

        • ロックの神様と息子と嫁

          何も無いが、それが却って良いこの野原。 視界を遮る人工物が一つもなく、地平線と雲一つ無い青い空とが一体化している。群生している背の高い向日葵は、夏だと言うのに爽やかで涼しい風に吹かれ、気持ち良さそうに揺れていた。 「……何年前かな」 ここを教えてくれた"あの人"に想いを馳せ、たった七日程度の…しかし四十を過ぎた今も尚、人生で最も濃く鮮やかな夏は、どれ程昔の事だったかと。 カルノはらしくもなく、ノスタルジックに呟く。 「もう、何考えてるの?」 そう声を掛けられて漸く、共に大きな

          人形作家の日記

          「◯◯ちゃんはお人形さんみたいね」 うん。ママ。わたしね、お人形さんみたいにね、とってもとってもきれいなひとになるの。 ママはわたしがそういうとよろこぶ。わたしをたくさん、やさしくわらってなでてくれる。 だからわたしはママがすき。 ママはとってもきれいなひと。まちでいちばんきれいなひとで、かんばんむすめだったらしい。 かんばんむすめがなにかわからないけど、たぶんままがそうだったなら、きっとべっぴんさんっていみなんだとおもう。ままはきれいだから、おとこのひとはみんなママのことが

          IFストーリー② 約束を守る女

          一話 目を覚まし、カルノはベッドから体を起こした。 腕を伸ばせば届く位置に、カーテンがある。 開いて窓から外を覗くと、日はまだ昇っていない。 まぁ、時間的には却ってちょうど良い。 隣で眠る彼女を起こさない様に気を付けて、静かにベッドを抜け出して動きやすい服装に着替える。 カルノは一応、手紙にそう遠くない所へ出掛ける旨を書き留めて、すぅすぅと穏やかな寝息を立てる恋人の頬に、行ってきますのキスをした。 季節は夏。 と言っても、"うだる様な"なんて枕詞は似合わない位には過ごしや

          IFストーリー② 約束を守る女

          劇場版ヴァサラ戦記 史上最強の花嫁【予告編で幹部とボスが紹介される雰囲気】

          巨大な蒸気船の、会議室内。 ただ会議をする為と言うにはいささか過剰に豪勢な調度品が揃えられたその部屋には、景気も良い事に天井からシャンデリアすら吊り下がっている。 何ならルーレットやキノ、マネーホイールといったカジノゲームのテーブルや、ビリヤード台、壁にはダーツ盤も掛かっている。 世界最高級ホテルの遊興室と言って差し支えない。 そんなやけにギラついた部屋に、四人の男女が一つの四角いテーブルを囲って座っていた。 「あのさぁ…今回の航海の目的、知ってるよ〜って人、居ちゃったりしま

          劇場版ヴァサラ戦記 史上最強の花嫁【予告編で幹部とボスが紹介される雰囲気】

          IFルート 蠍と傷①

          ポイゾナは木のテーブルに倒れ込む様に、落ちるように額を強く打ち付けた。右手に持ったジョッキはその勢いで横に倒れてしまいそうになったが、すんでの所でテーブルを挟み、向かい合わせに座っているナラクがそれを手で受け止める。 「大丈夫か?飲み過ぎだろ。」 ポイゾナは突っ伏したまま、 「……うん、ごめん…。」 と言って、目線だけをナラクに向けた。 「あ…。止めてくれてあんがとな…。」 普段は何処に居ても基本的に人目を憚る事が無いポイゾナも、今夜ばかりは様子が違っていた。普通の会話でも1

          IFルート 蠍と傷①

          エピソード0.? 狭間伝 蛇と蠍

          ※本編のキャラは出ません…へへへ…すみません… 地下へと続く階段を降りる。 苔が生える位に湿って、気にしようと思えばやや埃っぽい程度の匂いがする階段を。 女は、一人である。 これは別に格好良い言い回しをしたいという訳では無くて、実際にその女は一人だった。 灰色の長髪。それを一本に束ねて蛇の剥製を巻き付け、前に垂らしている。嘘みたいに珍妙な髪型であるが、それも不思議と様になる程の美型だ。 瞳は琥珀色。瞳孔が縦に伸びた、裂ける様に鋭い爬虫類の目付き。肌の白さも相俟って、まるで大

          エピソード0.? 狭間伝 蛇と蠍

          エピソード0 最強の微風

          ※注意。本小説内にはヴァサラ戦記本編のキャラクターが登場しません。其処のところ、どうか御許しください。 「なぁ。」 青緑の髪に、向かって右側の口元から目元までの、裂ける様な生々しい派手な傷が目立つ男は、食事の手を止めて切り出した。 「ん?」 一応聞いている事は示すものの、構わずにシチューを口に運ぶのは少年で、歯も、目元をほとんど覆っている黄色い前髪も鋭くギザギザである。少年の名前はカルノ。 向かい合っているスカーフェイスの男の名はナラクと言い、カルノの師に当たる人物であった

          エピソード0 最強の微風

          幽鬼伝エピソードオブカヤオ 中編

          「あれ…、オルキスさん?」 少し休憩する為に切り株に腰掛けたのが、五分程前。任務に同行していたオルキスの姿が視界から消えたのも、それとほぼ同時。 周囲を見回してみても、オルキスの影も形も見ることが出来ない。こんな状況下、任務中に隠れて脅かそうという、ふざけた性格では無い事も分かっている。 そもそも自分が彼女から目を離したのは、水筒の水を飲んでいたほんの十秒位だ。そんな短時間で音も立てずに隠れられるのか? カヤオは自身の《極み》の影響で、視覚・聴覚・嗅覚がいずれも常人の倍以上に

          幽鬼伝エピソードオブカヤオ 中編

          幽鬼伝 エピソードオブカヤオ

          左前の死に装束。真っ直ぐ伸びた長い黒髪。 病的に青白い肌。光の無い大きな黒い目。 「…こんばんは。お逢いしたかったです。」 そんな“ぽい”見た目の者が、“ぽい”セリフを出会い頭に掛けてきたら、誰でも腰が抜ける。 「ひゃい…ワ…タシもです…」 それを、実は霊的な方向にはヴァサラ軍一のビビりであるオルキスが、情けないヘニャヘニャの声を出すに留まっている現状は、彼女の普段の騎士然とした高圧的な態度を抜きにするとしても、かなり珍しい物だった。 強調しておくが、“怯えていること”が珍し

          幽鬼伝 エピソードオブカヤオ

          ヴァサラ戦記非公式外伝《拳神伝》エピソードオブファンファン第三話

          「…。強いですよ。」クガイは言った。 「端的に…化け物です。」ツキも言った。 「ありゃあ…無理だな。」カルノすら言った。 経歴も性格も、何もかもが異なる三人は、質問に対して殆んど同様の答えを示した。 クガイは、頭にきつく包帯を巻いていた。 彼の全身を見れば、あちこちに湿布が貼られている事、脚をギプスで固定している事など 一瞬で判る物だが、それでもパッと見て一番目立つ変化は、彼が整っている顔と派手な髪色であるからか、やはり頭部の処置である。 ハズキの診療室のベッドに寝ていた彼

          ヴァサラ戦記非公式外伝《拳神伝》エピソードオブファンファン第三話

          ヴァサラ戦記非公式外伝《拳神伝》エピソードオブファンファン 第二・五話

          注意書―今回、ファンファンの出番はありません。ごめんなさいね。 「く~だらねぇと~、つ~ぶやいてぇ~//」 その男―クガイは、明らかに泥酔していた。 「冷めた面ァ~して歩ぅ~くぅ~…っと…//」 何だかご機嫌に、少なくとも、この時代のこの国には有る筈が無い歌を、大声でご機嫌に歌いながら、ふらふらとした千鳥足で繁華街を歩いていた。 アルコールが回っているのは当然脳味噌だけでは無いらしく、顔も紅潮している。 この男を知る人物からすれば其処まで珍しい事では無いかも知れないが、今日

          ヴァサラ戦記非公式外伝《拳神伝》エピソードオブファンファン 第二・五話

          ヴァサラ戦記非公式外伝《拳神伝》エピソードオブファンファン 第二話

          「拳神(ケンズィン)―ファンファン。」 この国の人間とは顔立ちの雰囲気が異なる、ボサボサの長髪に細い目の男は、極めて気だるげに、そう名乗った。 空中で飛び蹴りを止める離れ業をこなしている人間の割には、表情に覇気や威圧の色はそこまで無い。寧ろ、自分は面倒な貰い事故に遭遇した被害者である―そうとでも言いたげな、気だるげで煩わしそうな態度だ。 「…全く、何がどうなってるアルか。」 しつこい蝿でも払う様に、長髪の男―“拳神”のファンファンは、拳法着の男を放り投げた。 拳法着の男は後方

          ヴァサラ戦記非公式外伝《拳神伝》エピソードオブファンファン 第二話

          ヴァサラ戦記非公式外伝  《拳神伝》         エピソードオブファンファン

          本作品は非公式外伝です。原作との設定の矛盾・時系列上の問題等があった場合も御愛敬という事で御願い致します。 ―帝王カムイが復活を遂げ、猛威を奮っている現在より遡る事、少々。覇王を夢見た少年―ジンが、見習いとして入隊した直後の話。 嘗ての戦争の勝利者として王国を統治し、此れを今日まで守護して来た、総督ヴァサラ率いる通称「ヴァサラ軍」。 時には弱き民の剣となり、時には盾となる彼等の軍勢の最高戦力―《十二神将》。民衆からは畏敬の念を込めて、いずれも神と呼ばれる歴戦の英雄達である

          ヴァサラ戦記非公式外伝  《拳神伝》         エピソードオブファンファン