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劇場版ヴァサラ戦記 史上最強の花嫁【予告編で幹部とボスが紹介される雰囲気】

巨大な蒸気船の、会議室内。
ただ会議をする為と言うにはいささか過剰に豪勢な調度品が揃えられたその部屋には、景気も良い事に天井からシャンデリアすら吊り下がっている。
何ならルーレットやキノ、マネーホイールといったカジノゲームのテーブルや、ビリヤード台、壁にはダーツ盤も掛かっている。
世界最高級ホテルの遊興室と言って差し支えない。
そんなやけにギラついた部屋に、四人の男女が一つの四角いテーブルを囲って座っていた。
「あのさぁ…今回の航海の目的、知ってるよ〜って人、居ちゃったりします?」
椅子の背もたれ部分を前に向け、そこに凭れ掛かる様に座っている男は気だるげにそう言った。
舞踏会で被る様な仮面で顔を隠し、髪は前髪が白で左右は青とピンクに別れた長髪。着ているのは襟が立ったドギツいピンクの燕尾服、おまけに身長は凡そ2mはあろうかと、この部屋の四人の中で
…いや、世界中を探したとしても恐らく最も怪しい格好をしている道化師の様な男は、肩書きらしいといえばらしいおちゃらけた態度で、ひらひらと手を振って、他の三人に呼び掛けた。
しかし、三人の問への返答は沈黙であった。
なーんだ、と、道化師は小さく溜息をつく。
「…姫はサプライズがお好きなのです。彼女が黙っているのはお考えが有っての事。」
灰色の髪で、黒い軍服を身に纏った整った顔の男は
道化師にそう答えた。
「そうよ。お姫様は我々に全幅の信頼を寄せて下さっているの。その上で何も知らされていないなら知らないで、それで良いでしょう?」
青く綺麗な髪を後ろで纏め、胸元の開いた衣装の上に白衣を羽織り、眼鏡を掛けた知的な空気と艶っぽさを併せ持った女性が同調する。
「え〜、つまんないですねぇ。てか、こうして僕が退屈してる以上、姫サマのサプライズ計画は半分頓挫してる訳じゃないですか?」
不満そうに言った道化師の言葉に、軍服の男が片方の眉を小さく吊り上げた。
「…いや、言い分を聞きましょうか。ホロウ。」
「…お。なになに、こんな事で一々怒らないで下さいよ、ミラ。ね、ラブアンドピース。」
笑いながら、ホロウと呼ばれた男はミラと呼ばれた男を片手で制する様にした。
「キミが姫サマの美しさにメロメロでゾッコンなのは解ってるし、ボクも姫サマの事は大好きですよ?でも、つまんないと感じるかどうかは別問題じゃないですか?違います?」
「…。なるほど、貴様のふざけた尺度は知らんが、姫を愚弄している事は分かった。」
ミラは表情を鋭く険しい物へと変えて、自分の椅子を後ろに蹴って立ち上がった。
「ちょっとちょっと。話を聞いて下さいよ。今のボクの発言の何処に姫サマを馬鹿にしてる内容があったって言うんですか?」
へらへらしながら、ホロウも立ち上がる。
「下らない争いなら外でやって頂戴。こんな事で殺し合われちゃ、折角お姫様に与えられた四天王の座が直ぐに減っちゃうわ。」
「下らない…、マギア、今そう言いましたか?」
ミラは辛うじて丁寧な口調のままではあるが、青髪の女性…マギアにも鋭い視線を向けた。
「えぇ…。そんな事でわざわざ腹を立てる貴方の短気さが下らないと言ったのよ。我々にはお姫様の大恩に報いて忠義を尽くす義理はあっても、仲良しごっこをしている道理は無いわ。」
マギアは少し面倒そうに、やれやれと首を振りながらミラに言葉を返す。
「マギア、…そしてホロウ貴様も、姫様の寛大な恩赦が無ければ、今頃胴と首が共に無い大罪人であるという事を忘れるなよ。一度救われた命は、魂までも捧げるのが道理では無いのか。」
「あー、固いですねぇ。彫像大好き君は脳味噌までも石になっちゃったんですかねぇ?」
ホロウは実に嫌味ったらしく笑いながらこめかみをトントン叩き、ミラを煽る。
「…。貴様の様に品が悪い男は姫様の側近に相応しく無い。此処で消えるのが良いだろうな。」
そう吐き捨てながら腕を伸ばしたミラの手には、何時の間にか石の剣が握られていた。
「…ふぅん。出来るモンならやっちゃってみて下さいよ。それと、ご自身も薄汚い人殺しである事をお忘れなく。ミラ君。」
ホロウは唇を舌で舐めながら、八重歯を覗かせた口角をニィッと上げた。
「はぁ…男ってのは血の気が多くて駄目ね。クールにお話しする事も出来ないのかしら。」
マギアは大きく長い溜息をついて、脚を組み直す。
それから、対面に座っている少女を見遣った。
「ねぇ、レイン。貴女も何か言ったらどうなの?」
レインと呼ばれた少女は、他三人と同じ四天王の肩書を持っているとは思えない程に、自身無さげに俯いていた。ほぼ白の薄い水色で、ツンツンとした髪質のショートヘア。黒いカチューシャを着けていて同じく黒のゴシック調の服を違和感なく着こなしており、佇まいには何処か高貴な雰囲気も漂ってさえいる。そんな彼女はマギアに声を掛けられて漸く、今日始めて濃い隈の付いた灰色の視線を上げた。
「……。僕は、殿下が居なきゃ無価値だから…その…皆で仲良くしないと…駄目だと…」
元々大きい声を出していた訳でも無いのに、次第にレイン(本名はレインテイカー)の語気は風船の空気が抜けていく様に、次第に小さくなっていった。
「レイン…、捲き込まれたくなければ下がっていて下さい。貴女が怪我をしたら姫様が悲しみます。」
ミラはレインにだけ少し穏やかな視線を向けて、再びホロウを睨み付けた。
「小さい女の子には優しいんですねぇ…。やっぱり芸術家ってのは、少女趣向の変態ばっかなんです?」
「…はっ、児童誘拐犯のイカれた道化師が、一体誰を見て何を言っているのか。」
「おややミラ君、耳にも石膏が詰まってますか?」
「…ったくもう、私は知らないわよ。」
「駄目です…喧嘩は…」
額に手を遣り呆れた様に言うマギアと、消え入りそうな声でブツブツと仲裁するレインの声は聞こえていないかのように、二人は互いの視線を向け合ったまま、テーブルから離れる。
それから十分と言えそうなスペースを確認すると、
改めて向き合った。
ミラはそれだけで射殺せそうに鋭い視線を、ホロウは嘲笑う様に、ねっとりとした視線を。
二人の間には、火花が音を立てて散っていた。
常人であれば息が詰まりそうな緊張感が漂う中、二人が何かの拍子で同時に動き出した。
ミラは持っていた石の剣を振り下ろし、ホロウは何処に隠し持っていたのか分からない大小二つの剣を抜き去った。
それらが、激しい金属音を立てて空中で止まる。
畳んだ状態の黒い、傘に拠って。
二つの…ホロウは二太刀なので合計三つの剣戟に割って入ってこれを止めたのは、レインであった。
「喧嘩は駄目っつってんだろうが脳足りんがッ!
良い大人が二人も揃って喧嘩してぇのか!?」
先程迄の細々とした声色はどうしたのかと言う程、レインの表情も態度も、全く別人の様に荒々しく変わっていた。唇はわなわなと震えているが、それは怯えや不安では無く、憤りと興奮に拠ると見えた。
部屋の空気は、二人の殺気がぶつかっていた時とは段違いと言える程に、爆発寸前の匂いがしている。
マギアだけが座ったまま、肩を竦めていた。
地獄の様な拮抗した沈黙が漂う中。
どたどたと、酷く慌しい足音が近付いて来た。
「はーい皆様、ご機嫌よう!今日の昼食はカレーでしたわ!なんとチッッッッキンのカツも乗ってますの!わたくしお腹が空いちゃって、調理室まで出向いてメニューも聴いて来ましたわ!」
勢い良くドアを開けて、プラチナブロンドの少女が部屋へと入って来た。
「あら、皆様何かお取り込み中でしたの?」
どうやら彼女なりの大ニュースを持って来たつもりらしいが、思ったよりも反応が芳しく無かったので、少女は怪訝な顔をして部屋を見回した。
「「「「いえ、決して何も御座いません」」」」
四天王はそれだけを毎日練習している劇団の様に、声を揃えて、穏やかな笑顔で机についていた。
少女は、それなら何よりと深々と頷く。
「それともう一つ。」
少女はビシッと人差し指を立てた。
「もうすぐ…具体的には昼食が終わってすぐ頃に、この船は目的地に到着しますわ。」
少女は後ろで腕を組んで、それから黙る。
数秒経ってから、今度はぐるぐると四人が着いているテーブルの周りをゆったりと回り始めた。
目を閉じたまま、何かを待つように何周もする。
四天王はこれが一体何の時間なのか分からず、誰もが困惑の表情で沈黙し、ただ時間が過ぎる。
テーブルを五周ほどした時点で、ようやく少女は痺れを切らした様に、小声で何かを囁いた。
「…コンカイノモクテキハイッタイナンナンデスカ~」
全員が耳を澄まし、何度目かでやっと聴き取れた。
「「「「今回の目的は一体何なんですか?」」」」
我先にと競い合う様に、しかし四人は全く同時に、コンマ一秒のズレも無く声を揃えて言った。
「…うん!やっぱり皆様、そこが気になって仕方無いですわよね…!!特別に教えて差し上げますわ!」
姫はドンと胸を叩いて、ふふんと得意気に笑った。
「わたくし…プラチナ姫は、何と今回…!」
プラチナ姫は存分に勿体付ける。
姫が指を鳴らすと、甲板の上に控えていた音楽隊の物と思われるドラムロールが聞こえて来た。
期待と盛り上がりが最高潮に達した時。
プラチナ姫は声高々に宣言した。
「覇王ヴァサラの王国に、フィアンセを探す為に
やって来たのですわ!!!」

特別読み切り見開き:四天王登場
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劇場版メインビジュアル:
プラチナ・エタンセル・ルカヤルヴィ
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劇場版メインビジュアル:プラチナ姫と四天王
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